コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百四十参
今さらでも多い相談
これからはブログだ! とはさすがにIT業界で耳にすることはありませんが、街角の中小企業の現場では減る気配がないどころか増えています。私の耳にしたところで、ホームページ制作業者にリニューアルを相談すると、ほぼ100%の確率で「ブログ」を勧められるといいます。それはMovable Type(ムーバブルタイプ)にWordPress(ワードプレス)、XOOPS(ズープス)などを利用したもので、最近のIT業界では「CMS」と呼びますが、一般(非IT業界)では馴染みが薄く、知名度の高い「ブログ」で説明されます。
そしてこちらも100%の確率で「ブログ(機能)」が設置されます。ブログは商売用ホームページを成功させる絶対条件ではありません。更新し続けることは難しく、続けたとしても商売の役にたたないブログも多いのです。ならば最初から「やらない」というほうが懸命なのですが。
……しかし。業務命令で選択権がない、または、もうすでに始めていて引き返せない、さらには商売用としての手応えをまったく感じないあなたに向けて「商売用ブログ 実践編」です。
ブログとはなんぞや
まず、ブログは目的で異なります。私は以下の5つに分けています。
- A:備忘録
- B:友人・連絡用
- C:集客
- D:ブランディング
- E:自己表現
Aがもっとも簡単で、Eに向かうほど難易度が上がります。AとBは「プライベート」の範囲ですから、ここでは取り上げません。どこでご飯を食べた、居酒屋で酒を飲んだ、結婚式に参加したなど、ちょっと前に流行った「社長ブログ」の多くはここに含まれます。最難関のEは論評やケータイ小説などの「作品」レベルの話しなのでこれもパスします。残った「集客」と「ブランディング」に商売用ブログでは取り組むのです。
ブランディングの高いハードル
商売用のブログは「集客」と「ブランディング」を繰り返すのが理想です。ところが「ブランディング」を成功させるには大きなハードルがあります。それは「照れ」です。
ブログでブランディングするには、自分をプロデュースしなければなりません。自分の素晴らしさ、自分の商品価値の高さ、希少性をブログで公開します。いわゆる自画自賛で、そこに彩りを加えるのが「外部評価」です。外部評価といっても「モンドセレクション」や「グッドデザイン賞」などがなくても問題ありません。友人知人、取引先にコメント欄で自分を褒め称えてもらえばOKです。
これはいわゆる「お客様の声」で、見ず知らずの「客の声」でも「なるほど」と参考にするあの心理を悪用します。照れずに自画自賛し、自分を褒め称える書き込みを「依頼」する精神力があればチャレンジする価値はあります。しかし「謙虚な日本人」ならば、次の「集客」に集中してください。余談ですが友人知人、取引先を「先生」「社長」として互いに褒めちぎっている人たちは実在します。
もっとも簡単で続けやすいブログ
もっとも続けやすい商売ブログが「集客」です。
ブログを書き続けているのに効果がないという人は「集客」を意識しておらず、これでは何年書いても商売用にはなりません。集客のポイントは「狙う」です。
たとえば「和菓子屋」ならどちらがブログのタイトルとして適切でしょうか。
- アラフォーオヤジの備忘録
- 粒あんにこだわる和菓子屋のブログ
正解は2です。
サイトへの訪問者は「検索エンジン」を経由してきます。要求されたキーワードが掲載されているページを検索結果として表示するのが検索エンジンの仕組みで、「タイトル」にキーワードがあれば検索順位は上位になると考えられています。いわゆるSEO(検索エンジン対策)です。そこから「粒あん」「和菓子」を織りこむことが「狙う」です。2のタイトルなら、和菓子屋のブログであることもすぐにわかります。
ブログを続けるには関連力
タイトルだけでなく「エントリー(本文、記事)」も「狙い」ます。
「和菓子関連のキーワードをエントリーに散りばめる」
これはSEOの他に2つのメリットがあります。まず「ぶれない」ことです。ある日は政権交代を語り、翌日は飼い猫の話しを脈絡なく書き散らかしても、友人や知人が読むぐらいに過ぎず、和菓子屋の商売に役立つことはありません。
しかし、狙うことで政治ネタを和菓子屋の商売用に変換するのです。こんな感じで。
「政権交代といえば、鳩山民主鳩サブレなるお土産があると聞きました。そこでしょっぱい塩飴を作って“自民党の涙”というのはどうでしょうか」
「鳩サブレ」と「塩飴」です。お菓子だけでなく求肥(ぎゅうひ)や和三盆といった原材料でもOKです。和菓子の「関連キーワード」を織りこむことでブログのぶれを抑え「和菓子屋」を読者に印象づけSEOも期待できます。これを「関連力」と呼んでいます。
体験を関連づける
ネタ切れを撲滅できるのが「関連力」のもう1つのメリットです。本稿執筆時ならこんなエントリーとなります。
「のりピーの裁判報道を見てドキッとします。先日、極上の白い粉を入手したからです……飛騨高山産の上新粉ですが」「狙う」意識が、時事を記事にします。これも「関連力」です。そしてネタは無限となります。さらに「関連力」にはこんな応用方法があります。
「のりピーがジャイアント馬場とジャイアントコーンのCMにでていたことを思い出した。あの頃、和菓子屋を継ぐなんて想像もしていなかった」
ニュースをきっかけに自分の歴史を語ります。時事と「懐かしネタ」を結びつけることで読者との共通体験を演出できるのです。そして「時間軸」を使えるようになると、ブログのネタに困ることはありませんが……これはまた別の機会に。
「狙う」は商売用ブログの基本に過ぎません。しかし、この基本すら教えずに「ブログ」を売りつけるホームページ屋が後を絶ちません。それはまるで運転方法を教えずに自動車を売りつけるようなものです。また冒頭に述べたように必ずしも「ブログ」が必要ではない客に売りつける様は、魚屋にトラクターを売りつけているようなもの。ところがこれが多くて多くて。
今回のポイント
商売用ブログは狙う。
続けるためには関連力を磨く。
- 電子書籍『マンガでわかる! 「Web担当者」の基本 Web担当者・三ノ宮純二』
- 企業ホームページ運営の心得の電子書籍
「営業・マーケティング編」「コンテンツ制作・ツール編」発売中! - 『完全! ネット選挙マニュアル』
現場の心得コラムの宮脇氏が執筆した電子書籍がキンドルで2013年6月12日発売! - 『食べログ化する政治』ネット選挙が盛り上がらなかった理由はここにある(2013年8月1日発売)
コメント
宮脇さんの写真が・・・
素敵に変わられましたね。
信用度200%以上アップ?かもしれませんが
ちょっと寂しい気もします。
ありがとうございます
ありがとうございます。
Web担当者は裏方であるという考えからぞんざいな写真を使っていたのですが、いまさらながら自分が文章の商品の一部であることに気がつき撮影しました。
こっぱずかしいのですがサイトも編集長以下、担当者、また他の執筆者さまがいて成り立っておりてめえの「羞恥心」を優先させるべきではないと。この思いは特に三ノ宮の漫画で牧岡ちかひで先生との共同作業で強くなりましたので。
そしてご意見、大変嬉しく思います。「信用度」が狙いでの写真でした。
以前の写真は街角のスナップのその他大勢からの切り抜きだったので。
それと以前の記事で「顔をさらせ」といったこともあり、クライアントには積極的に顔出しを薦めているのに、自分だけ無難な写真を使っているのは卑怯ではないかとも。
和菓子というのは
Web担当です。いつもためになる盛りだくさんの内容をありがとうございます。
和菓子が例なのは、メルマガに書いてあった、某お土産やさんへのサービス
なのでしょうか。
(お礼コメントに対しプライスレスのお菓子を送ってくれたというお話の)
ネタはストックしているものではなく、ひねり出すものなのですね。
応援に感謝して今回の舞台裏を
応援コメントありがとうございます。
ネタはひねり出す。
はい毎週産みの苦しみのなかで生活しています。お土産もの屋さんは「企画会社」なので和菓子限定ではありません。感謝の心は持ちつつも、書いた記事に執着しすぎないことも続けるコツで、今回はすっかり忘れていました。
応援に感謝して今回の舞台裏を。
1:いつか商売用ブログの書き方に触れようと考えていた
2:相談に見えた方がブログの書き方を知らずにやみくもに書いておりレクチャーすると驚き、教えてくれなかった制作業者に怒っていた
3:近所の時計屋がホームページを開設してブログも同時にはじめたがその内容は「B:友人・知人向け」に溜息
4:朝の散歩時、その時計屋の前を通りネタにすることを決意して、プロットをまとめている時に通りかかったのがこれまた近所の和菓子屋で、「和菓子屋ブログ」を自分が書くならとエピソードに採用
ネタはネットより街角に転がっており、以前書きましたが散歩しながらケータイで原稿のプロットをまとめています。特にネタに詰まっている時は。
重ねまして、ありがとうございます。これからもご感想をお聞かせください。