企業ホームページ運営の心得

手軽で実用性の高いサクセスストーリー。ペンだけで作れる販促コンテンツ

社長を巻き込み、ビジネスパートナーとなるのに有効な「社長物語」の作り方を紹介
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の弐百七

初手としての媚び

サイトのデザインは54%が『好みで決定』」という記事をWeb担のメルマガで知りました。ツイッターでの反応を見ると「あるあるネタ」としての受け止め方が若干多かったでしょうか。現場からみれば当然の話で、社長と近くなれば、提案も通りやすく、信頼を深めれば「ビジネスパートナー」に昇格できます。私が繰り返し「社長を巻き込め」というのは、こうした経験に基づいてのことです。そのためには「媚び」も売ります。打算を踏まえて最善を追求するのもプロのスキルです。もっとも私は「喧嘩」も売ってしまうのですが。

ビジネスパートナーとなる定石は「気に入られる」ことです。その「初手(しょて)」として、私が使うのは「社長物語」。社長の成功を物語仕立てにしてコンテンツにします。作文だけのわりにメリットが多いのでオススメです。もちろん、その恩恵はWeb担と売上にも波及します。

社長という生態

まずミもフタもない話を。社長になるような人間は自分が大好きです。事業を興した「創業者系社長」のよるべき所は自分です。多くの仲間や協力者がいても、最終決断を下してきたのは自分で、間違っていないから今があるのだと肯定し、自分を愛する心が強くなります。一方の内部昇格による「社長」も社内の出世競争を勝ち抜いた勝者で、こちらもまた自分が大好きです。

どちらも「社長物語」を喜びます。この部下(Web担、または業者)は自分のことをわかっていると。日本人らしく口では謙遜しても、実際に文章を作ってみせて、不採用にした社長はいません。プレゼン(サンプル)段階で「作文」を読ませることで、デザインの打ち合わせもスムーズに進みやすいのが1つ目のメリットです。

物語の基本形

自分が主役の「社長物語」の一番のファンとなり、公開に向け関係各部署にハッパをかけることが2つ目のメリットです。残りのメリットについては、「作文方法」のあとに紹介します。

漫画原作「Web担当者 三ノ宮純二」を手がけるにあたり、担当編集者にこうアドバイスされました。

大きな物語を軸に、小さな物語がめぐるのが良い

社長物語の結論は「いま」を伝えるハッピーエンドで、これを大きな物語として作文します。「いま」がゴールのハッピーエンドになる点も社長が喜ぶ理由で、半ばお世辞でOKです。現在に至る過程のトラブルが小さな物語で、起業時の資金繰り、支店開設時の徹夜作業、客とのトラブル、サイト立ち上げ時の苦労などを小さな物語として盛り込むことで、読者はハラハラドキドキと引き込まれていきます。そしておべんちゃらだけではなく、多少の都合の悪い話を盛り込むのが「ミソ」。都合の悪い話を扱うときにはさじ加減に注意が必要ですが、これにより筆者(自分)を「正直者」と社長は認め、いえ誤認します。

三丁目の夕日にならう

ハッピーエンドに突き進む話はうっかりすると「自慢」になります。

私は学校を卒業する年の1月から就職活動を始め、2月の頭には内定が決まりました

これだけでは、就職難にあえぐ今の学生にとっては「自慢?」と捉えられ、苛立たせてしまうかもしれません。それを回避するために「時代背景」を用います。上記を例にするなら、次のように加えます。

昭和から平成にかわった当時、人手不足倒産が噂されるほどの空前の売り手市場(求職者に有利な状況)だった

「時代背景」を説明することで客観性を演出しながら、時代を借景として利用し、成功は時代のお陰とさりげなく示唆することで物語に「謙遜」をふりかけます。種を明かせば、すべての成功は「時代」によって裏打ちされるのですが、自分が大好きな社長がそのことに気がつくことはないでしょう。

時代の借景については映画「三丁目の夕日」が参考になります。建設中の東京タワーという「日本の戦後復興の象徴」を拝借することで、全編に「ポジティブ」な印象を与えているのです。ちなみに、建設中の東京タワーをライブで見た日本人はそれほど多くないのですが、社長物語でもそうした「リアル」にこだわる必要はありません。

プラスワン哲学

あとは文章表現です。創業メンバーの大半が離反したのなら「それぞれの道を歩き出した」、失敗した事業は「時代が早すぎた」、頑固オヤジ(社長)なら「個性あふれる性格」と、ポジティブな言葉に置き換えれば9割方完成です。これは商売用コンテンツの作文技術の1つで、どんなネガティブな事実もポジティブな単語に置き換えることができます。ネガティブからポジティブの単語変換についてリクエストがあれば編集部まで。

社長物語をワンランク押し上げるには商品や商売に対する「コダワリ」が生まれた時期、理由を加えます。たとえば「無添加」にこだわった食品通販サイトなら、「我が子が小学生の時にアトピー性皮膚炎で苦しんでいたことがきっかけだった」と記すことで厚みが加わり「コダワリ」が「哲学」へとレベルアップします。

社長の人となりと哲学のシンクロによって説得力を増す。これが3つ目のメリットです。

メイキングオブ社長物語

私の関わっているサイトのログを調べたところ、多くの人が通販での購入や、問い合わせをする前後に「会社概要」を確認していました。取引先を知りたいと思うのは人情です。たびたび紹介する「日整工業」では「理念」と題した社長物語を載せてから、問い合わせが急増しました。商品に関連したコンテンツを除けば、もっとも多く見られるのが会社の略歴や、社長のプロフィールです。つまり、ここに「社長物語」を配することで販促効果を高めることが「商売用」としての最後のメリットです。そしてこれはプレゼン時の私の決め台詞。また、社長の好みに振り回されるぐらいなら、ターゲットを社長にして組み立てるのはWeb担当者とWeb屋に共通する戦略でもあります。

最後になりましたが「社長物語」は便宜的なものです。コンテンツとして公開する際は「ごあいさつ」「理念」「あゆみ」「概略」などとしてください。

今回のポイント

物語は社長を巻き込む撒き餌

意外だけど客は社長のストーリーを読む

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