企業ホームページ運営の心得

葬儀社に青空という写真の使い方

写真使いのコツについて、アズモードのリニューアル事例と合わせて紹介
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の291

まさに現場のノウハウ

かなり踏み込んで現場の心得を紹介している本稿ですが、守秘義務と顧客利益から、ここでは紹介できないノウハウが沢山あります。その点、自社サイトのリニューアルならすべてを語ることができるのでそう快です。問題があるとすれば、社長自らの企業秘密の漏えいですから特別背任といったところでしょうか。

というわけで、今回のコラムも自社サイトのリニューアルからですが、通常のサイト運営やブログの更新にも役立つ「写真」について。百聞は一見にしかずとは、現地に足を運び実物を見るという意味ですが、コンテンツにおいて「写真」というのは文章以上の発信能力があります。

本稿の冒頭にも一葉の写真が配置されているように、記事に目を留めてもらう「アイキャッチ」として、イメージを膨らます「触媒」、中だるみを防ぐ「箸休め」など「写真」に助けてもらうことは少なくありません。

ホームページ屋のイメージとは

リニューアルにあたりもっとも悩んだのは会社のコンセプトの具現化、つまり「アイキャッチ」としてトップページに配置するビジュアルの選定です。ここで読者に質問です。

「ホームページ屋」を表現するヴィジュアルとしてなにを想像するでしょうか。

かつての20世紀は「電脳」でした。無機質な直線や、幾重に重なる流線はネットワークを象徴し、幾何学的な3DやCGが異空間を意味していました。ところがネットはもはや日常です。特別な世界ではありません。同業者のサイトに多く見かける技術の品評会は、私の目指すところではありません。ホームページ制作もデフレの波に抗えず、低価格化は進んでいますが、それを前面に出すのは小規模事業主として愚の骨頂です。

悩んだあげくにたどり着いたコンセプトは「普通の会社」。ネットが日常になったのなら、それを手伝う「ホームページ屋」も普通の会社がいいだろうと結論づけます。

入口には受付のお姉ちゃん

それなりの規模の普通の会社を訪れると「受付」がありそこには「受付嬢」がいます。そこで、バーチャルな受付嬢を配置することにしました。いつもお世話になっている無料で写真素材を提供してくれている「足成」さんに探します。

やはりお気に入りの笠井枝理依さんを採用し、彼女だけで受付嬢の代わりとなるアイコンを作ります。彼女に絞ったのは単なる好みだけではありません。豊富な人物写真を誇る「足成」には、綺麗なモデルが何人もいます。しかし、モデルそれぞれに個性があり、複数のモデルの写真を掲載すると、その個性から全体の印象が散漫になってしまうのです。

同じモデルさんを選択し、さらに衣装も揃えると統一感が生まれます。反対にコンテンツごとに印象を変えたい場合は、モデルさんをチェンジするといいでしょう。

もちろん「普通の会社」とは独断と偏見によるもの。ちなみにリアルな当社の「受付嬢」は2才2か月を数える柴犬「さくら」です。

かおなしの意味

どうしてもイメージに合う人物写真がないこともあります。「足成」がない時代、版権フリーの素材集では人物のパターンに限りがありました。そんな時は「トリミング」です。「トリミング」とは写真の一部を切り取って、構図を変える技法ですが、主に切り取ったのは「顔」です。

カメラマンとモデルさんが耳にすれば失礼千万とご立腹なさるでしょうが、「顔」が与える印象は強く、良くも悪くもイメージを固定化してしまいます。そこで「顔なし」にします。明らかにクビから上を切るのではなく、アゴが一部残るようにしたり、胸から下だけを採用したり、さらに「手」だけや、「足」だけが効果的なこともあり、カップルの写真の「つないだ手」だけをトリミングして、味のある写真(カット)ができたこともあります。

また、考えているシーンや、悩んでいるイメージがほしいときは、バックショットの写真を採用するといいでしょう。「顔」がないことにより、閲覧者が自由に妄想を膨らませることができるからです。

素材選びは連想ゲームで

「風景写真」も応用範囲の広い素材です。コンテンツのイメージに沿うに越したことはありませんが、100%制約される必要はありません。たとえば、当社のトップページの「空撮写真(by足成)」は、東京スカイツリー周辺のもので、住所で言えば墨田区から東京湾を望みます。「足立区」をプッシュする当社には関係のない写真です。

実は当初は「足立区」に縁のある写真を考えました。お酉さま発祥の地の大鷲神社(おおとりじんじゃ)、弘法大師由来の西新井大師、千住の飲み屋街、東京武道館、区役所、舎人公園などなど。しかしそれらをすべて並べて掲載すれば、ただの「観光案内」です。

そこで「東京」という大きな枠組みから東京スカイツリーを採用します。それだけではありません。足立区の中央を南北に貫く「東武伊勢崎線」が「東京スカイツリーライン」に名称変更したことにもあやかっています。風景写真の選定のコツは「連想ゲーム」です。

密かな楽しみ

冒頭に述べたように、写真の効果は絶大です。写真によりブログのメッセージを強調し、コンテンツの精読率の向上も期待でき、これについてはわたしが証明します。本稿に掲載される写真は、毎週、担当の池田さんが選定したもので、どの連載でも入稿後の原稿には興味をもたない私が、「確認作業(雑誌で言うところのゲラチェック)」を欠かさないのは選ばれた写真を楽しみにしているからです。

もちろん、イメージにそぐわない写真を掲載すればマイナス効果。「秋の実り」の企画に、「さくら」や「菜の花」では興ざめし、葬儀社のイメージカットには青空は選びにくいものです。しかし、ここで連想ゲームの登場です。「天に召す」というコンセプトで見直せば、葬儀社に「青空」は決して悪くはない選択となるからです。

そんな極端な例はない……と、思うでしょうか。しかし「同業者」に散見します。雨中にたたずむブロンド女性や、けだるげにiPhoneを操作する黒人女性のモノクロ写真(例えです。実在していたとしもて偶然です)。そして最上段に配置されたグローバルメニューには、HOME、ABOUT、WORKSとアルファベット。「欧米か!」と古いギャグが脳内を支配します。「お洒落」や「クール」を気取っているのでしょうが意味不明です。意味不明さでは、リニューアル前の当社も負けてはおらず、これは批判ではなく反省です。

今回のポイント

写真の選定は連想ゲーム

人物写真は「かお」を使い分ける

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