リニューアル最大の敵の正体と断舎離
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の290
片付けのコンセプト
前回の自社ホームページのリニューアルについて紹介した原稿を入稿すると、サイトを確認した担当者から「劇的ビフォーアフターですね」と返信がありました。我が町足立区は北千住にある「槍かけだんご かどや」がこの秋、建て替えてモダンにリニューアルオープンしましたが、団子を並べるガラスケースは旧店舗のもの使っています。ホームページをリニューアルするときも、改装以前の面影をどこかに残す方がベターです。なぜなら、旧サイトで得た信用を継続することにもつながるからです。
しかし「劇的」に変えました。それは少し前に流行った片付け術の言葉を借りれば「断舎離」です。「断舎離」とはヨガの行法にヒントを得て、クラター(片づけ)コンサルタントを名乗るやましたひでこさんが著書『新・片づけ術 断捨離』で紹介し広まった言葉です。著者の公式サイトには「モノへの執着を捨てることが最大のコンセプト」とあります。
「執着」こそがリニューアルにおいて最大の敵です。
三ノ宮がゴミに
リニューアル前のトップページには、著作はもとより、数年前に書き下ろしたレポート、また、原作したマンガ「三ノ宮純二」の紹介がありました。手前味噌ですが、すべてが自信作です。どれひとつとして削ることはできない……とは執着だと気づきます。物書きとしての「エゴ」かも知れません。しかし、それは胸に秘めるものであり、お客や訪問者に押しつけるものではないと、当たり前のことに気がついたのが、前回述べた地元足立区の「ゴミ屋敷」報道です。
さらに、です。本稿で度々紹介している「焼き鳥屋理論」は、間口を狭くすることで専門性を高め、検索エンジンが分類しやすくなりSEOが期待でき、はじめてのお客にも理解が早くなるとするものです。漠然とした居酒屋ではなく「焼き鳥」と打ち出すことが「焼き鳥屋理論」の骨子です。ところが、自社のサイトはまるで、
ラーメン定食を看板に掲げる寿司屋
だったのです。なんでもありすぎて、自ら提唱する理論に自ら背いていたのです。
アクセスログでビックリ
しかし、執着という病はなかなか根が深く、着手する前に「アクセスログ」から現状維持する理由を探してみたりもしました。ところがそこで驚愕の事実を突きつけられます。「トップページ(厳密にはホームページですが、本稿では一般的に広まっている呼び方を採用しています)」へのランディングが少なかったのです。総ランディング数の8割が「独自コンテンツ」で、トップページが玄関(ポータル)として機能していないのです。にもかかわらず、そこに「執着」しても虚しいだけです。そして2週間、正味1週間でリニューアルを完遂しました。
独自コンテンツを裏口に回したことは前回触れたとおりです。トップページからコンテンツへの移動が少なく、またトップページにランディングした訪問者が次に訪れていたのは「営業案内」や「会社概要」でした。ならばそれ以外は「にぎやかし」に過ぎず、裏口ぐらいの扱いで十分です。
ブログに負けたトップページ
独自コンテンツとは筆者「宮脇睦」としてのレポートやブログなどです。小声で言いますが、筆者としての収入は馬鹿にはできず、トップページに掲載し続けていた理由の1つです。ところが先日もTBSラジオから取材の電話があり、かけてきた理由を訪ねると5年前に書いた「ブログ」でした。週刊誌などからの取材は各種連載をきっかけとするものが多く、本稿の読者から講演会にお招きいただいたこともあります。
つまり、トップページは利益に貢献していなかったのです。むしろ前回述べたように、トップページに置いた「Twitter」で「AV女優」について語っているデメリットの方が大きかったことでしょう。
これは一般企業のサイトにも通じます。人気のコンテンツの大半は、それ自身が「ランディングページ」になっているものです。人気コンテンツから他へと誘導するのが正しい姿であり、わざわざ会社の顔とも言えるトップページに置かなくてもよいということです。自戒を込めて。
サービスの取捨選択
最大の断舎離を決行したのはメニューです。メニューとは営業品目、サービス一覧、業務内容。「焼き鳥屋理論」では「間口は狭く、奥行きは深く」としています。つまり、焼き鳥屋の看板をあげていても、刺身や茶碗蒸しを提供しても構わないということです。しかし、今回はこちらも大胆に捨てました。当社の創業時の事業である「販促ツール制作」の看板を下ろしたのも、それを「執着」としての断舎離です。その選択基準が「受注実績」です。
いま、物書きの仕事を除けば、新規受注の100%がWeb関係です。事実上、受注していないサービスは市場が求めていないものであるか、当社の提案に魅力がないか、私のやる気がないかのどれかです。過去、一年間で新規受注(成約)していないサービスは、粗利が高いサービスであってもバッサリと断舎離します。
ランドセルはいらない
断舎離する過程で創業期の気持ちを思い出しました。金もコネもなく、実績すらなかった当社は、試行錯誤に紆余曲折の日々で、朝令暮改など当たり前です。1つの正解を見つけるために、百の間違いを犯したこともあります。そして自分を見失いそうになったとき、こう念じたのです。
いままでより、これから
昨日より今日が大切で、明日のために今日を変えることをいとわない柔軟さにだけ「執着」していたのです。小学生も中学に上がればランドセルが不要になるように、新しい自分になるためには、まず「捨てる」から始めることをすっかり忘れていました。実は営業戦略も「客を捨てる」から始めるものなのですが、これについてはいずれ機会があれば。
ゴミ屋敷を生み出すのは執着、というのが今回のリニューアルからの結論です。執着を捨てれば、リニューアルは簡単。ちなみに、いまでもチラシの制作を受注し、パンフレットや名刺、動画の撮影・編集から、メルマガの監修まで手がけています。ただし、Web関係で取引のある企業限定で、問い合わせがあっても「面倒くさいな」と言葉にはしませんが、もっともらしい理由を告げて断っていました。失礼な話です。そこで今後は「裏メニュー」とすることにしました。
今回のポイント
注文のないメニューを看板から外す
捨てることで新しい世界が拡がることがある
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