プロアクティブに学ぶ、もっともっと売る方法論~セールス編後編~
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百四十
ヤフオクで大人狙い
前回はバレンタインデーと比較して、クリスマスやお正月の販促が難しいのは、子供、カップル、パーティー、家族と売るターゲットが異なるからだと指摘して終わりました。今回はその続き、セールスの後編。ターゲットを絞り込む理由から、何を売るべきで、どうやって伸ばすかという商売の基本を、およそ3分で語ります。
バレンタインデーでは、チョコレートを高く売るための付加価値として特に「高級感」を重視しました。実は「ヤフオク」をチョイスした理由の1つです。当時のヤフオクの参加資格は20才以上(現在は18才以上)となっており、大人相手なら「義理」でも「本命」でも「高級感」は有効だからです。ターゲットの絞り込みの一例で、学生相手では高級感は「(気持ちが)重すぎる」と裏目に出ることもありますし、予算の関係もあってそもそも高く売れることを期待できません。つまり、ターゲットの絞り込みとは「だれに売るか」ということ。
ちなみに「ヤフオクで高級品は買わないだろう」というのは現代からの評価です。当時「ヤフオク」は大ブームで、落札価格が高騰することは珍しくありませんでした。
選択肢の増加はプラスにならない
実はいま、バレンタインデーのチョコレートもターゲットの絞り込みが難しくなっています。義理と本命しかなかったところに、「友チョコ」と「ご褒美(自分)チョコ」が加わったからです。友チョコとは友人間でやりとりするもので、ご褒美チョコは頑張った自分へ少し贅沢なチョコレートを購入するものとして、どちらも定着しつつあります。ターゲットの増加は混乱の元凶で、1つでも多く売りたいという経営者の本音が現場を混乱させます。
「販売ターゲットが増えることは良いことではないか」という疑問をもった読者もいるでしょう。しかし、営業戦略は事業規模で大きく異なります。大企業のように経営リソース(資源)を多くもつならば、増加したターゲットにそれぞれの対策を立てることができ、収益の拡大が期待できます。しかし、中小企業や個人商店において戦力の分散はマイナスです。
30秒でわかる戦力分散がダメな理由
大手菓子メーカーが「本命」「義理」「友」「自分」のそれぞれに特設サイトを開設し、担当者を1人ずつつけたとします。対抗する個人商店は、1人ですべてに対応します。Web担当者が同じ能力だと仮定したとき、サイトの企画に始まり、メルマガ発行、Twitter、Facebookでの対応、ホームページからの問い合わせに答えるとして、「本命」「義理」「友」「自分」のそれぞれに接する物理的時間は個別の担当者がつく大企業なら100%、個人商店は25%となります。客側から見れば、担当者の人数など関係ありません。100%の対応と25%なら、どちらにロイヤリティ(顧客忠誠心)を感じるかは自明です。
原稿の折り返しに来たところで改めて伸べておきますが、本稿は「中小企業向け」です。中小企業のWebサイトにおいて「ターゲットの絞り込み」が重要である理由は経営リソースの分散を回避するためなのです。
市場の見えざる手
次に何を売るべきか。ウチにはチョコレートはないよという方もご安心ください。売るべきモノは、ズバリ売れている商品です。ネット通販でもリアルでも同じです。あくまで社内での比較だとしても、一番売れているものとはすなわち「市場優位性」をもっているのです。前回の冒頭に述べたように商売の極意は「売れるモノを売る」に尽きます。だから、売れている商品に経営リソースを集中します。
売れるモノに時間を割き、売るための努力を惜しまない。ホームページなら、トップページで紹介したり、コンテンツをブラッシュアップしたり、掲載する写真を何点か撮影し、定期的に差し替えて効果測定。付加価値を付けるのはもちろん、客の声の更新も忘れてはなりません。
ここで経営者が現場を混乱に陥れることがあります。売れない商品を売りたがるのです。特にネットで少しでも売上が立ち始めると、「あれもこれも」と欲張りになるのは経営者の習性です。経営者がサイト運営の邪魔をすることは残念ながら珍しいことではありません。
タヌキの皮を数え始める
実例を1つ。自社で設計製造した機械や工具を販売している、ある企業サイトで人気を集めるのが「電動リフト」です。他メーカーの製品の多くが、業務用の電源を引き込まなければならず、設置工事が大がかりとなり月々のランニングコストも高くなるのに対して、家庭用電源で設置できることが喜ばれているのです。この成功に気を良くした同社の社長が次に望んだのは「エアーコンプレッサー」の販売でした。仕入れて売るだけで、設置の手間もいらず、台数がさばけて儲かるだろうとは「タヌキの皮算用」。よくある話です。
客は売り手の都合で商品を買いません。付加価値を付けることで売れる確率を高めることは可能ですが、せっかく売れている商品があるならそちらに注力するのがベストです。ちなみにこのときは、エアーコンプレッセーを紹介する簡単なページを作成してお茶を濁し、十分な時間を確保して、リフトのコンテンツ強化に注力しました。これは余談ですが、自分のリクエストが通れば、それで満足する経営者は多く、往々にして「質」に頓着しません。
眞鍋かをりが雄弁に語る
売れるモノをより売る努力。実はとても当たり前のことで、業績を伸ばすはじめの一歩です。反対に中小企業の多くが、あれやこれやと手を出して、戦力を分散させています。みなさんは次の商品を取り扱っている会社をご存じでしょうか。
- 「ユースフル エッセンス」
- 「シアー カバー」
- 「ビタプロ」
- 「ウェン」
- 「リクレイム」
- 「ミーニングフル ビューティ」
- 「ズンバ」
わかりました? それではこれなら
- 「プロアクティブ(ソリューション)」
ご存じ真鍋かをりさんのCMで大ヒットしたにきびケア商品です。同商品を販売する「ガシー・レンカー・ジャパン株式会社」では、さきに名前を挙げた商品も取り扱っているのですが、他の名前をテレビCMで聞いた記憶がありません。「皇潤」の「株式会社エバーライフ」も青汁やお米を売っていますし、「伝統にんにく卵黄」の「株式会社健康家族」はキーマカレーも販売しています。しかし、われわれが目にするのは主力商品のCMばかりです。これも「経営リソースの集中」。もっともっと売るための努力です。
最後に「今回のポイント」を2週分のまとめとしてお届けします。
今回のポイント
ターゲットを絞り込み、付加価値を付ける
売れているモノをより売るために経営資源を集中する
- 電子書籍『マンガでわかる! 「Web担当者」の基本 Web担当者・三ノ宮純二』
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