コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の292
しがらみがないから言えること
当社は裏メニューとして、ロゴやCI、名刺にDMなどのセールスプロモーションツール、大きなものでは店舗看板などのデザインを請け負っております。裏メニューにした理由については少し前に書きましたが、端的に述べれば「面倒」だからです。
書き下ろしたロゴが却下され、素人がワープロで使いたがる、ポップ体を並べただけのものが採用されたときの徒労感。正確な色の再現に不向きなオフセット印刷で、刷り上がったチラシを見た寿司屋の社長が、これはマグロの赤じゃない、牛肉の赤だと怒鳴りちらす背中に殺意を覚えたこともあります。
当社は代理店経由の仕事は一切請けていないのでしがらみがありません。だから言えることですが、モチベーションとクオリティはリンクします。
どんな時でも一定の品質を提供するのがプロだろう。
とはその通り。イヤな客が相手でもプロの品質は提供します。しかし、それ以上のものはベロすら出したくない客がいるということです。
とはいえ、外注に依頼するとき、私は「発注者」になります。すると、もったいないと気づくのです。デザイナーに嫌われることで引き出せていない「ポテンシャル」の存在に。そこで今回は特別編「デザイナーはこんな客が嫌い」。
1. 指示が細かすぎる客
的確な指示はありがたいものです。ところが文字の級数(大きさ)から、写真の配置に色合いまで指示されれば、デザイナーは黙々と実行するだけで楽な仕事……とはなりません。指示が細かすぎる客の大半が、
センスがない。
からです。バランスを損なう級数の指定や、細部の色まで指定するものの、そのまま配色すると悲惨な仕上がりになるといったように、木をみて森を見ずで、細かすぎる指示を出す客は、全体をみる能力に欠けていると言っても過言ではありません。
2. アバウトすぎる客
指示はすべてアバウトですが、細かすぎる客の正反対の意味ではありません。曖昧な指示を出すことで「責任放棄」を目指すタイプです。
「センスで1つ」「いい感じで」と丸投げし、トラブルが発生すると責任の所在をデザイナーに求めるために、常にアバウトなニュアンスで指示します。自由に仕事をさせてくれたうえに、責任を引き受けてくれる「侠気(おとこぎ)」のある方の対極にいる存在です。
3. コダワリ過ぎる客
どうでもよいことにコダワリをもつ客は嫌われるというか、小馬鹿にされます。
ホームページの保有率がそれほど高くなかった時代、チラシやポスターを制作するときに、これ見よがしに「URL」を入れ込むことが流行りました。ある客の仕事で「.com」の最後の「m」の丸みを生かしたデザインを提案したところ、最後に「/」をいれるものだと、先方のWeb担当者が横やりを入れてきました。
どちらでも問題なくアクセスできると説明しても、「正式には“/”があるものだ」として譲りません。これ以降、このお客のURLは無骨な黒文字のゴシック体で統一しました。装飾の手間が減り楽になったと、堂々と手をぬきます。
4. 途中変更が多い客
煮詰めていくなかでレイアウトから見直すことは多々あります。また、発売日の変更や入荷状況により、企画そのものを見直さなければならないこともままあります。それによる途中変更を歓迎こそしなくても、いやがるデザイナーは少ないでしょう。より良きものに仕上げるためにかける手間暇は、デザイナーのやりがいでもあるからです。
問題は打ち合わせの内容を忘れたかのように、突然別の指示を出す客です。しかも大抵の場合、最初の企画より質が低くなっています。「改悪」のために作業するわけですから、デザイナーのテンションが下がるのは仕方がありません。
ちなみに、締め切りギリギリになって起死回生のアイデアが降臨する……というのはドラマの世界だけの話。むしろ夏休みの宿題のように追い込まれるまで放置していたツケを、デザイナーに支払わせているのが実態です。途中変更は厳密に言えば「契約違反」です。やむなき事情があるというのなら、せめて「リポD」を持参して、あたまのひとつも下げてほしいものです。
5. やる気のない客
「そんなにイヤなら辞めれば良いのに……」と喉まで出ることもしばしば。嫌々仕事に取り組んでいることを隠さない人がいます。「意気に感じる」という言葉があるように、発注者や依頼者のテンションはデザインに影響するからです。そして外注業者だからとこぼしやすいのか、だらだらと上司や同僚の愚痴をこぼされても返事に困ります。往々にして、愚痴をこぼしている本人に一番問題があるのですから。
また、これらは単なるテンションだけの問題ではありません。モチベーションの低い担当者は注意力が散漫となっているケースが多く、そこからトラブルに発展する確率がとても高いのです。すると下請け業者の処世術として、
優れたデザインより無難な品質。
を選択することを、だれが責められるでしょうか。
6. 問答無用な客
指示通りの作業のみを要求する客も嫌われます。外注を奴隷か何かと錯覚しているのでしょう。広告代理店を中心によく見かけるタイプで、客のリクエストだからと押し切ります。こうしたお客との取引で、デザイナーは「思考停止」という技を身に付けます。
あるいは部下や新人に「修行」だと押しつけます。餅屋には餅屋の技術がありますが、生米を出せと理由を語らず求める者に、こちらのノウハウを提供する義務はないからです。
もちろん、デザイナーに問題がある場合も沢山あります。こちらはまた別の機会を見つけて「操縦法」を紹介しますが、実は今回挙げた「嫌われる客」は、どの業界でも、どの職場にもいるタイプでもあります。そしてこれらを裏返せば、デザイナーや同僚との良好な関係が築け、彼らの「ポテンシャル」を骨の髄までしゃぶる……コホン、最大限活用できると発注者側のミヤワキがほくそ笑みます。
ちなみに、まだまだ他にもイヤな客は沢山います。金払いが悪い客や、納品してから値切る客などなど。ただしこれは別次元の話と割愛してます。
今回のポイント
デザイナーのポテンシャルを引き出すという視点
もっとも社会人として当たり前のことばかりですが
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