企業ホームページ運営の心得

企業の「おこだわり」をクチコミさせる方法

客が理解することで「こだわり」になり、クチコミのネタになります
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の461

その「おこだわり」を

Marco_Piunti/iStock/Thinkstock

ネットで熱く支持されている清野とおる氏の漫画『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』。

他人から見ればどうでもいい、「こだわり」を漫画家が体験する「ルポ漫画」に共感の声が寄せられます。簡単にマネできるものが多く、その様子をSNSにあげることで、相乗効果が生まれているようです。この春には、本作を原案としたテレビドラマが松岡茉優主演で放送されていました。

そんな「おこだわり」。濃淡はあっても、どこの企業や店舗も持っているもの。うちはこだわっていないよ、というのも「こだわらないというこだわり」です。屁理屈ではない実例は後ほど。

そして、企業の「おこだわり」はそのまま「コンテンツ」となり「クチコミ」を誘発します。今回は「おこだわり」を「コンテンツ」にする方法の第一弾「モノ編」です。

こだわりとは何か

ほぼすべての業種や商品で使える修辞の「おこだわり」、もとい「こだわり」。残念ながら、正しく活用されているとはいえません。それはこだわりそのものを、正しく理解していないからでしょう。

こだわりとは、作り手だけが執着している仕様や作業手順、あるいは心がけのことです。つまり、「こだわりの○○○」とうたっただけで説明がないコンテンツ(ポップやチラシも含む)は論外だということ。さらに、お客が理解できる説明でなければなりません。

たとえば、次のように銘打ったとします。

足立市場の魚にこだわった海鮮丼

足立区千住の隅田川沿いにある「足立市場」は、都内で唯一の水産物専門の中央卸売市場。このこだわりは間違いではありませんが、足立市場に「築地」ほどの知名度はなく、足立市場に新鮮な魚が集まる理由を説明しなければ伝わりません。

冷やし始めました

これまでの例を踏まえて、「こだわりの冷やし中華」をコンテンツにする方法を考えてみます。

まず、こだわりを特定します。素材なのか、製法にあるのか、料理から視点をずらして器にこだわるというベクトルもあります。

素材にこだわっているとして、それは「具」「麺」「スープ」のどれなのか。仮にすべての素材にこだわっているとしたら、最もこだわっているものではなく、最もお客が理解しやすいこだわりにフォーカスします。ここがポイントです。

冷やし中華の具材にロースハムではなく、細切りチャーシューを使っているのがこだわりだとします。ならば、それは豚肉か鳥肉か、バラ肉かもも肉かを明示し、次のようにその理由を述べます。

当店の冷やし中華は、豚もも肉チャーシューを使っています。バラ肉は、温かいラーメンならスープの熱で表面が溶け、ふんわりとした食感になりますが、冷たいままだと脂がくどくなりがちです。豚のもも肉を低温調理でしっとりと仕上げれば、冷えても固くなりにくく、冷やし中華に合うさっぱりとした後味になります。

これが「クチコミさせるこだわり」となります。

こだわりは理解できるもの

ラーメンといえば、「無かんすい」や「無化調」などのこだわりを散見しますが、ラーメンマニアはともかく、一般人にはピンときません。その場で2種類のラーメンを並べて、食べ比べでもしない限り「わからない」というのが正直なところでしょう。その点「肉」なら、食べてみれば理解できます。お客が理解(体験)して初めてこだわりとなり、細かな説明がお客に語る言葉を与えます

多くのお客は、グルメレポーターではなく素人です。「うまい/まずい」か「好き/嫌い」の言葉しか持っていません。そこで豚のもも肉をチョイスした理由を説明します。お客が理解し、満足したあかつきには、「低温調理したチャーシューが美味しいのよ」と、第三者にこだわりを語りはじめます。

いわゆるクチコミであり、こだわりがクチコミのマニュアルとなります。事実、語弊を怖れて実名は避けますが、多くの「クチコミ」は、店が語ったこだわりです。「熟成肉」などはその代表例。ちなみに伝わらなければ「独りよがり」と同義です。

ブランド牛でなくてもいい

先に触れたように「こだわりがない」というのも立派なこだわりになります。

牛肉は松阪牛を筆頭に、宮崎牛、米沢牛など「ブランド牛」があり、丸々一頭を仕入れる「一頭買い」を看板にする焼き肉店もあるなか、ある超人気の焼き肉店は牛肉の銘柄にこだわりをもちません。理由をたずねると「牛は生きもの、うまいまずいがある」とぴしゃり。

需要と供給で価格はバラつき、生産量も工業製品のような生産管理は難しく、尚かつ個体差がある。銘柄にこだわれば、高値でも仕入れなければならず、そのくせ高いとうまいが連動するわけではない。だから「そのとき、最高の牛肉」を仕入れるので、ブランド牛にこだわりがない、と。もちろん、これも立派なこだわりです。

「こだわらない」にこだわる

ある場末の居酒屋は、仕入れ先がスーパーマーケットであることを、こだわりとしてコンテンツに仕立てたことがあります。特別なスーパーではなく、自動車で回れる範囲の店をハシゴして間に合わせています。

市場にいけば、より新鮮で、より安い商品もありますが、野菜などはダンボール箱単位での購入が基本で、小さな居酒屋では持て余します。腐ってしまったならば、その分まで原価となり割高です。なにより「スーパー」は侮れません。彼らも小売り商売のプロであり、良い品を仕入れて並べなければ、他店にお客を奪われてしまいます。

だから、どの店のバイヤーも、良い品をより安く仕入れるためにアンテナを張り巡らせています。A店は豚肉に強いが牛肉は弱く、B店は新鮮な丸魚を扱っているといった「得手不得手」があり、それらを使い分けて「仕入れ先を厳選している」と切り出したのです。そこに、本稿の次回予定「こだわりコンテンツ 時間編」を絡めてこだわりの完成。問屋から仕入れる商売でも、そのまま当てはまります。

最後に余談ですが、『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』のコミック1巻の表紙にある「ツナ缶にマヨネーズと胡椒」。私はこれに「ポッカレモン100」を振りかけるのが「おこだわり」。間違いのないうまさです。

今回のポイント

伝わってこその「こだわり」

「こだわらない」こともこだわり

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