黒か白か。デスマーチを回避する事業仕分け
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百四十六
世界2位では意味がない
民主党政権が取り組んでいる「事業仕分け」。予算の細目を白日に晒すことで無駄を排除し、効率的な予算編成を目指す「取り組み」は高く評価しています。しかし、無駄の削減は当然としても、必要な経費を使わなければ経営が成り立たないのは国家も企業も同じです。この観点から気になったのが蓮舫参院議員のこの発言です。
世界2番ではいけないのですか?
科学技術立国の象徴的意味合いも強い次世代スーパーコンピュータ開発で、目標に2番を掲げる経営者はいません。売り上げやシェア(市場占有率)などの「結果論」としての2番と混同しているのではないでしょうか。そこに「事業戦略(国家戦略)」が見えず、予算を削りたい「財務省」と変化をアピールしたい「民主党」の思惑のコラボのようにみえるのが気になります。
IT業界の現場でもまた「仕分け」が求められています。デスマーチとは作業工程の不良資産化のあらわれで、業界の構造改革が喫緊の課題ではないかと危惧しています。
定時退社は都市伝説
2ちゃんねるの書き込みから生まれた書籍を原作とした「ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない」の映画で品川祐さんのこんな台詞があります。
定時なんてもんはなぁ、都市伝説だ馬鹿
終電に間に合えば幸運で、仮眠室は満室どころか、睡眠がとれるだけでもありがたいという職場はたしかにあります。しかしIT企業でも定時退社できるところは多く、また年次有給休暇をほぼ消化できる会社もあります。それぞれに事情は異なりますが、私の調べたところ、両者を分ける大きな特徴が「仕分け」です。
フォトショップの性能と個人差
辞書で仕分けとは「区別や分類をすること」とあります。ブラック会社にないのは「仕事の仕分け」です。ホームページ制作会社を例に挙げると、クライアントとの打ち合わせや折衝といった対外業務を外した「実務」に絞っても、サーバー設定、テキスト入力、テンプレートデザイン、画像処理、イラスト作成、プログラム開発に設置など、さまざまな作業工程があります。これを担当者1人に負わせているのがブラック会社にみられる特徴です。
20世紀のソフトウェアは「職人的技量」が求められるものが多く、フォトショップでの「切り抜き」や「消し込み」は職人の腕の見せ所でした。しかし、現在ではこれらの処理は「誰にでもできるレベル」にまで簡単になりました。また各種ノウハウも「ネットで検索」すれば答えは簡単に見つかります。そしてこういう状態を生み出しました。
できるかできないかでいえば、できる
つまり、多少の無理をすれば1人でできる環境が整ったことが個人負担を増大させています。
ABC、あるいは123に分ける
人には得手、不得手があります。最新のフォトショップを使えば簡単にできる作業でも能率に個人差があらわれます。デザインセンスに優れている人もいれば、発想は凡庸でも早く仕上げることが得意な人もいます。また、ホームページ制作のノウハウと「文章力」は別次元の能力です。これらを「仕分け」して適材適所に割り振っている会社ではデスマーチが常態化することはありません。
また、ある個人で作業が滞るのなら、これを「ボトルネック」と認定し解消する作業も「仕分け」です。別の言葉を使えば「マネジメント力」で、日本のIT系企業に不足している技能です。
私は作業を以下の3つに仕分けることを提案しています。
- A:専門性が必須
- B:知識が少し必要
- C:誰でもできる
Aはプログラミングやデザイン、フォトショップ、イラストレーターの技能による分類です。さらにそれぞれの得意分野が明確な場合は再度振り分けます。この時、Aのポジションが多いのにデスマーチになっているのであれば、処理能力と配置から仕分けなければなりません。
ブラックかホワイトか
Bの場合、特定の操作方法をレクチャーすることで「素人」でもフォトショップでの作業が可能となります。弊社では「画像サイズの変更」程度のことなら、入社初日のパートさんにもやらせており、コラージュなど専門性の高い仕事と仕分けしています。最後のCは競合サイトのURL集めやテキスト入力など、本当に誰にでもできる仕事だけを集めます。そこで効率は求めず、不用になるかも知れない情報も含めて収集させ、使わない可能性があるテキストも入力させます。この仕分けの最大の利点は電話番の「事務スタッフ」も戦力化できることです。
そしてBとCの取り扱いがブラックとホワイトの違いを生みます。BとCの活用によってAのポテンシャルを最大限に引き出せるからです。専門性の高いAが雑務をこなしている現場は少なくありません。
さらに作業内容を「頻度」で見直すことも重要です。
事業仕分けによる精査
保守まで含めた契約のクライアントと、納品(公開)だけの案件では「作業頻度」が異なります。前者は継続的な作業が見込まれることから、BとCを「担当者」に育てることで、将来的に生産性を上げることを視野に入れなければなりませんが、後者ならその気遣いは不用です。これらもABC、または123と仕分けて「チーム」編成をできているのが「ホワイト」な会社です。
一方、ブラック会社は短期的視野しか持たず、作業分類も育成という概念もありません。またブラック会社ほど「個人依存度」が高くなる傾向があります。分業制を強いていても、分業の振り分けが管理者の勘や気分に左右されていることがあり機能していないのです。意外に「暇」な人がいるのがこの職場の特徴です。デスマーチな自分の隣でのんびり休憩を取れる人がいるなら「事業仕分け」を疑ってください。
ただし「仕分け」は手段であり目的ではありません。ブラック会社のなかには仕分けにばかりこだわって、仕事が遅々と進まないケースもあります。それはまるで枝葉末節に熱視線を注ぎ、木をみて森を忘れ、3兆円削ることに熱中しながら95兆円の予算を組んでいる、どこかの国の与党のような。
今回のポイント
仕分けは組織活用の基本。
それが経営リスクのヘッジとなる。
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