企業ホームページ運営の心得

「迅速な復旧は理想論」とわらう、大胆さがトラブル発生時の心得

トラブル時に優先すべき対応の心得とは
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の277

重大事の対策

社会問題にまで発展した「ファーストサーバ」のデータ消失事件。同社と利害関係のない有識者による「第三者調査委員会」がまとめた最終報告では、ベテラン管理者が独自にメンテナンスプログラムを書き換えたことが直接の理由だといいます。

この管理者は約10年前から社内規定を無視した独自の方法で作業を行っており、上長がそれを容認していたことが事故の素地になったと、報告書はまとめています。

一言で言えば幼稚なヒューマンエラーです。会社で受託した案件の最終責任は会社にあり、どんなベテランであっても個人が背負えるものではありません。これは社会人にとって「常識以前」の話で、どれだけ優れた「個人」であっても、会社の取り決めを守れない人物なら、会社はその人の席を用意すべきではありません。手厳しいようですが、私も経営者の端くれ。他人事ではないのです。そして、その幼さが「第2事故」を引き起こしました。これはトラブル対応における心得不足です。

以前、同じくファーストサーバの事件から、ホームページの迅速な復旧の方法を紹介しましたが、どちらかといえばあちらは巻き込まれた場合の被害者としての対応でした。今回はデータを消失した側=加害者になったときの「心得」です。

トラブル発生……そのときに

トラブルはいつ起こっても不思議ではありません。「データ消失」にしても、顧客データや預かっていたUSBメモリまで広げれば、Web担当者ならだれの身に降りかかってもおかしくはないのですから。

原因が特定されており、すぐに復旧できるのならそちらを優先すべき……ではありません。まず、することは、

1秒でも多くの時間を確保する

ことです。対顧客でも社内でも同じです。客先の担当者や上司のもとに赴き(訪問が現実的でないなら電話で)、復旧までの対応時間を頂戴するのです。顧客数が多い場合は電子メールもやむを得ませんが、リアルの接点と遠くなるほど、トラブルはこじれる傾向が強くなります。

言うまでもありませんが、Twitterでの拡散やFacebookページでの告知は論外です。

時間確保の最大の理由とは

「そんなことよりも現状復帰を優先するものだ」として被害が拡大したこともファーストサーバの教訓です。復旧できたデータの中身を十分に確認もせずに顧客に提供し、情報漏洩に準ずるリスクが発生しました。これを第三者委員会は「第2事故」と呼んでいます。現時点では、幸いにも被害は確認されていませんが、現状復帰に盲目的に飛びついたことで引き起こした事故です。

「時間を確保する」ことで「持ち時間」が明らかになります。すると外部業者や取引先への協力依頼からヤフー知恵袋への投稿(笑)と対応の選択肢が広がります。反対に作業だけを優先すると、集中力の裏返しに視野狭窄を起こし「第2事故」を誘発しやすくなります。

そして「時間を確保する」のは今後の取引へと向けた布石でもあります。

1分の解釈の相違

軽微なトラブルだからと30分後の復旧を約束したとします。結果的に31分かかれば1分の「遅れ」に客は不満を抱くことでしょう。データ消失にクライアントの非がないのであれば、遅延プレーは怒りを上積みする行為です。しかし、60分と約束して、59分で完了すればこう感じます。

1分も前倒しした

これが1秒でも多く時間を確保する理由です。

起きたトラブルを「なかったこと」にすることはできません。だからこそ、客の不満を最小限に抑えることを心がけ、「トラブル後」に備えるのです。そして「迅速な復旧」などは「理想」に過ぎないと腹をくくるのもトラブルの際の大切な心得。もちろん、客の前では口が裂けても言えない言葉ですがね。

継続取引への布石

復旧の見通しがまったく立たない状況の時はこう伝えます。

本日の夕方5時までには経過をご報告します

解決ではなく進捗状況を報告する時間を約束するのです。そしてこの約束だけは必ず履行します。客の立場からすれば、穏やかな日常に突然突きつけられた「トラブル」です。信じて任せて金を払っているのです。不安感を払拭するための「小さな約束」と、その履行です。これは以前の「小さな約束プログラム。仲間教育で創る信頼」と同じ手法ですが、経験上、怒鳴り散らすクライアントに対しても、とても有効な方法です。

とにかく今すぐに直せと強硬な要求をする客や上司にはこう説明します。

私もこれから対応にあたります。そして状況が見えたら、かならず一番にご報告するというのはどうでしょうか

言外に要求をのまなければ、対応が遅れるよという告白です。そしてこの時も、最初に報告するとした小さな約束は履行します。時間がかかるようなら中間報告を差し込みます。強硬姿勢は不安の裏返しです。特別扱いしてあげることで安心感を与え、これも継続取引への布石となります。

20世紀には常識だったこと

要点をまとめると以下の3点です。

  1. 時間を確保する
  2. 迅速な復旧は理想に過ぎないと割り切る
  3. 小さな約束を必ず履行する

持ち時間を確保し、開き直ることで心の余裕を取り戻すと言い換えてもいいでしょう。そのうえで「次」への布石を打っておくのが大人の取引の世界です。議論が散漫となるので深掘りしませんが、「トラブル」は信頼関係を固める触媒となることが多いのです。

ちなみにこの心得は20世紀には常識でした。人間のやることだから間違いはあるもの、という時代の大らかさもありましたが、なにより技術者がトラブルに慣れていたことが最大の理由でしょう。

機械トラブルは日常茶飯事で、PCの不具合はもちろん、FDが読み込めなくなることは珍しいことではありません。すると「更なる不測の事態」に備えて、余裕のあるトラブル対応時間(サバを読む)を確保するのがシステムエンジニアの腕の見せ所でもあったのです。「仏の顔も三度」までという諺を拡大解釈して「2回まではトラブルOK」と広言する先輩もいたことを思い出します。

今回のポイント

迅速に時間を確保

多重トラブル発生を回避するには「開き直り」も大切

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