コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百八
ドキュメント3月11日
東北地方太平洋沖地震で犠牲になられた方に哀悼の意を表します。また、被災された方の1日も早い復興を祈念しております。やまない雨はなく、あけない夜はない。そうなることを信じております。
揺れのなか覚悟を決めました。昨秋より15才の甥と暮らしているのですが、酷くなる揺れに大声をだし仕事部屋に呼び寄せました。最悪、家屋が潰れ屋根の下敷きになっても、人数がいれば助かる可能性が高いのではないかという、根拠のない「賭け」です。揺れの最中、彼は中学生らしい浅薄な好奇心が刺激されたのでしょう、興奮して語る甥に答えます。
こんな揺れ初めて
偶然だな、叔父さんも初めてだ
昭和時代の東京近郊の子供にとって「震災」は身近な存在でした。関東大震災を経験した大人がまだ多く、私の祖母もその1人。また「関東大震災70年周期説」がまことしやかに語られており、1923年の関東大震災から70年後の1993年前後に巨大地震がおこると多くの小学生は信じていました。いまだ関東の震災は訪れていませんが、身についた習性により、揺れると窓を開け、家具からはなれ、照明器具の下から移動して、テレビやラジオをつけます。
緊急寄稿の特別編。「地震、その時Web担当者は何を?」をお届けします。
通販情報をチェック
通販に取り組んでいる会社なら、震災後は「配送状況」をチェックし、Webサイトにお知らせを掲載します。災害時は電話による連絡が困難になるため、Webサイトは情報伝達のための重要なインフラとなります。
各種宅配業者は本稿執筆時の3月14日午後3時現在、東北地方と茨城県の一部への配送を行っておりません。当然といえば当然です。地震によって道路が寸断された街にどうやって商品を届けるというのでしょう。しかし、一方で遠方に住む家族や友人からしてみれば、「できない」と明記していなければ、配送してもらえるかもと微かな期待を持ってしまいます。できないことはできないと告げるのも優しさです。
自治体や災害情報サイトなど、一部サイトはアクセス集中よって閲覧が困難になることも考えられます。地元商店であれば、地域の避難施設などの情報掲載も役立つでしょう。
企業のWebサイトでの対応については、Web担の記事「震災関連の情報の企業サイトでの出し方 60社の状況を画像でまとめ」も参考になります。
ボットを止めろ!
地震直後の情報収集にはテレビやラジオが一番です。スマホやパソコンは「手」を使わなければならないからです。揺れから身体を支えるためには「手」が必要で、落下物から身をかわす時も「手」が欠かせず、フリーハンドで情報収集できるのはテレビやラジオです。職場に1台、テレビからラジオを。ラジオは乾電池で動くものなら停電時も安心です。
宮城県沖合が震源地とわかり、第2波の揺れがおさまったころ、我が町、足立区はひとまずは大丈夫と判断してパソコンに向かいます。震災時はいつ停電になるかわからないので、無停電装置がない環境でデスクトップパソコンの使用はデータ消失の可能性があるので危険です。執筆用のマックブック(ノートパソコン)で、在宅スタッフと仙台在住のクライアントに安否確認のメールを送り、ツイッターで宣伝をつぶやく客の「ボット」を停止しました。発行予定のメルマガはなかったのですが、あればこちらも止めます。
広告・宣伝目的のボットやメルマガはできるだけ迅速に止めます。想像してください。「やっほ~、三陸から届いた海の幸フェア♪」などと、題したメルマガを被災地域の方が見たときのことを。
地震直後にカリスマ自己啓発家から「1000円セミナーのお知らせ」が届いた時には失笑しました。自動配信系は「超KY(空気読めない)」となるので緊急時には停止することを運営ルールとして決めておくといいでしょう。リスティング広告も同様です。
ツイートの誤情報に注意する
Web関連会社は都心に多く位置していますが、災害時の都心は電話も携帯も使えなくなります。都内のスタッフとの連絡はマックに標準装備されているビデオ通話ソフト「iChat」で行いました。スカイプやWi-Fi経由でiPhoneのビデオ通話という手段もあります。
ネット回線は「Web」の名前の通り、分散しており災害に強いのはWeb担当者にとっては当たり前の話。しかし、母親や奥さんといったネット素人にはネット回線と携帯回線の明確な区別はつきません。そこで、このネット経由での連絡方法を「家族」で共有しておけば、震災時の安否確認するチャネルが1つ確保できます。
今回の地震では「ツイッター」があらためて注目されました。しかし、それは負の面も含めてです。
インフラが破壊、混乱した時に、情報発信ができ共有できるのはツイッター(インターネット)の大きなメリットです。しかし、虚偽情報も瞬時に拡散していきます。
石油コンビナート火災により有害物質がふりそそぐ。東京に直下型地震がやってくる。きわめつけは「サーバラックの下敷きになり腹部を潰され、血が流れている。痛い、誰か助けてくれ(筆者要約)」という虚偽の救助依頼ツイート。これには元県知事までが担がれていました。実際に救急に通報した人もいたようで、本来業務に支障をきたしたかもしれません。善意からの拡散が、救命活動の妨げになるかもしれないという教訓にすべき事例です。
そして被災の悲しみすら嘲笑う「愉快犯」が現れることも、震災時に錯綜する情報と接する際に忘れてはならないことです。
そのとき、何をするか
余裕があればですが、自社サイトから動画や画像を外すのも災害時にできるWeb担当者なりの協力でしょう。トラフィックの負荷を減らすことで、被災者の情報が少しでも多く流通することを願って。
地震直後にもどります。大災害とわかり飲み物をとり、チョコレートをひとかけ頬張りました。冒頭の「覚悟」とは長期戦です。長期戦で最後にモノをいうのは「体力」。飢えと渇きは不安を増幅させ体力を奪います。食による満足感を安心感と錯覚させて体力を温存します。パニックに陥っている人がいたら、わずかでも飲み物と甘いものを薦めてください。
地震の前にできることは少なくありません。幸いにして弊社の被害が少なかったのは、ラックは突っ張り棒型で、天地で支えており、ディスプレイやプリンターなどの重いものは高い場所に置かないという地震対策の基本を守っていたことも理由です。社内の「地震対策」は十分でしょうか?
そして地震の後にできること、しなければならないことがあります。「復興支援」です。可及的速やかに取り組めるのは「節電」。Web担当者の多い渋谷や新宿、中央区などは「計画停電」の対象地域ではありませんが、エレベータではなく階段、エアコンの設定温度の他にも、プリンターの電源や不要不急のハードディスクなどなど、電気を使って商売をしている我々にできる「節電」は意外と多くあります。ちなみに弊社は「計画停電」の対象地域。日中はいつ落ちるかわからないので、電力に余裕のある深夜と早朝に仕事をシフトしつつあります。
今回のポイント
止めなければならないものを止める
なにはともあれ、頑張ろう東北! 頑張ろう日本!
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