「仕事の引継ぎがめんどくさい」面倒でもトラブルにならないコツとは?
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百伍十六
別れの季節に聞こえてくる
春はお別れの季節です。みんな旅立って……と、これ以上続けるとJASRACに上納しなければならなくなるので、やめておきますが、春が本当に別れと出会いの季節だと文字通り「痛感」したのは、ちょうど今ごろの3月から4月にかけて、フリーター時代に引っ越し屋でアルバイトしていたときです。
初日から3軒の引越しに悲鳴をあげると、これが繁忙期の基本ローテーションと社員はこともなく告げます。運良く2軒だけの割り当てになっても、夜の7時ごろまでに作業が完了すれば、最寄りの引越現場に「応援」に行かなければなりません。すべての関節と筋肉が痛いと叫んだものです。引越理由で多かったものは就職、転勤、そして転職でした。会社勤めは大変だなあと、引越のないフリーターの身分を喜んだ虚しさを忘れません。
今回のテーマは、そんな別れと出会いの季節に多い「引き継ぎ」について。おろそかにすると、後任の担当者が不幸になるだけでなく、今の時代では永遠にあなたの悪口が量産されます。それはソーシャルメディア時代の致命傷です。
最後に人間性が表れる
宮仕えに異動はつきもので、評価が高い人材ほど同じ仕事を続けることは困難です。Web担当者にも、いつ異動の辞令がくだるかわかりませんし、新しい職場を選択することもあるでしょう。そのとき、後任にしっかりと引き継げるかは、キャリア形成において重要です。
手前味噌ですが私の話。会社員時代に新規事業を立ち上げると、管理職へのシフトが内示され、同僚に私が育てたお客を引き継ぎます。しばらくして同僚がトラブルをこじらせ、引き渡した客との取引が停止します。その一年後、私はまったく別の理由から退社し、このクライアントに挨拶に伺うと、ニコニコ笑ってわたしに仕事をくれました。それは「引き継ぎ」を評価してのことです。
微に入り細を穿つ
あらかじめ異動をほのめかしておき、社内でのバックアップ体制についても説明を尽くします。後任を引き合わせた後も、なんども電話をかけ、休日を利用して顔を出し様子をうかがい、トラブルのときは会社に内緒でフォローしにいきました。
そこまでする必要はない
という声を否定しません。しかし、担当者が変わるのはこちらの勝手な事情で、お客には負担がかかるだけでメリットはありません。そこで可能な限りの誠意を示したのです。仕事への取り組みは人格の発露と私は考えます。とはいえ、空き時間を利用してのことで、いまならツイッターやFacebookで代行したことでしょう。
ホームページの管理を別のWeb担当者に仕事を引き継ぐ場合も同じです。外注先や協力企業との顔つなぎ、引き継ぎ後のフォローは必須です。取引先のなかには、担当替えのタイミングで条件闘争を始めるところがあります。これを牽制するためにも、引き継ぎ後のフォローは重要なのです。
永遠の陰口
バトンを受けとった後任者が気持ちよく走れるように準備し、走りだしてスピードに乗ったことを確認するまでが「引き継ぎ」です。逆に後任者が引き継ぎに不満を覚えたとしたら、これがいつ悪口に変化するかわかりません。これは「退社」しても同じ。しかも、ソーシャルメディアの時代、その悪評は永遠についてまわるかもしれません。
とある機械メーカーでは、退社後の設計士の「悪口」がいつまでも量産されています。退社の理由が、社長との性格の不一致であることは明白で、感情のもつれもあったのでしょう。CADデータの整理をしてから退社することになっていたのですが、退社後、データをチェックすると整理などされていません。設計番号とファイル名は不一致で、バックアップされていた最新ファイルは3年前のものでした。
図面を見る限り、仕事ぶりは決して不真面目なそれではないのですが、最後の最後の仕事、いわばコピペ程度の仕事を手抜きしたばかりに、この会社において設計士の名前は永遠に「悪口」とセットで呼び出されます。
狭い世界のロンド
設計士にとっては、クビにされた腹いせのイタチの「最後っ屁」なのでしょうが、実にもったいない話です。高校時代の友人が起こした会社を、私の中学の同級生が手伝っていたり、以前住んでいたアパートの管理担当者が高校時代の親友だったりと、社会は驚くほど狭く、ましてや特定の業界では必ずだれかとつながっています。つまり、どれだけ社長を嫌っていても、悪評を避けるように行動するのが処世術の基本です。ましてや在職中の「汚名」はいくらでもすすぐチャンスがありますが、退職後にリカバリーすることは不可能で、一番やってはならない引き継ぎが退職時の「最後っ屁」なのです。
しかも、ソーシャルメディアで「素性」をさらしていた日には、名前ひとつで過去と現在がつながることもあります。公開設定によっては、過去の勤務先が記された「プロフィール」をグーグルなどの検索エンジンがインデックスしている可能性があるからです。
引き継ぎの実務
中小企業の場合、Web担当者兼、Webデザイナー兼、Webプログラマ兼……と、1人で兼務しているケースは少なくないため、担当変更でホームページが機能しなくなることがあります。社内異動なら引き継ぎ後もなにかとフォローできますが、退社して別の道を選ぶ場合もあるでしょう。こういうときは「ドキュメント」を充実させ、可能な限り後任者がスムーズに仕事ができるようにしておきます。
「ドキュメント」とは、プログラムの仕様書や説明書を指しますが、Web担当者ならスタイルシートのネーミングルールや参考にしたサイトなどを、書面にまとめたものです。ネーミングルールとは、クラス属性やID属性を命名する際の取り決めで、英単語のつなぎを「-(ハイフン)」にするのか「_(アンダーライン)」にするのかといったものから、メニューの並び順の理由といったローカルルールです。
こうしたルールが作られていないのなら、引き継ぎのために作ってみるのも一興です。ルールを作る視点は、Webに限らず、すべての職業で120%役立ちます。また、ソースのコメントを充実させておくのも忘れずに。
引き継ぎとは次のステップへと進むための卒業検定です。不合格となったからと再検定はありませんが、悪評が自動添付されることは肝に銘じておくべきでしょう。そして引き継いだWeb担当者が不幸になることを忘れてはいけません。すると不幸を味わった後任は、あなたの名前を悪評の代名詞として永久保存します。
今回のポイント
終わりよければすべて良し
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