営業トークが苦手なWeb担当者に贈る30分の技、ヒントはご近所にあり
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百七十六
必死さという哀れ
今月中に利益が出なければ倒産してしまうのです。だからホームページで儲ける方法を教えてくさい!
という相談にこう答えます。
いますぐ街に出て飛び込み営業してください
ホームページからの注文で一発逆転が起こればニュースになりますが、めったに起こらない出来事がニュースです。それにホームページで稼ぐには準備や知識、経験が必要で、即効性なら「飛び込み営業」に軍配が上がります。
私は広告代理店に入社したばかりのころ「営業」が苦手でした。特に飛び込み。面識どころかアポ(訪問予約)のない企業や店舗に名刺一枚ぶら下げて「広告だしませんか?」と訪問するのです。営業活動には商談も含まれます。広告代理店の営業マンの仕事は1円でも多く、クライアントの広告予算をぶんどることです。ところが未経験で入社した私にはノウハウがなく、愛想笑いをしようとすれば顔面の筋肉が引きつります。困り果てた末に私がたどり着いたのは「ご近所」でした。
今回は、客先に出向いたときに会話が続かないWeb担当者向けの技を紹介します。
100人100通りの世界
初めて1人で行った飛び込み営業が成功したのは1000%偶然です。声をかけたアルバイトが、店長の名前と出社時間を教えてくれたのです。営業店舗には売り込みが多いことから、責任者に会うことすら難しく、居留守どころか店長本人がアルバイトのふりをして「店長はいません」と断られることもあり、「面談」が最初のハードルになります。店長の名前を知った私は、出社時間に合わせて再訪し、「●●店長」と名前を呼びかけて「面談」を実現すると、そのまま「商談」となり契約できました。しかし、この次に「面談」までこぎ着けるのは1か月以上先のこと。見事なビギナーズラックでした。
営業の師匠は、論点を整理せずにクライアントを混乱させながら発注書に判子を押させる技を持ち、同僚は顧客に取り入ることで「身内」のように振る舞い受注を獲ります。しかし、どちらも私にはできませんでした。なまじ最初の一件がスムーズだっただけに焦りと不安の泥沼に陥ります。まるで「無限ループ」です。
プログラマ的発見
無限ループとは永遠に同じ計算を繰り返す行為で、そこには必ず原因が存在します。そこで無限ループとなる理由を自己分析してみると、原因が見えてきました。
嘘がつけない
金銭授受が発生する取引で、お世辞を述べたり、些細なことを大袈裟に語ったりすることを詐欺のように感じる青臭さが無限ループの原因でした。飛び込み営業で「会話」が途切れたタイミングは、すなわち「帰れ(でていけ)」を意味します。念のためにフォローしておきますが、営業マンのすべてが嘘つきというのではありません。知識と経験があれば嘘など不用です。しかし、悲しいかな、未経験で入社した私は広告のトリビアも、営業のテクニックも持ち合わせていなかったのです。
原因はわかりました。ならば「対策」です。
チャンレンジ! 30分前行動
現況を聞き出し、会話を弾ませるのなら「嘘」ではありません。そこで、こんな小技を使ってみました。「最近どうですか?」と世間話を投げかけるのです。しかし、答えによって会話の内容を変えられるほどの「引き出し」はなく、沈黙はすぐに訪れます。そしてある日、客に
どうって……何が?
と返す刀で袈裟切りに切って落とされ、この技は封印しました。経験を積んだ今では使えますが、相手によって話題を変えるには高度なテクニックが必要です。
この経験から「引き出し」がないことを発見します。友人との会話なら何時間でも話し続けていられるという自信はもうありません。「内輪ネタ」は他人には通じないのです。そして以下の条件に適合する「ネタ」を探し始めました。
すぐに仕入れることができ、どの業種でも通じる
もっとも、先日紹介した「コラボ脳」を活用すれば、1つの「ネタ」ですべての業界を回れるのですが、当時の私は25才。コラボする脳力に気がつくのはこれから5年後です。
追い返そうとするオーラ
いまならホームページでネタを仕入れるという選択肢もあるのでしょうが、黎明期のネットに掲載されている情報量は少なく、また「便所の落書き度」は今の比ではありません。そこで目をつけたのが「ご近所」です。
飛び込み営業を始める30分前に、ターゲットの近所を歩き回ります。ランドマーク、公園、スーパーマーケット、あるいは「古民家」などをチェックしておき、訪問時にこう尋ねます。
裏手にある古民家はなんでしょう?
突然のご近所への質問に、セールスと身構えていた客の緊張が解け、会話が弾む……ことが増えました。近隣のライバル店を訪問し、そこで仕入れた情報をぶつけるのも有効です。実はこれも偶然の産物です。飛び込み先で店主の「帰れよ」というオーラを感じた刹那、苦し紛れに近所の公園について尋ねたところ、店の奥から奥様がでてきて、話題に食い付いたことが「ご近所情報」の有効性に気づいたきっかけです。余談ですが「奥さんを口説け(味方にしろ)」とは、亡き営業の師匠の言葉です。
「人を売る。」の、意味
地元に興味を持つものを嫌う人は少なく、なにより「嘘」は不用ですし、営業マンにとって取引先おかれている環境や競合先の調査は重要な要素ですので、一石二鳥です。そして、1つのエリアでご近所情報を訪ねているうちに地元住民より「地元情報」に詳しくなることもあり、重宝がられればしめたものです。もちろん「会話」が成立すればビジネスチャンスが広がるのは飛び込み営業だけではありません。
「打ち合わせ」も同じです。「会話」はコミュニケーション、人間関係を構築するツールです。そして人間関係ができあがれば、打ち合わせはスムーズとなり多少のトラブルも怖くありません。また雑談から別の案件につながることは日常茶飯事。
営業マンにはさまざまなタイプがおり、正解は1つではありません。ただし、自分に合った方法は必ずあります。「ご近所情報」は嘘をつかずに会話を長続きさせる1つの方法です。客先で会話が途切れ、沈黙を友達にするWeb担当者はぜひ一度お試しください。
今回のポイント
新鮮な「ネタ」を仕入れるならご近所情報。
たった30分のリサーチで人間関係を構築できるかも。
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