企業ホームページ運営の心得

ホームページが失敗する理由。成功例に憧れず失敗から学ぶ

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の参十八

敗軍の将、何も語らず

「あの肝がいけなかったのだ」と絶命。

猛毒のテトロドトキシンをもつフグが食べられるようになった寓話で、「あの部分を食べなければ」と残された言葉から安全な箇所が特定されていったというものです。

人類の歴史は失敗の歩みです。成功は失敗の一例に過ぎません。

ところが巷にあるのは成功例ばかりです。日経ビジネス誌の人気連載「敗軍の将、兵を語る」のように、著名人や大企業のものはたまに目にしますが中小・零細となると殆どありません。

理由は簡単。語られないからです。

そして、中小企業ホームページの失敗の元凶と語られない理由は重なります。

異常な光景に気がつかない

技術や知識不足、また規模での失敗はあまり多くありません。

高度情報化社会の日本国内で、情報格差はほとんどなく、あるとすれば「情報感度の格差」です。但しこれも規模の大小はまったく理由にならないことは、個人や零細企業でホームページを活用している事例からも明らかですし、知識不足ならば業者を雇えば良いだけのことです。

中小企業のホームページが失敗する理由は違うところにあります。

それは、客観視できれば「異常な光景」ですが、日常に起こり失敗が量産されそして隠蔽されています。

現物を見せろと迫る社長

昔の勤務先での話。

クライアントのホームページを制作しているのに、自社にホームページがないのはおかしな話です。そこで開設したいと稟議書を提出すると「概要をだせ」となりました。徹夜の勢いでまとめ、提出すると社長は「サンプルを見ないとわからない」といいます。

サンプルとは画面で確認できるもので実物を作ることを指します。トップページと一部のコンテンツを作りお伺いを立てると「クリックしてもいかないところがある」とおかんむりです。そして「素人だから全部を見ないと判断できない」と胸を張ります。

稟議書も概要もサンプル作りも就業時間外のただ働きです。

フジテレビと同格だと勘違いする

ただ働きの末に作り上げました。できあがりを見た社長は

「動かないじゃないか」

トヨタやフジテレビのサイトを引き合いに出して不満を並べます。

時代はテレホーダイからフレッツISDNという移行期で、通信回線の貧弱さから重いサイトは嫌われていました。残念ながらトヨタの新車や、フジテレビの番組のように遅い回線でも我慢してダウンロードを待ってくれるほど魅力あるコンテンツはないことから、簡潔をよしとしてまとめたのですが気に入らないといいます。

曰く「我が社の品格を損なわないように」、フジテレビに劣ってはダメだと。

そこは50人規模の会社でした。規模がすべてではありませんが、彼の頭の中では同格の扱いだったようです。

ボスキャラ登場でクレーム発生

このサイトは3年以上かけ、私の退社後に公開されました。トップページに戻るたびにフラッシュ動画を最初から見せつけられるという厄介な形で。

つい最近の話です。

所長と担当者からのヒアリングから、数か月後の「繁忙期」に検索結果に反映させなければなりません。そこで、成功確率を上げる為、豊臣秀吉の「墨俣城」のように仮サイトを迅速に構築し、その後中身を充実させていくことにしました。手間の分は弊社の持ち出しですが、広告予算もなく知人の紹介ということもあり仕方ありません。

ところが、墨俣城にクレームが入りました。

「可愛くない」「色が薄い」「動かない」

ノータッチだった「社長」がでてきて拒否権を発動したのです。

紹介と言うことで決定権者を確認しなかったのは私のミスですが、あとで変更できる、修正していくと説明しても聞く耳はありません。

枝葉末節、本末転倒が仕切る世界

「可愛い」は主観によるのですが、代換え案を提出しても気に入らず「コピーして使えるイラスト集」から「こんな感じ」と指定したのは「白黒コピー」です。

色はコントラストで表情を変えます。白に浅黄は見えにくいものですが、濃緑ならば白では出せない爽やかな濃淡を演出します。ところが指示はすべて「濃く」です。

背景写真を淡くして文字を目立たせるようにするデザインは、フジカラープリントのように写真をハッキリクッキリしろとやり直しを命じます。当然のように配色が崩れると、今度は気に入らないと呟きます。

企業カラーやCI、イメージキャラクタからのリクエストではありません。それぞれのアイコン、ボタン、イラストという枝葉末節だけへのコダワリです。

商売用ホームページは結果を出すためにあると考えるのですが、彼にとっては自分好みになることが何よりも優先されるようで、四字熟語で言う本末転倒です。

詳しくない社長が諸悪の根源

こちらも「動く」にご執心でした。GIFアニメで作られたこまごまと動くアイコンやボタンの、フリー素材ページを私に見せて「こういうのが大切なんだ」と末節へのコダワリを説きます。

前述から8年以上経っているのですが、どうにも御山のてっぺんにいる人は「動く」ものが好きなようです。

結局、お断りしました。社長の趣味の手伝いは私の仕事ではありません。

中小企業ホームページの失敗のほとんどは「社長」が犯人です。このコラム連載で「社長を巻き込め」と初期に綴った、もう1つの理由です。

素人を理由にした社長は「私が分からなければ訪問者も分からない」と自慢気でしたが「あんたより知らない人を探す方が大変だよ」という台詞を飲み込んだのは直属の上司が後で虐められるからです。

知らないことを恥じずに自分が正しいと押し通したり、ホームページで飯を食べているプロの私にズブの素人がご高説を垂れます。

一般常識から見て異常な光景がまかり通ります。

社長は時として裸の王様となっています。そして裸の社長以外は責任の所在を知っています。だからこそ、語ることなく闇に葬られます。「当社はホームページに馴染まないから」などと添えて。

失敗例が流通しない理由です。次号更に踏み込みます。

♪今回のポイント

毒にも薬にもなるのが社長。

雇われウェブ担当者は本稿をプリントアウトしてそっと社長のデスクに。

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