新人Web担当者におくる、記憶しておくべき震災の記憶と教訓
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の400
400回で一番の記憶
本連載も400回を数えました。ひとえに読者のみなさまのお陰と感謝申し上げます。振り返り、もっとも記憶に残る原稿は何かと問えば、東日本大震災直後の緊急寄稿です。いつも公開日の1週間前に入稿しており、震災があった金曜日には、すでに翌週分の公開準備が完了していました。しかし、震災直後のWeb担にできること、しなければならないことを、どうしても伝えたく、担当の池田さんに無理をいって差し替えてもらったことを昨日のように思い出します。そして本稿は「3.11」に執筆しております。
東日本大震災から4年が過ぎました。人は忘れる機能を獲得したことで、悲しみに耐えられるようになったという話を聞いたことがあります。だからといって忘れてはならないこともあります。そして記憶を教訓にするのも、今とこれからを生きる人間の使命であります。
そこで4年が経過し、400回という「4」つながりのある今回は、震災時の記憶をたどります。当時はWebと無縁だった人が、この春からWeb担当者として社会人デビューすることもあるでしょう。緊急時には何が起きるのか、当時を振り返って届けます。
経験の教訓
震災直後、だれもが困ったのが「安否確認」でした。家族はもちろん、外出先の社員の安否確認では反射的に「電話」が使われましたが、回線はパンクし、携帯電話のメールも遅延しました。そうした状況で、企業の情報発信ツールとして活躍したのがWebサイトです。各社が業務連絡や支援のお知らせをWebサイトで発信し、震災から1年ぐらいは「BCP(事業継続計画)」がブームになったものです。
一方、BCPは策定しただけでは役に立ちません。BCPは訓練を繰り返してはじめて非常時に機能するものだからです。震災直後に取材したJFE商事鉄鋼建材では、グループウェアの活用で、震災発生から3時間半後には、全社員の安否を確認していましたが、当時としては極めてまれなケースです。同社は「阪神淡路大震災」の経験から備えていたといいます。「経験」は活かしてナンボという教訓です。
詳しくは震災直後の緊急寄稿を参照していただくとして、「メルマガ」や「ボット」の停止、「トップページの更新」などの「備え」はできているでしょうか。
停電の記憶
「計画停電」の「記憶」も共有しておくべきでしょう。「計画停電」とは、地域をグループ分けし、時間を区切って各地域の電気の供給を止めることで、電力の使用総量を抑制するものです。目的は不測の「ブラックアウト(大規模停電)」を回避するためで、「輪番停電」とも呼ばれます。
計画停電地域におけるWebの実務でいえば、通電時に急ぎの更新作業を優先し、緊急度が低い作業や電気を使わない打ち合わせなどの業務を停電時に振り分けます。緊急時のために、隣接する別グループの企業や個人と「電気(デスクとネット回線)を貸して」と提携しておくといいでしょう。また、ノートパソコンを充電しておけば、停電時にスマホやケータイの「バッテリー」となります。ちなみに「発電機」があっても、アクセスポイントが停電するとネット接続できません。
基地局のチェック
東日本大震災当時、「LINE」は存在しておらず、TwitterやFacebookも一般的といえるほど普及していませんでした。むしろ震災の経験が、SNSに連絡手段という役割を与えたといっていいでしょう。しかし、これも万能ではありません。
スマホも含めた携帯電話は、「基地局」を経由してWebに接続します。ところが「停電」によって基地局への給電が止まれば、Webへの接続はできなくなります。その可能性のある施設を、ドコモとauはWeb上で公開(PDF)しており、ざっと見た限り、地下鉄とトンネルは軒並みアウトです。
ドコモに確認したところ、地上でも停電によって機能停止する基地局もあるそうですが、利用者の電波が届くエリアに「生きている基地局」があれば、そちらが電波を拾うので、地下よりはつながる確率が高いとのことです。これは「計画停電」で電気が止まった我が町でも通じた「au」にも通じることでしょう。
閉鎖空間で大切なこと
しかし、この事実を知らなければ地震による「揺れ」の恐怖と、通じぬスマホを手に持ち、最悪のケースでは非常灯の灯りで暗くなった、地下鉄の構内や電車内で、パニックになるかもしれません。東日本大震災は午後3時前でしたが、通勤通学や、帰宅ラッシュのピークを迎える時間に発生したとしたら、パニックの発生確率は高まります。
一般論ですが、震災時は地下の方が安全と考えられていますが、地上にでれば、携帯電話は通じる可能性が高いと思い出してください。災害時に、特に「閉鎖空間」でもっとも大切なことは「慌てない」ことです。
ちなみにソフトバンクは、IRページで「停電対策強化(24時間化)エリア」と打ち出しています。対象エリアを確認すると、県庁や区役所など役場ばかりですが、停電から24時間以内なら、近くの役場に足を運べばWebに接続できる可能性が高いということです。これも「慌てない」ために覚えておくといいでしょう。
一晩をしのぐための備え
震災対策といえば「帰宅難民」も話題になりますが、東日本大震災は「金曜日」でした。家族の心配はもちろん、週末は自宅で過ごしたいという願望が、帰宅難民を増やしたという面もあります。被害の程度にもよりますが、月曜日や火曜日、水曜日の震災なら、「泊まり込み」を選択するスタッフも多いのではないでしょうか。
また、文字通り「帰宅困難」になる道路状況も考えられます。そのとき大切なのが「食糧の備蓄」です。お腹がふくれれば、多少なりとも不安が和らぐということも、震災からの経験的教訓です。せめて一晩は、全スタッフの腹を満たし、乾きを癒やせる水分を確保しておいてください。全体としては会社の責任ですが、引き出しやロッカーがある職場なら、ビスケットの1つも、個人的に「常備」しておくことをオススメします。非常時に最後に自分の身を守るのは自分です。
地震大国の日本では明日どころか、数秒後に震災が起こっても不思議ではありません。そこで忘れてはいけない「記憶」もあると、400回の記念号に記します。
今回のポイント
平時の備えが何より大切
忘れてはならない、パニックには
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