「ちょっといい?」にご用心、Web担当者の地位向上のための社内理解
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の385
Web担の仕事
Web担当者ほど、会社によって「業務内容」が変わる職種は珍しいでしょう。実務の大半を外注に発注していれば「コーディネート」が主業務になりますし、更新作業まで手が掛けていれば「オペレーター(作業担当)」の比重が高まります。「カメラマン」や「ライター」の役割を求められることもあれば、広報的な視点やイベントの仕掛けも不可欠で、いずれにせよ「忙しい」ことだけは共通項といえます。
Web担当者は「インターネット支店」の支社長です。会社を切り盛りしていると考えれば、忙しいのは当然ですが、多忙の一因には「軽く見られている」ことが少なくありません。一番の理由は、Web担当者の仕事が理解されていないこと。
インターネットが一般的に普及して間もなく20年を数えますが、Webの仕事の歴史はまだまだ理解されていません。しかし、Web担当者の「地位」を上げる簡単な方法があります。今回は社内制度の改革なしで進められる、簡単な2つの方法で地位向上を目指します。
「ちょっと」は断る
ちょっとこれいい?
Web担当者の地位向上は「ちょっといい?」という、他部署を含めた同僚や上司から、即時の打ち合わせや、雑談を求められても「断る」ことで実現します。拒否するのではありません。「後日」を要求するのです。それは「5分後」でも構いません。できるかぎり「即時対応」はしないということです。
「ちょっと」で求める話し合いの99%に「緊急性」は、まずありません。緊急ではなく「自分の都合」で話しかけているに過ぎません。悪気はなくとも、「メモ」をとるなり「記憶する」なりの手間を省くために、即時対応を求めている場面も多いのです。それに応えるのは「暇」という告白と同じです。
そこでわずか5分でも、あるいは「1分待って」と時間を稼ぐことで「忙しいところに声を掛けた」と罪悪感を認識……いや、忙しいのだとアピールするのです。
後日という実戦
会社員時代、新規事業を軌道に乗せる途中。社内における新規事業の「エキスパート」は私1人しかいません。上司や先輩、同僚が些細なことでも「ちょっと」と、新規事業に関連すると思われる事案を相談します。当初は即時対応していました。
しかし、ある日気がつきます。疑問や課題が解消した彼らは、定時からしばらくすると退社し、私1人だけが日付が変わるまで仕事をしているのです。理由の1つは「ちょっと」による作業の中断でした。翌朝のミーティングや、月一の会議で間に合う内容でも「ちょっと」と、私の時間が奪われていたのです。なかには外回りからの帰社後、定時までの暇つぶしに話しかけている事例も。
そこで「後日」を実践します。残業はゼロにはなりませんでしたが、たまには「月9」のドラマをオンタイムで見ることができるまでには改善しました。なにより残業時間の減少に比例して、社内での「地位」が向上していきました。
ちょっと返し
マーケティング的に言えば「希少価値」の演出です。“いつでも”“望み通り”手に入るものへの感謝は薄く、蛇口をひねれば流れ落ちる水道水に感激する日本人はいません。一方、「○○産」や「数量限定」のような、限定された商品やサービスは価値があるものだと消費者は錯覚します。つまり、即時対応はWeb担当者を「水道水」にし、「後日」は「エビアン」や「コントレックス」にするということです。
「明日の15時」や「15分後」と、日時を設定すると、より効果が高まります。こちら側から提示した条件であっても約束は約束であり、約束の実現は信頼感を積み上げ、「約束を守る人間」という評価を得ます。後回しにすることによる不評を気にすることはありません。通常業務を遂行中に「割り込み」をしてきたのは「ちょっと」の方です。
その作業、本当に今すぐ必要ですか
「本当に緊急の要件だったら?」との心配はご無用。そのときは「後で」と伝えても「そこをなんとか」と食い下がるもので、臨機応変に対応すればよいだけのことです。仮に「後日」の対応で問題が発生しても、「緊急性」を伝えていなかった相手に瑕疵があります。
そもそも、普段から信頼関係が築けていれば、こうした心配はありません。どうしても心配ならば「約束の積み重ね」は期待できませんが、「ちょっとだけ待ってて」と「ちょっと返し」で時間を稼ぐといいでしょう。
ケータイは上着のポケットにあった(から気がつかなかった)
次の地位向上の方法は「電話に出ない」こと。
内線電話を拒否することはできませんが、社内で個人のケータイ(もちろん、スマホを含む)の利用が許されている環境では、同僚のケータイを直接鳴らす人は多く、仮に彼らを「直通族」とします。「直通族」は外回りの営業マンなどに多く、その心根は「ちょっと」と同じです。惜しみ容赦なくWeb担当者の作業時間を奪っていきます。
そこで、仮に手元に電話があっても着信に気づかなかったと説明します。「直通族」は「せっかち」で、わずかでも待たされることを嫌い、何度か「不通」が続くと連絡そのものをしなくなります。そして彼らの連絡も、それほど緊急性が高くなく、そもそも論で言えば業務連絡は「会社の電話」にかけるものです。
歩み寄り、仕事を理解する
どちらの方法も、暇で手が空いているときはこの限りではありません。また、これは「実務」が多いWeb担へのアドバイス。人脈や即応が求められる「コーディネーター」タイプのWeb担なら、常に電波の入る場所に待機して、レスポンス技術を磨いてください。
融通が利かない。面倒だ。
本稿を読んで、このように感じた人もいるでしょう。仕事を続けていれば、本当に緊急の案件は発生するのもです。だからといって、普段から「ちょっと」に対応していては、Web担当者は疲弊しますし、こうした便利屋的な仕事の多くは、Web担当者の業績としてほとんど評価されません。
始めにも話しましたが、いまだにWeb担当者の地位が向上しない理由は、仕事への理解が進んでいないことです。しかし、冷静に考えれば当然のこと。他部署を経験したことがない、プロパーなWeb担当者からみた「営業部」は「別会社」に映ることでしょう。これはWeb担当者にもいえることです。「営業部」や「業務部」、「経理部」「総務部」の具体的な業務内容を把握している「他部署の人間」はいません。これが「無知」の原因で、つまりはお互い様なのです。
だから「忙しい」こと、それは「Web担当者の時間には限りがある」ことを伝える努力が、地位向上につながるのです。
今回紹介したのは、簡単にできる応急処置的な改善方法。長期的には、Webの力によって他部署の仕事をサポートできること、会社のビジネスに貢献できると、社内に理解してもらうことが重要です。
今回のポイント
ちょっとには応えない
即時対応は便利がられるが軽く見られる
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