ARの前にケータイ。先行者利益という果実
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百伍十壱
今年来るIT
IT業界人の端くれとして今年の「トレンド予測」を。ズバリ「AR」です。AR(Augmented Reality、拡張現実)とはケータイカメラや位置情報などを利用し、「現実」に付加情報を提供するサービスの総称です。根拠は「メディア」が盛り上げ役になるのではという見立てからです。
「トヨタがARを利用したパンフレットを提案」
「ユニクロがARでコーディネートを披露」
つまり、メディアが「スポンサー(お客様)」を紹介しやすいサービスであり「大人の事情」を絡めやすいのです。他にも、フジテレビなら「お台場合衆国でアニメワンピースのARキャラクターと遊べる!」といった企画も可能でしょう。
ただし、ARは一過性とみており、中小企業が巨額の費用を投じるのは危険です。ARは生活に定着していくと見ていますが、それは補足情報を提供する「QRコード」の進化形という位置付けとして。それよりも中小企業向けの現実的なトレンド予測は「ケータイサイト」です。
東北での発見
全国展開するフィットネスクラブは支店ごとに独自サイトがあり、東京や大阪などの大都市圏のアクセス数が群を抜いています。アクセス数も地域人口に比例します。そしてアクセス数に一定の係数をかけた数が問い合わせや、売り上げにつながるのがネットビジネスの物理法則「アクセス数と利益は比例する」で、SEMやLPOといった「方法論」は係数を上げるための取り組みです。
ところがケータイサイトでは「地域人口」に比例しないことがわかりました。東北の支店が運営するケータイサイトのアクセスが、大都市圏のそれよりも多くなっているのです。ログを調べて、2つの理由がみえてきました。まず、「地域名」です。探したいキーワードに地名をプラスすると、該当するサイトそのものが地方では少ないのです。正確なデータは見つかりませんでしたが、その地域のサイト数は地域人口に比例するようで、競合するサイト数が少なければ地域のリクエストを独占できる確率は高くなります。
小資本で客を集める方法
もう1つが「広告効果」です。あるキーワードをケータイサイトで検索すると、東北支店の「広告」が最上段に表示されます。しかも最安値の入札で独占状態です。つまり、最少の広告費で最高の結果をケータイサイトでは得ることができていたのです。ケータイサイトにはまだ手付かずの市場が多く残されています。
昨年の「PCよりも3.3倍儲かるケータイサイト」で紹介したように、検索連動型広告におけるケータイサイトの「費用対効果」の高さはPCを圧倒しています。あるサイトの広告費を検証すると、昨年1~7月のPCでの顧客獲得単価は平均2万2,792円ですが、ケータイサイトでは6,843円と3.3倍の費用対効果が認められました。その後の8月から11月までを平均するとPCで1万4,488円、ケータイサイトが9,231円で、両者の差が縮まりましたがケータイサイトの費用対効果が高い状況に変わりはありません。
この変化はPC版のキーワードを見直し出稿価格を抑えたことと、ケータイサイトは「電話」での申し込みを重視する作りに変えたことも集計結果に影響しています。ケータイサイトを活用する際に端末が「電話機」であることも見逃してはならないポイントです。
鬼のように漁られているケータイコンテンツ
俗に「ガラパゴス化」と呼ばれる日本のケータイ市場は特殊な環境で発展しました。「ネット」においてはキャリア(携帯電話の回線会社)がお墨付きを与えた、「公認コンテンツ」と非公認の「勝手サイト」という区分もその1つです。ドコモなら「iメニュー」からたどれる公認コンテンツとなればアクセス数が急増し、課金モデルへの移行も容易で、ビジネスとして成立したことが「ケータイコンテンツ」を発展させた反面、勝手サイトにはアンダーグラウンドの匂いがつきまとい企業は敬遠しました。ケータイサイトへの取り組みが鈍いのはこの名残とみています。
ところがソフトバンクがヤフーを、ドコモとauがグーグルの検索エンジンを採用し状況が変わりつつあります。ケータイサイトのログをチェックしていると、鬼のように検索エンジンのクローラが巡回しており、全アクセス数の90%がクローラという日も珍しくありません。公認・勝手の区別がなくなり、ケータイサイトの「あるか、ないか」が問われる時代が間もなくやってきます。
ケータイの現実
結論に入る前にケータイ端末街角雑感を。
iPhoneやグーグル携帯といった「スマートフォン」の利用者が増えているといわれます。確かに都心部では見かけることが増えましたが、我が町足立区では見かけることは滅多にありません。「通話」と「メール」ができれば十分という人は少なくないのです。またこれは違法行為ですが、自転車に乗りながら携帯を操作するユーザーもいまだに多く、タッチパネルより「ボタン」の操作性が好まれることが理由かも知れません。
「生活インフラ」として溶け込んだケータイの好みに「十人十色」は色濃くあらわれ、1つの商品が市場を独占することはないでしょう。
あるかなしかでいえば
ネット通販の黎明期ではサイトがあるだけで売れる時代がありました。電話回線がネットインフラの主流だった時代、トップページを開くのに10分以上かかる「重い」通販サイトでも月に30万円以上の利益がでていました。選択肢がなければ客は不便を甘受します。
今のケータイサイトがこの状態で、さらに「地方」は競争相手が少ないようです。ケータイサイトは立ち上げるだけならば技術的に難しくなく、既存サイトからの「コピペ」でも間に合います。そして、ケータイサイトが少ない今だけのボーナスが「先行者利益」です。
さて2010年。この「予測」を活かすも笑うもご自由に。
ARについては少しだけ懸念があります。「顔認証技術」と「ソーシャルブックマーク」がマッシュアップされ個人情報がタギングされることです。小学校の時の粗相や、中学時代の成績などなど。もちろんこれらは道具(ツール)の責任ではないのですが、私がさらに気がかりなのは「異性交際履歴」がタギングされてしまうことです。
今回のポイント
“ある”というだけで有利なケータイサイト。
黎明期と同じ状況が起きつつある。
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