路面店ホームページとお客をつなぐラストワンマイルの基礎的要件、それは“なま情報”
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百四十伍
生「萌絵」の可愛さったら
先日、連載漫画「Web担当者 三ノ宮純二」の打ち上げがありました。連載中はFAXやメールでやり取りしており、関係者が一堂に会したのは実はこの日が初めてで、私はそこではじめて「なま」の漫画原稿をみました。睫毛の毛先がしゅっと「ヌケた」線で描かれている「なま萌絵」は、「Web萌絵」の30%増し(当社比)の可愛さです。そして会場となった南青山の洒落たレストランへの道程、商売用の「なま」の大切さを再発見したのでした。
時間をでかける前に戻します。レストランの場所を「ネットで検索」してチェックします。しかし、南青山に馴染みがなく、グーグルストリートビューでみてもイメージできません。そこで「ケータイ」を活用することにしました。「地元」で商売している私は、知らない街を歩くことは少なく、モバイルWebの顧客誘導力を体験する良い機会だと考えたのです。最寄り駅とレストランのケータイサイトだけをチェックして地元の駅へ向かいます。
徒歩3分が5分にのびた
地下鉄のレストラン最寄り駅に到着しました。駅のホームから店のケータイサイトにアクセスします。ケータイサイトは飲食店紹介サイトのぐるなびに作られており、最寄り駅の1A出口から徒歩3分とあります。東京の地下鉄は出口によって、目的地までの方角と距離が大きく異なり出口番号は重要です。1A出口から地上に出て「地図」をクリックし、頭を抱えます。表示された地図に地下鉄の出口がありません。つまり、地図上のどこに自分がいるかがわからないのです。
通常「地図」は北が上です。知らない街で方角を知るには太陽を追うのが一番ですが、日の暮れたビル街では「東西南北」がわからず、星座の位置から方位を確認するには東京の空は明るすぎました。そして目の前の大通りの名前もわからず、居場所を知る手がかりがないことに愕然とし、周辺地図をプリントアウトしておけば良かったと後悔します。
マルチパスに騙されて
ふたたびケータイに目を落とすと、地図の下に「現在地から」とあり、GPSで位置情報を確認しルートを示してくれるとあります。クリックします。「徒歩5分」と表示され地図上に赤線でルートが示されました。徒歩時間が2分延びましたが気にせずに指示に従いしばらく歩いてみます。しかし、地図と街並みがどうもあいません。地図は緩やかに左に曲がっているのに目の前の道はどこまでも真っ直ぐに延びています。そこで再確認すると、どうやら私は反対側にいたようです。つまり反対車線にいるとGPSは判断して道案内(ルート)をしていたのです。
ビルや地面に電波が「反射」して起こる現象で「マルチパス」と呼ばれます。この「誤差」の差分から地図上の現在地を把握できました。そして10分ほどロスして徒歩3分の地下鉄出口まで戻り、リスタートです。
ラストテンメートルに迷う
現在地がわかれば地図をたどるだけです。徒歩3分でたどり着いた場所には複合ビルがあります。1階がカフェで2階にレストランがありますが、指定された店名ではありません。ビルの周囲をぐるっと回ってみますが別の入り口はありません。GPSで確認するも、相変わらず私は反対車線のゴーストです。途方に暮れていると、送別会とおぼしき団体がビルの左側の奥に向かって歩いていきます。「しらふ」のようなので店に向かうと判断し、後を追います。すると左側の奥にも飲食施設があり、そこの2階に指定された店を発見したのです。
距離にしてわずか10m。その僅かな距離をつなぐ難しさを「ラストワンマイル」と呼びます。ラストワンマイルとは、通信事業者と利用者がつながる最後の工程を表す言葉として生まれ、ビジネスでは顧客の購買行動を決定づける最後の一押しとして使われます。
客の最も知らない情報
落ち着いてビルの正面に立てば、左の奥に光るイルミネーションを発見したのかもしれません。しかし、迷った末にたどり着いた場所が「別の名前」だったときの焦りは、私から冷静な判断を奪いました。打ち上げという約束があったので、必死になって探しましたが、私一人で食事するなら、通りの裏側にあった田中義剛さん経営の「花畑牧場 ホエー豚丼」にプラン変更したかも知れません。わずか10mで客を奪われるとしたら………もったいない話です。
翌日、飲食店情報サイトをチェックしてみると、メニューや店内風景の写真ばかりで「店舗外観」を載せていない店を見かけます。通りに面していない1階以外の店でも未掲載です。ホームページをみるのは土地勘のある客ばかりではありません。むしろその特性から、地元以外の客を呼び込むことを期待されているツールです。ところがサイトには住所と地図しかなく「探せ」といわんばかりです。
もてなしの心で
初めて訪れる店は、店舗周辺まで行ってから迷うことがあります。これは店の外観、つまり「なまの店」を知らないからです。たびたび紹介している行列ができる焼き肉屋「スタミナ苑(東京都足立区)」のホームページに掲載している、店舗写真は客のいない昼間に撮影したものにしているのは、行列のない「開店前」に来店するお客様向けです。店舗外観という「なま情報」は客にとってラストワンマイルをつないでくれる重要情報です。
「雑居ビルのなかで外観はみせられない」
こんな事情もあるかも知れません。その場合はこうします。
地下鉄1A出口をでましたら、そのまま道なりにお進みください。外苑西通りという大きな通りにでたら横断歩道を渡らずに左へ曲がり、コンビニを越えた次のビルの左手奥の2階でお待ちしています
「なま情報」は文章でも代換え可能です。ホームページを見て来店する客は「なまの店」を知りません。こうした案内を野暮ったいと思うかも知れません。しかし、客が迷うことなく、辿りつくための手助けとして「店舗外観」を掲載し、あるいは誘導のための「なま情報」とは、すなわち「もてなしの心」なのです。そして本稿は、内装とメニュー写真しか掲載されていない飲食店サイトへの提言です。
今回のポイント
ホームページを見て来店する客は店を知らない。
最後の一歩を半歩にする努力。
追伸。当日、牧岡ちかひで先生と担当編集のNさんが、地図の「プリントアウト」を片手に来店したのを私は見逃しませんでした。そしてこれは社会人として大正解。「ケータイ」で事足りても、機械は「故障」するものという前提に立ち、プリントアウトとケータイを併用するのがビジネスにおけるリスクヘッジです。
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