企業ホームページ運営の心得

テクノラティを絶賛していた人々へマキアヴェッリの言葉を捧ぐ

Twitterは今を表現する、ブログが登場した当時も同様に言いはやされていたのを思い出しました
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の百四十四

迅速すぎる終了

テクノラティジャパンが今年の10月23日にサービスを終了しました。テクノラティとは「ブログ」に特化した検索サービスで、Web 2.0がかまびすしい3年前に出版されたあるムック紙、『WEB2.0への道』でこう紹介されます。

ブログ検索エンジンとして先陣を切って登場し、その特性を活かしたリアルタイム性を武器に、独自のニーズを掘り起こしている。旬な話題や商品評価の調査などマーケティング分野への応用が期待されている

テクノラティは特定のキーワードがブログに出現する状況を捕捉し「トレンド」を追うことができ、更新情報をもとにしているのでリアルタイムの「今」に特化できるとIT業界で注目されていたのです。ひっそりと幕を下ろしたと知り、当時の資料を紐解いてみました。するとWeb 2.0からTwitterに至る道程と中世の思想家の言葉が重なりました。

石ころの自動生成

実際に使ってみると、テクノラティでは書かれた直後のブログを見つけられたのですが、掘り下げた考察や貴重な情報より、「旬」のキーワードを書き散らかしたものが多く、まるで「2ちゃんねる」の「2ゲット」のようなエントリーが並びます。さらに「ブログ」で、ニュースサイトなどのフィード(更新情報、記事の要約)を転載する方法が一般化し状況は悪化します。自動的にフィードを集めるプログラムを用いてブログを更新するもので、その「パクリ」も検索エンジンはコンテンツとして認識します。そして「同じ内容」が検索結果に並び、利用者はその検索精度に不満を覚え離れていきます。これはテクノラティだけでなく、すべての検索エンジンが抱える課題です。

ブログの玉石混淆についてWeb 2.0を解説したIT業界人の多くが「玉に注目すべきだ」と主張していました。デメリットよりもメリットに価値を求めよというものです。いわゆるIT業界人と私の決定的な視点の違いはここにあります。

現実にひざまずく瞬間

悪貨は良貨を駆逐する

とは16世紀イギリスの故事に由来する言葉で、私はブログを同じ視線で見ていました。石ころが無尽蔵に流通すれば、玉は埋もれると見ていたのです。性善説と性悪説の違いで、私は後者。商売をしていると「性悪説」の視点が身につくのは「万引き」をイメージすればご理解いただけることでしょう。

1日に100PVしかないブログでも、同じブログが100サイトあれば1万PVとなり、アフェリエイトが石ころの生産を加速させます。先ほどの方法を使えば、自動で「フィード」を集めてきてそれをコンテンツにできるのです。設置さえしておけば、あとは誰かが広告をクリックしてくれるのを待つだけで、小銭がチャリンと落ちてくるという仕組みです。

愚かと幸せの境界

小銭のために100サイトも作らない。と思うかも知れませんが、人の価値観はそれぞれです。たとえば「アンケートサイト」に夢中になっている主婦は「暇な時間を使って小遣いになる」と目を輝かせます。あるアンケートの回答時間は5分で10ポイントが報酬です。ポイント=円ですから時給120円。本人は幸せです。自動石ころ製造機は、設置すればあとは放置できるので経済合理性はこちらの方が高いといえます。そして石ころが過剰生産され、増えすぎた石ころが「Web」を埋め尽くした先に何が待っているかに思いを巡らせることがないのは性悪説にたてば自明です。

一方、IT業界人は「性善説」をもとにします。Web 2.0以前から、Twitterの現在までぶれない姿勢は見事です。そして海洋国家「ヴェネツィア」の興亡を描いた塩野七生さんの「海の都の物語」で紹介している中世の思想家マキアヴェッリの言葉と重なります。

現実主義者が誤りを犯すのは、往々にして相手も自分たちと同じように考えると思いこみ、それゆえに馬鹿なまねはしないにちがいない、と判断した時である

マキアヴェッリの指摘

501年前のヴェネツィアは合理的に状況を勘案し、法王庁が敵対するわけがないと「思いこみ」窮地に陥ります。マキアヴェッリの言葉の「現実主義者」を「IT業界人」に置き換えるとピタリと重なります。実際には「馬鹿なまね」の発生頻度は高いのです。

時を現代に戻します。Twitterに関してこういう論を見かけます。

Twitterは“今”を表現する

これに対してブログは過去のできごとを記すと続けます。ブログを日記とするなら、Twitterとはガンダム発進時の「アムロいきま~す!」を投稿するようなものでしょうか。懐かしい話しです。ブログが流行した時、いや、「日記型掲示板」の隆盛時です。

ブログ(日記型掲示板)は思ったことをすぐ公開できる

HTMLで作るホームページと比較して、こう言いはやされていました。

Twitterに、いつかみた影

忌野清志郎さんをCMに起用し、一発検索をうたった「ASK.jp」検索サービスは今年の6月に終了し、フィードにより特化した検索エンジン「Feedster」は2年前にサービスを終了していたようです(インターネットアーカイブの記録より)。どれも冒頭のムック誌でIT業界人が注目し、一般人の認知度が低いまま消えていったネットサービスです。

「これからはTwitterだ」

と「今」を発信するITサービスの喧噪をよそに、「今」に特化したテクノラティジャパンはひっそりとサービスを終了したことに運命の皮肉を感じます。

今回、時系列でIT業界著名人の発言を追ってある発見をしました。ビジネスの破壊、恐竜絶滅級の大変動、取り残される人々などなど。書籍や雑誌でWeb 2.0以後の大胆な「未来予想図」です。ところが「解決策」をつねに「次世代」に委ねるのです。ある人は1975年以降に生まれた若者に期待を寄せ、ある人は生まれた時からインターネットがあった世代に託します。つまりこういこうこと。

「先送り」

非常に日本人らしい解決策に微苦笑しました。

今回のポイント

トレンドを追うなら「非IT」を定点観測。

数年前の書籍や雑誌は一級の検証ツールとなる。

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