企業ホームページ運営の心得

エスキモーに氷を売っても、いらない社長にホームページを売るな

ホームページは必要ないと言う社長への対応方法
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の百伍十

どんな状況でも商談

昨年末、身内に不幸があり葬儀会場に詰めていました。段取りを追え、通夜までの空き時間にケータイを操作していると葬儀社の役員が近づいてきます。そして軽い挨拶のあと「ホームページ」の相談がありました。実は葬儀社は弊社の取引先の友人で、以前から互いに肩書きと名前だけは存じ上げていたのです。葬儀前に仕事の話しをと眉根を寄せるかも知れませんが、中小企業の経営者は「仕事の話し」をしていると落ち着くもので、私はそこに彼の優しさを感じたものです。

相談とは社長のことで、役員の父君です。社長はホームページにメリットを感じず、同じ費用を投じるなら「駅前看板」のほうが利益をだすというのです。役員は私と同年配で、ホームページへの取り組みの不十分さを自覚しており、それが焦燥感を生み、いつも「親子げんか」に発展すると自嘲します。

ホームページより駅前看板が重要という経営者はまだ多く、あるいはホームページを開設していてもおざなりなことは珍しくありません。そんな時、どうするか?

記念すべき150号は「ホームページをいらない」という社長への対応方法。もちろん、社内Web担当者にも通じます。

社長の感覚

いまだにホームページへの理解が低い「社長」から拝聴する代表的な意見は以下の3つです。

  1. 遊び
    コンピュータやインターネットの専門家でもなければコンピュータは遊びで「商売」にリンクしない
  2. 虚業
    ネットは虚業。ヒルズ族に代表される
  3. グローバル
    世界につながるインターネットは地域に密着した商売には不用

化石のような感覚と笑ってはいけません。これらに加えて中小企業の社長には「お山の大将」が多く、自分が一番であることを好み、そこから不得手なコンピュータを遠ざける傾向があります。また、こういう開き直りもよく耳にします。

「昔はインターネットもコンピュータもなかった。だから少なくとも俺の代はいらない」

だったらケータイもFAXも使うなよ! というツッコミはさておき、社長になるような「人種」は大なり小なり理不尽な要素をもっています。

炸裂する営業テクニック

以下のさわりを役員にアドバイスしました。

社長の主張を否定してはいけません。「そうですね」、あるいは「なるほど」と同意し、遊びという指摘には「つい、時間を忘れちゃうんですよね」と楽しさを強調し、虚業というレッテルには「ホリエモンとかいましたよね」とわかりやすい単語を持ち出して補足し、グローバルには「確かに……」と。これは営業の基本テクニック「同意話法」の入り口です。相手の話に同意することで「敵ではない」と錯覚させ、「……」のあとから、主張をはじめます。

「……そうなんですが、少し状況が変わったみたいですね」

人は味方の意見には耳を傾けます。ちなみに頭から否定する時は喧嘩を売るのと同義です。時に必要と私は考えますが、「喧嘩」とは「これで商売を止めてもいい」と覚悟した時にするもので、会社員なら「辞表」を書いてから啖呵を切らなければならず、リスクの大きさから他人にはお勧めしません。

社長の大好物とは

少しでも興味を持ったと見えたら、間髪入れずにケータイを取り出します。そして画面をひらき、極秘情報を囁くスパイのようにして語ります。

「ケータイの普及でワープロが使えない若者が増えています。ケータイでメールもネットも済ませるのでパソコンを使えなくなっているのです。そこでケータイ向けのサイトが重要なのですが……まだ対応している企業が少なく……美味しいのです」

ケータイサイトについては次回で触れますが、社長は「儲け話」が好きです。そしてインターネット黎明期の「濡れ手に粟」をちらつかせ、ケータイに舞台を移して同じことが起こる可能性を示唆するのです。儲け話に目を輝かせるのも社長という人種の特性です。

エスキモーに氷を売るノウハウ

そんなに上手く行くわけがないというご指摘もあるでしょう。もちろん、その通り。そんな時はどうするか?

答え:何もしない。

まったく興味を示さない社長にこれ以上の説明は不要です。なぜなら、興味を持たない相手に長々と説明を繰り返しても時間の無駄どころか、逆効果となる可能性が高いからです。

営業の慣用句に「エスキモーに氷を売る」があります。不用なものでも売りこむという意味ですが、実は「ものあまり」の日本では日常風景です。しかしホームページを不用と思っている人に、ホームページを売りつけることとはまったく意味が異なります。

日本人は不用なものを買っている

私が子供の頃「水を買う」は笑い話で、蛇口をひねれば飲める水に金を払う人は希でした。ところが今、ペットボトルの水を買うことを驚く人はいません。しかし、日本の水道水は全国的に「飲料」として問題がなく、必然性で比較すれば「エスキモーが氷を買う」と同じで、信州在住の方がサントリーの「南アルプス天然水」を買うのもまったく同じです。必要性がなくとも「消費活動」は起こるのです。

しかし「不用=いらない」といっている人に売りつけてはダメです。それを「押し売り」といいます。いらないという相手に売ろうとするのは、時間をかけて嫌われているようなものです。社内Web担当者でも同じです。材料を示しても社長が積極的にならないのなら、それ以上深く追ってはなりません。営業活動とは欲しい人を探す作業で、興味のない人を「折伏」する布教活動ではないのです。もちろん、押し売りは論外。

ケータイは生活インフラとして定着していますが、それでも「不用」という人もいます。ホームページも同じです。なくても商売が成り立っていれば「不用」なのです。取り組むことで、さらに売り上げを上げられる可能性はありますが。

ただし、いつ「心変わり」するかわかりません。その「いつか」のための「マエフリ」が「あなたの味方ですよ」という「同意話法」で、しつこく食い下がり嫌われるのではなく「何もしない」が正解なのです。そして同意話法は会社員の強力な武器となります。

今回のポイント

モノを売る前に価値観をすりあわせる。

嫌われてはマイナスになるところに注意。

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