企業ホームページ運営の心得

2038年問題とY2KとCOBOL。歴史の断絶が生んだビジネスチャンスとシステム障害

現場で培った技術や知識の伝達の有無は、その後のビジネスに大きく影響します
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の278

古い言語を翻訳、若手に扱いやすく

隣国との間の騒動が、問題へとレベルアップしつつあります。過激な意見も目立つネット世論を見ていると、自衛隊を肯定しただけで「右翼」と罵られた30年前を懐かしく思います。そして、歴史的にはセンシティブな8月15日の日経新聞にこんな見出しを見つけます。

古いプログラム言語「現代語訳」

富士通が古い基幹システムの改良、更新を容易にするサービスを開始するとの記事です。「COBOL(コボル)」というプログラム言語で書かれたシステムを、「Java」などで書き換えるといいます。背景には「団塊の世代」の「再雇用」の終了があります。ベテラン技術者である彼らが引退すると、既存システムの保守・管理すら覚束なくなるからです。

つまりは「歴史の断絶」。ここからWeb業界が学ぶものも少なくありません。

喉元過ぎたY2K

※1 一部ネット記事では、日本政府によるY2K対策が奏功して危機を回避したとありますが、これは事実誤認。対策は後手に回り、年末が近づいて国民に「食糧備蓄」を呼びかけたりと迷走していました。程度の解釈にもよりますが、ダン・ガードナー著『専門家の予測はサルにも劣る』では、ロシア、イタリア、韓国はあまり対策を講じませんでしたが、たいした混乱は起きなかったと指摘しています。

西暦2000年を迎えるとコンピュータが誤作動を起こすとされた「Y2K問題」。知らない世代がいるとすればこれも「歴史の断絶」ですが、昔のコンピュータは西暦を下二桁で管理しており、これが「00」になるときに「1900年」と「2000年」の区別がつかずに誤作動を起こすとされたのです。

うるう日は4で割り切れる年にありますが、100で割り切れる年は含めない。しかし、400で割り切れる年は含めるというややこしいルールがあります。そして2000年は、400年に一度のうるう日のあるレアな年であったことが騒動を大きくする要因でした。

そこから「誤作動」と語る識者の多さを鼻で笑っていました。問題が起きても極一部に過ぎないというのがプログラマの見解で、事実その通りとなりました※1。20世紀のプログラマにとって訪れる「00年」とは「2000年」とするコンセンサスがあったからです。

歴史に刻む意味からの解説

私がコンビニのPOS開発をしていた1990年頃、1900年を意識したのはクレジットカードの「生年月日」ぐらいでした。1900年(明治33年)生まれなら御年90才。コンビニに買い物にきても不思議ではありません。

しかし、一般的にクレジットカードを利用するのは18才以上であり、00年生まれの2つの世代が客層として重なるのは「2018年」です。そのとき118才のご老人がコンビニでクレジットカードをつかって買い物をする……ことがないとは言えないまでも、それは「後世」に任せようと結論づけます。そして議事録に、

西暦を4桁で扱うシステムになったときに要対応

と記します。次世代への「申し送り」です。

申し送りが生んだビジネスチャンス

当時は技術的制約が多く、課題を見つけても対応できないこともありました。そこで対応できるようになった時点で取り組むとするのが「申し送り」です。担当者が退任しても、検討事項を喪失させないためで、歴史の断絶を回避する知恵です。諸事情から現時点で対応できないWebサービスやコンテンツについても、「申し送り」しておくことで将来に備えることができます。

しかし、「申し送り」と「先送り」は異なります。冒頭の富士通の取り組みは、2015年度末までに50社で230億円の売上を見込むビッグビジネスです。裏を返せばそれだけの市場が放置されていたのです。理由は20年以上前から続けられていた「先送り」にあります。

プログラミング言語のCOBOLは、事務処理系の言語として一世を風靡し、可読性の高さから保守が容易であると高い人気を誇りました。しかし、1989年(平成元年)の時点で、開発から30年の歳月が経過していたCOBOLは時代遅れの言語と呼ばれ、いずれは「C(言語)」や、それを引き継ぐ、あるいは上回る言語が開発されるであろうから、そちらに載せ替えられると「先送り」されてきたのです。そしてハードの進歩がソフトの処理能力を嵩上げしたことも手伝い問題は先送りされます。

さらに業界全体として「COBOL使い(○○使いとは、その言語を得意とする技術者のこと)」を育てるという懸案も先送りしてきました。富士通はそこに目をつけたのです。

2038年問題を申し送る

先送りにより高いツケを払うことがあります。これはWeb担当者にもそのまま当てはまる教訓です。

現時点で明らかな「申し送り」は「2036年および2038年問題」です。どちらもコンピュータの時間処理の仕様の問題ですが、これも「申し送り」を真剣に受け止めていれば順次対応されていることでしょう。反対にノータッチなら、こちらは、Y2Kより深刻でシステムダウンを起こしかねません。

今から24年後に、該当する古いサーバーやシステムが使われているとは考えにくいものがありますが、20年前に「古い」といわれたCOBOLが生き残っている状況から楽観視はできません。未来のトラブルを防ぐためにも、申し送りによって歴史の断絶を回避してください。

歴史の断絶によるトラブルはY2Kから8年後に起きます。NTTの公衆電話が使用できなくなる障害が発生し、その原因が「うるう日」だったのです。

やはり起きていた歴史の断絶

2008年は「うるう日」のある年で、これを含まぬ日時を設定するプログラムによってシステム障害が発生したのです。

まだ独立前、私がある企業に入社した平成元年、Y2K問題はプログラム未経験者も参加する新人研修の課題レベルの事案でした。つまり、NTTの障害を別の角度から見ると、2008年から19年も前の研修生が組んだプログラム以下のクオリティで実戦投入されていた、といえます。これも「歴史の断絶」。研修を通じて「実務上のお約束」を、師匠について手ほどきを受けた20世紀のプログラマにとって考えられないミスだからです。

今は、「ネットで検索」でプログラム言語を習得できる時代になり、それはとてもすばらしいことです。しかし、実務のなかで培われた注意点の「申し送り」や、「基本」が伝承されず「歴史の断絶」がおきている事例もちらほら見聞きするようになりました。それはWeb制作の現場も同じ影を見かけます。

今回のポイント

過去は大切な教訓

「申し送り」で補う歴史の断絶

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