コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の438
魔法の言葉で変わる
Webの活用がこれからという企業では、売上に直結する通販企業でもない限り、Web担当者の仕事はなかなか評価されないものです。
前回は、「自分の好きなこと=能力」をマネタイズできるのが、Web担当者という仕事だと話しました。「好きなことをやっていれば成功する」とは当たり前の話。嫌々やらされる仕事と、自ら望んで挑む業務なら、どちらのモチベーションが高いかは明らかです。
ただし、好きなことをするための「環境」は自ら作りださなければなりません。社内の評価もその1つで、そのための魔法の言葉がこちら。
ホームページを見た!
そのメカニズムには、「日本人らしさ」が関係しています。
難しいWeb担当者の評価
好きなことをやれる環境を得るためには、まず、「Web担当者=自分」の価値を認めさせなければなりませんが、そもそも、Web担当者を評価する仕組みがないという会社が少なくありません。
通販企業なら「売り上げ」や「粗利」から評価することができても、広報媒体として位置づけられたWebサイトの場合、この限りではありません。また、そもそも評価とは、組織や管理者が業務の全容を理解しているから設定できる指標であり、ありていに言うと、自社サイトを構築してWeb担当者を任命したところで終わっている企業が多いのです。
そこで活用するのが「魔法の言葉」です。
リアルのフィードバック
魔法の言葉の全文はこちら。
ホームページを見た! とお声かけください
お客の声によってWebを評価してもらうのです。
リアルの店舗があればそのスタッフに、営業マンがいる会社なら彼らに、物流会社ならドライバーに協力を求めます。客に対して声をかけるように、サイト上から呼びかけるのです。もちろん、文章やイラストなど「好きなこと」を駆使して。
「見た」という評価は、漠然としていて、業績に貢献するものではありません。しかし、客の声というリアルからのフィードバックは、そう告げられた人々に、Webの存在感を認めさせるに十分です。そしてこれは、Web屋の仕事をも助けます。
20年の経験による
いまどき「見た」ぐらいで環境が変わるなんて……
と疑うでしょうか。しかし、私の20年におよぶ経験が裏付けています。しばし、昔話にお付き合いください。時計の針をグルグルと巻き戻し、20世紀の会社員時代までさかのぼります。
プログラマとして社会人生活をした後、ドロップアウトしてフリーターとなってはみたものの、そこに待っていたのは使い捨てられる道具同然の日々でした。一念発起し「社会復帰」を実現した、私の最後の会社員時代のはじまりは、次のようでした。
- 商店街の端から名刺配って回る飛び込み営業(見込み客が見つかるまで帰社できない)
- 料金不払いの店舗を毎夕訪問して100円ずつ回収(できるまで帰社できない)
- 月3千円の粗利を得るために往復4時間をかけての訪問営業(2週間通って契約できず)
好きなことなど、何ひとつありません。
転機は客の声
転機が訪れたのは、飲食店の「チラシ制作」を押しつけられたときです。「広告代理店」と看板を掲げてながらも、社内にチラシ作りのノウハウはありませんでした。すべてが手探りで、空き時間と休日は図書館と書店をハシゴし、独学でデザインとDTPを学びます。なお、ネットは「便所の落書き」ばかりで、グーグルなど存在しない時代の話です。
試行錯誤の末にどうにかチラシを仕上げると、その後、面倒な仕事はすべて私のところに回されるようになりました。この時点でチラシ作りを「好きな仕事」かと問われれば、答えにつまったことでしょう。しかし、毎夕100円をせびり続けた末に、「夜逃げ」されるまで追い詰めなければならない仕事に比べれば、はるかにマシではありました。
決め手になったのは、やはり押しつけられた工務店のチラシです。これを、たまたま事務所を訪ねていた印刷ブローカーが絶賛します。上司が戯れに、「これを作った人物に、いくらの給料を支払うか」と尋ねると、
手取りで35万円
と即答。社交辞令を含むとはいえ、社内規定における「課長クラス」の給料が提示されたのです。ちなみに当時の私の手取りは20万円ちょっと。転職の二文字が脳裏をかすめたことは言うまでもありません。
外部の声で知った価値
これは自慢話ではありません。一連のメカニズムを整理するとこうなります。
社内で評価が確立されていない業務は、その評価のための基準そのものがなく、外部の声が唯一の手がかりとなる
事実、当時の私は、「課長クラスの給料が提示されるということは、それ以上の利益が見込めるに違いない」という、取らぬ狸の皮算用な噂が社内とその周辺を駆け巡り、グループ会社からもチラシ制作が発注されるようになります。そして、グループ会社の社長から謝意が伝えられるようになり、そこから先はとんとん拍子。気がつけば、新規事業を立ち上げるしかないポジションを押しつけられ、転職などできない状況に追い込まれていました。
さらに、「外部の評価に弱い」ことは日本人の特徴であり、「ミシュラン」の星を有り難がる姿に象徴されます。
応用次第で広がる可能性
この経験をWebに置き換えたのが「ホームページを見た!」です。
本当に見てくれているんだ
と上司や仲間に「体感」させることが、そのままWeb担当者の評価へとつながります。あとは応用次第。いわば「社内世論」を誘導するのに「外圧」を使うのです。論旨がずれるので割愛しますが、「社内政治」にも応用できるのは秘密です。
そしてWeb屋の仕事にも通じます。
二代目社長となる予定の息子にせがまれ、渋々開設した自社サイトを、取引先や友人が「見た! と言っていた!」と目を輝かせ、手を握り謝意を述べる老社長は後を絶ちません。魔法の言葉とは、Web屋の都合における「キラーコンテンツ」でもあるのです。
客が見たと告げたコンテンツが「好きなこと」なら、良い意味での「野放し」は目の前です。あとはこれを地道に繰り返すだけです。ただし、好きなことと、「楽」なこととは同義でないことをお忘れなく。
今回のポイント
外部の声の活用
特に日本人は外部評価に弱い
- 電子書籍『マンガでわかる! 「Web担当者」の基本 Web担当者・三ノ宮純二』
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