コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百八
テレビを見ないという人のビジネスモデル
ベストセラー作家でカリスマコンサルタントの勝間和代さんは、著書で「テレビは極力見るな」といいます。「万人向けに作られている」ことから中身が薄いと指摘します。ご自身が「ビートたけしのTVタックル」「久米宏のテレビってヤツは!?」に立て続けにでている姿に鼻白むものですが、私の事務所でテレビはつけっぱなしです。そしてWeb担当者にテレビは必需品と考えます。多くのWeb担当者の客はその万人だからです。
本稿をはじめ「三ノ宮純二」の原作、他サイトでの連載、そして週刊と隔週で無料メルマガを発行できるのはテレビのお陰です。ネタを仕入れるのではなく「テレビ」で紹介されることで「コンセンサス」ができたという目安となるからです。ちなみに自己啓発やビジネス書は「勉強好き」向けに企画され、いわゆる万人向けではありません。
ネットニュースよりテレビ
テレビ制作者は広く浅く一般大衆が興味を持ちそうなネタをチョイスします。このチョイスが「万人向けフィルタ」となり、専門知識や最先端の業界の話題に流れがちなWeb担当者の軌道修正に役立ちます。
眞鍋かをりさんが「ブログ普及委員会」の委員長に就任したのは、何を今さらと毒づきたくなる2005年の12月。2007年1月のNHKスペシャル「“グーグル革命”の衝撃 あなたの人生を“検索”が変える」の内容が、IT業界人にとってさして新しいものでなかったのも「フィルタ」により万人が理解できるように濾されていたからです。本当の最新情報は万人には理解されません。
ネットにテレビと同種の役割を期待するのは微妙です。ネット参加者の偏りは万人とはいえず、リアルタイムに更新されていくヘッドラインから、万人向けかどうかというコンセンサスを探るのは困難です。そして人気ニュースには「暇つぶし」というバイアスがかかります。本稿執筆時の1月19日のmixiでは「浮気のサインをチェックしよう」が「ニュース」として紹介されアクセス首位を飾っていました。「放送と通信の融合」で世間を騒がせていた当時のライブドア社長の「報道も人気に連動すべき」の答えを見る思いです。この点もテレビを推奨する理由です。
「おはスタ」という教材
サブタイトルに用いた「木下ベッカム」とは漫画「ペンギンの問題」の主人公ペンギンの名前で、ニンテンドーDSでゲーム化され小学生を中心に人気を博しています。女子児童には同じくDS「わがままファッション ガールズモード」も人気です。小学生のトレンドを書籍で仕入れるのは不可能で、ざっくりとおさえることができるのはテレビ東京系列で月~金曜日まで毎朝放送される「おはスタ(スーパーライブ)」だけです。ちなみに、ゲーム情報の「ファミ通.com」では、どちらのソフトも「ユーザーレビュー」に声はなく、ネットの中の「みんなの意見」には本当のユーザーの声が反映されないこともあることを知ります。
テレビのすべてを褒め称えるわけではありません。勝間さんが指摘するように中身は薄いので、各番組からコーナーを峻別してザッピングするとよいでしょう。
季節を教えてくれる場所
万人向けの情報を得られるのはテレビだけではありません。都市化により季節感は薄れ、核家族化で受け継がれてきた伝統的な季節行事は失われつつあります。正月、成人式、節分、卒業式、春のお彼岸などの様々な季節行事は購買意欲を喚起する万人向けのイベントです。季節行事は「つい」という無駄遣いを誘発できる商機で、都会でこれを教えてくれる場所が「スーパーマーケット」です。
スーパーマーケットでは関西の習慣である「恵方巻」など、日本全国津々浦々の季節行事を販売に活用します。近所のスーパーマーケット「ベルクス」では、福島県の一部の習慣である「三日とろろ」のPOPを作り1月3日に長芋を販売していました。まるで季節行事の展示会場です。そこにはネタが転がっています。Web担当者なら週に一回は足を運びたいものです。
活きた情報を得る方法
万人向けではありませんが、私が大切にしている情報入手先が「取引先」です。彼らの「現場の声」はビジネス書の何倍もの含蓄があり、コンサルタントが語る理屈の千倍の瑞々しさに溢れています。とあるクライアントは野党第一党の舞台裏の混乱を耳打ちし、スタミナ苑では景気の変化を客の様子から知ることができます。実は「木下ベッカム」も「ガールズファッション」も基本情報は「おはスタ」からですが、販売現場の実態はクライアントに聞いたものです。
活きた情報を得るコツは「本気の雑談」です。4時間の「打ち合わせ」のなかで仕事の話は15分だけというのは良くある話です。項目立てての質問は相手を身構えさせ、時には親切心からこちらの知りたい結論に話が捏造されることがあるからです。真実は本気の雑談から見つかります。
タイミングという情報
最後にまた、テレビのもたらす情報について述べます。書籍を読み、セミナーに足を運び、ネットで最新情報をチェックしたとしても得られない情報が「時代の空気」です。バラエティ番組をくだらないと批判するのは簡単ですが、「そんなの関係ねぇ(小島よしお)」「さぁ~ん(世界のなべあつ)」「ぐぅ~(エドはるみ)」、今なら「イエス、フォーリンラブ(フォーリンラブ)」を万人はおもしろおかしく生活に取り込んでいきます。ヤフー知恵袋ではフォーリンラブの決め台詞を「結婚式に使いたいが彼らの人気が今年の3月まであるか」という残酷な質問も真理を照らします。どんな優れた情報を持っていたとしても、早すぎては知識自慢の空回りとなり、遅すぎては無意味で、振り回されるのは論外だからです。木下ベッカムや三日とろろを空気を読んで使うところに妙味があり、Web担当者がKY(空気読めない)では困ったものです。そして万人向けの「時代の空気」という「情報」を収集するのにテレビは最適なのです。
本当に中身は薄いのですが。余談ですが「キー局」より東京MXテレビやケーブルテレビ足立といったローカル系のほうが目を惹く情報に出会います。
♪今回のポイント
情報収集は基礎トレーニング。
タイミングという情報収集にはテレビが便利。
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