“欲しい!”を加速させる方法。エスキモーに何を売る?
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百参十九
エスキモーに何を売る
商売の極意は「売れるモノを売る」に尽きます。売れる商品を仕入れることができれば、マーケティング理論も営業トークも不用です。20世紀の「たまごっち」や、スマホが世に出る遥か前のドコモ「Nシリーズ」のように、売れるモノが仕入れられれば商売は成功したも同然です。そして商売における最大の問題は、その売れるモノがなかなか見つからないことです。
そこで今回はセールスの話をします。「マーケティング」というぼやけた言葉ではなく、「売る」こと、「セールス」に絞ります。
セールスの世界で語り継がれる寓話に「エスキモーに冷蔵庫を売る」と「エスキモーに氷を売る」という話があります。どちらも大意としては不用なものでも売りこむということですが、現場の方法論としてみると両者は似て非なるもの。ちなみにいまは「イヌイット」と呼ぶようですが、本稿では「エスキモー」のままでお届けします。
氷か、冷蔵庫か
エスキモーの話の結論は、どちらも「売り方」にフォーカスするもので、「冷蔵庫」のオチは極寒の地で食材などを「凍らせない」ための道具として売り込むというものです。冷蔵庫の用途を「冷やす」と限定するのは売り手の思いこみに過ぎないという教訓です。ただし、北海道では寓話ではなく「実話」だと、札幌出身の知人が教えてくれました。
一方の「氷を売る」の方法論は諸説あるのですが、つまりは「付加価値を付ける」ということで、わたしはこれを営業マン時代の「セールス」の基本に据えました。それというのも、街角の「広告代理店」の仕事がエスキモーに氷を売るようなものだったからです。
毎日のように行列ができる焼肉屋に広告は不用です。閑古鳥の鳴く商店ではどうでしょうか。こちらは「売れないモノ」を扱っているところが大半で、チラシをまいたとて来店者はまばらです。来客「ゼロ」すら珍しくありません。そんなことはお客(クライアント)にとっては百も承知ですから、従来の広告媒体に「付加価値」を提示して、お客の目を引かなければ商談にすらなりません。わたしが街角の広告屋としてホームページや電子メールにいち早く取り組んだのは、この付加価値のためでした。
定価以上で売る方法
付加価値を本業にしたのでは本末転倒ですが、「インターネットブーム」にのっかり宗旨替えをしたのではありません。付加価値を付けることでモノが売れるのを実感し、その「場」としてWebが最適だと判断したのが理由です。
会社を辞め、起業してからしばらくはチラシやマーケティングの仕事が中心で、Webはまだ実験的に付加価値として提供するだけでした。そんなある日、とあるルートから大量のバレンタインデー用ギフトチョコレートが持ち込まれました。わたしがインターネットに詳しいと聞き付けた知人が、「ネットで売ってほしい」というのです。当時はお客の販促は手伝っても、自身で物販を手がけたことはなかったのですが、自身のセールス理論を実践できると安請け合いしました。
バレンタインデーという期間限定であること、準備期間がほとんどないこと、色んなセールスアプローチを試せることから選んだチャネルは「ヤフオク」でした。そこでは定価500円のチョコレートが最高830円で売れました。
「欲しい!」を加速させる方法
持ち込まれたチョコレートがコンビニで店頭販売されていたものだと知ったのは2月13日だったと記憶しています。一般的なお菓子にはパッケージの一部に「15」なら150円、「30」なら300円といった具合に定価が表記されているのですが、持ち込まれた商品は一切記載されておらず、持ち込んだ知人は売価も販売先も知りませんでした。コンビニで値段を知った時、購入者(落札者)に申し訳がないという気持ちと同時に、付加価値で売るセールス理論の正しさに身震いしました。
具体的な方法はパッケージに記された商品情報をつなぎ合わせて「希少性」「高級感」「物語」という付加価値を演出したのです。ここで「ブラック・テキスト芸」を使ったことはいうまでもありません。これをわたしは、「欲しい! を加速させる方法」と呼んでいます。
季節性という優位
厳選した原材料を独自の製法で仕上げました
このように印刷された商品パケージを見ることは多いでしょうが、ブラック・テキスト芸では「厳選」と曖昧な言葉を使わずに次のようにします。
名のある陶芸家が納得のいかない作品は世に出さず廃棄するように峻別された原材料
つまり「具体例」を加えるのです。この具体例の「ブラック・テキスト芸」についてはまた別の機会に紹介します。
極めつけは「物語」です。人は見知らぬ商品は理解できなくても、背景にある「物語」には共感できます。セールスマンの格言にある「商品を売るな自分(人物)を売れ」というのも同じです。バレンタインデーという季節性を利用して、提供した「物語」はこうです。
チョコレートを受けとった人が喜んでいる姿
買い手が望むハッピーエンドを用意してあげることで、「欲しい!」という気持ちを加速させたのです。
やっぱりエスキモーに売るのは
エスキモーに氷を売るには付加価値を付けます。「付加情報」といってもいいでしょう。しかし、冒頭で述べたように商売の極意は売れるモノを売ることです。付加価値を利用した「欲しい!」を加速させる方法の一端を紹介しましたが、この方法も「バレンタインデー」という時機を狙ったから成功したのです。
商品には売りやすい「時機」が存在します。それを裏付ける後日談を紹介します。バレンタインデーの成功に欲をかいた知人は、さらにどこかからか同様のチョコレートをかき集めて売ってくれと依頼しました。無理だと断ったのですが、「売れなかったら捨ててくれ」と商品を置いていきました。バレンタインデー終了後、売れたのは数個、売上は数百円だけです。我が社に残されたチョコレートは弊社専務の胃袋に納まりました。
いまから季節のイベントに取り組むなら「クリスマス」や「お正月」です。ただ、バレンタインデーよりは難関です。子供向け、カップル、パーティー、家族とターゲットが異なるからです。これを絞り込まないと、はっきりいって売れません。この理由については次回に掘り下げます。
今回のポイント
売れるモノを売る。売れる時期に売る
付加価値により高く売れる
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