コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の参十九
誰が見るのかという当たり前
ウェブサイトに限らず劇的な成功例は痛快ですし、紹介した企業からも喜ばれます。特にオーナー社長や創業社長には「自信家」が多いので、成功例に自分の姿を投影しやすく、これに乗じる「ITコンサルタント」は少なくありません。
しかし、成功法則は後付アリアリで語られるため、あまり参考になりません。参考になるのは失敗法則です。今回も失敗例の「なぜ?」にお付き合いください。
さて、ホームページは誰が見るのでしょうか? 失敗するコンテンツに欠けているものが「誰が見るのか?」という意識です。
ビジネスブログが子育て日記になってしまうのも、専門用語が説明もなしに並ぶコンテンツも、「誰が見るのか」を忘れてしまっているからです。
検閲で生まれる失敗コンテンツ
現場の体験をコンテンツにするのならば、ヒラリーマンや職人の言葉で語ると良いものに仕上がります。
ところが、これを検閲する人がいます。企業の体面を考え、よかれとやるのですが、修正や校閲の結果、社内への配慮と気遣いに溢れた報告書となり、時には迷走の末、自社礼賛に帰結します。
これも「誰が見る」の喪失です。商売ホームページは上司や同僚のためのものではありません。
誰かである客は、拙い日本語であっても「現場の声なら」と許してくれ、時には好意的に受けとってくれます。これはホームページがパーソナルメディアという感覚によるものかも知れません。
どうしても校閲するのであれば、より「誰が見るのか」と意識する必要があります。
社長に告ぐ。客は部下じゃない
社内の人間を「誰か(客)」に紹介するのに、「当社の●●部長様がご訪問されました」という文章は笑われてしまいます。ところが、それなりの役職の人が校閲した結果、身内の行動を謙譲語で語るようになった例もあります。実は学歴を問わずに「作文」の経験が乏しい人は多く、文章は注意が必要です。学歴や肩書きは何の保証にもなりません。
作文が絡む話をもう1つ。「社長挨拶」はコンテンツ会議で「誰も見ないよ」と不要とされることがあります。しかし、商売用なら絶対に必要です。
見ないといわれるのは「挨拶」が訓辞や説教や自慢話になっているからで、不必要ではなく間違えているということなのです。客は部下じゃありませんし、接待してくれる取引先でもないのです。
社長挨拶は企業理念を発する場です。大切なお客様への「ラブレター」のつもりで作文すれば、会社の姿勢を明確に示す(思いを伝える)コンテンツが生まれます。
社内のパワーゲームを持ち込むな
セクションが明確に分かれた企業では「営業部は何もしない」や、「総務に押しつけて」と責任の所在をたらい回しにて休眠サイトになることがあります。これは社内の人間関係のパワーゲームが表面化したもので、ホームページはそれが見える形になっただけです。
商売用ホームページの立場ではこう考えます。
「何もしない営業部は取引チャンスを放棄している背信行為。利益貢献を押しつけだと感じる総務部は労働拒否」
厳しいようですが真実です。営業部なら売り上げにつながりますし、総務部が収益部門となれば業績アップは間違いないのです……が。失敗には「労働意識」や「人間関係」といった、コンテンツ云々以前の問題も少なくありません。
ノーバディズパーフェクト
最後にもっとも陥りやすい「失敗」を紹介します。
素人ほど完璧を求めます。画像が足りない、キャッチコピーがいまいち、彩りが寂しい等々。
そして公開を延期するという失敗を犯します。
もちろん、企業として公開するのですから、良くしたいという気持ちは大切ですし、ウェブ担当者なら常により以上を目指したいものです。
しかし、ホームページは見られてはじめて磨かれます。特にホームページデビューの頃は、社内でいくら検証しても見つからなかった発見やミスが、公開後にいくつも見つかるもので、それらを反映し、修正していくものなのです。
失敗は経験値を積み上げてくれます。こればかりは業者に発注しても回避できません。足りないなと思っても公開し、反省してください。いつだって完璧なんてないのです。
公開しないことこそが最大の失敗なのです。
大企業は巨大な象の大行進
紹介してきたのは中小企業の失敗例ですが、大企業はというと……大手広告代理店が絡むような「ウェブ会議」の話を聞く限り大差はないようです。パワーポイントの資料がうずたかく積まれ、プレゼン前の根回しに多数派工作、業者側の接待が加算され、動きの重さは中小企業なら致命的な程になります。
しかし「桁」が違います。
東京から京都への訪問に例えてみます。
中小企業は原チャリで国道1号線を走るようなものです。
決定の遅い大企業ですが、いざ出発となるとフェラーリをチャーターし高速道路を走らせ、東京駅からは東海道新幹線を貸し切り、羽田発関空行きの国内航空路線を買い占めるといった具合です。
中小企業がアリとすれば大企業は巨大な象の集団です。
同じ戦い方は無謀です。
失敗例は最大の教材
成功例を真似しても上手くいかないのは肝心なことが語られていないことも理由です。
成功には「タイミング」がとても大切ですが、その成功例を紹介する記事の中で「タイミング」に関する話は小さく扱われます。タイミングを語ることは裏返せば「もう今からだと間に合わないよ」ということとなり、読者が共感できなくなるからです。ヒルズ族にWeb 2.0企業群も「絶好の機会」という要素を除いた「成功例」という結果だけが記事の中で輝きを放ちます。
前回は「社長」を、今回は「コンテンツ」を中心に中小企業にありがちな失敗例を紹介しました。
時に社長の「独善」や、和を貴ぶ日本人的なベクトルがマイナスに作用します。良い悪いという善悪二元論ではなくこれらの傾向がもたらす影響をWeb担当者は覚えておいてください。作文が得意じゃない人が多いということも。
失敗する方が圧倒的に多数派です。だから先人の失敗を真似ないだけで成功確率はグンと上がります。
♪今回のポイント
上手くいかない理由はリアルな世界にあることも多い。
誰もが失敗するもの。失敗を怖れるものが真の敗者となる。
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