企業ホームページ運営の心得

会社を辞める社員へ贈る「よろしく」の一言、別れの季節の心得

退社を申し出た社員の上司や同僚向けの「送り出しの心得」について
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の447

心得と処世術

Mike Watson Images/moodboard/Thinkstock

アベノミクスの恩恵は感じないまでも、そこかしこで「人手不足」を感じるようになりました。失業率だけでみれば「完全雇用」の状態で、つまり転職は「トレンド」。なんだかバブル経済を思い出してしまいます。それもあってか、新年度を前に「お別れ」の話を耳にするようになりました。

そこで今回は、退社を申し出た社員の上司や同僚向けの「送り出しの心得」について。そしてこれは手のひらを返せば、出ていく側にとっても必ず役立つ「処世術」となります。

転職や独立など、理由はそれぞれですが、本稿をお読みのあなたが、その「出ていく側」ならば、小欄「引き継ぎの作法」もあわせてお読みください。対して「送り出す側」なら、その人が退職する前にやっておかなければならないことがあります。これを疎かにすると、最悪の場合、人手が不足した上に、マイナスイメージの払拭に追われることになります。

まずは引き留める

退社を申し出られたとき、仮に「いらない」人材であっても、「はいわかった」とそのまま辞めさせるのは得策ではありません。それは「引き留めなかった冷たい上司(会社)」と、後の悪口につながる危険があるからです。「辞めたくせに勝手なことを」と憤るでしょうが、そもそも辞めるという行為は「自分勝手」なもの。同じレベルで対峙すれば、感情的なしこりを残しやすいのです。そこで形式上でも必ず引き留めなければなりません。一種の「社交辞令」です。

独立するならば、「すでに起業している人らは常に良い面しか見せていない」と苦言を呈し、転職するなら「となりの芝生は青く見える」といったエピソードの1つもした上で、快く送り出します。なお、経験則ですが、無理に引き留めてもあまり良い結果につながりません。

狼煙を上げよ

退社が決定事項となってからが本番、勝負は退職前に決します。取引先、関連企業、(交流があるなら)ライバル企業にも、以下のような内容で挨拶しておきます。

当社の○○が退社します。有能な戦力であり引き留めましたが、本人の意志も強く、快く送り出すことにしました。今後、当社とは無関係になりますが、御社とご縁があった際は、よろしくお願いします。

商談の余白、雑談のネタ程度でOK。対面、電話、メールなどで伝えます。わざわざFAXや手紙でだす必要はなく、文言は適宜アレンジしていいですが、「よろしく」と添えることがポイントです。

悪い噂へのワクチン

挨拶文に「よろしく」と添えることで、会社として、人間としての「度量」を内外に示すことができます。また、本当に応援する目的の「よろしく」ならば、「本人同伴」で直接挨拶に出向くもの。話した相手が常識を身につけた「大人」なら、言葉の裏側を理解することでしょう。

次に「ワクチン効果」が期待できます。人が「現在」の自分を手っ取り早く正当化する方法は、「過去」の否定です。上司が無能、やり方が古いなど、退社した途端、あることないことを言いふらす元社員は枚挙に暇がないほどです。

そして話を聞くものは、当時の状況を知りません。前の職場の悪口は、相対評価によって高い自己評価を演出しやすく、実に都合が良いのです。その結果、「悪い噂」が生まれてしまいます。あらかじめ関係先に「よろしく」と伝えておくことで、いわれのない悪評への「ワクチン」とするのです。

実は、前述の挨拶状に「無関係」と書いたのは、トラブルを未然に防ぐための「絶縁宣言」でもあるからです。ケースバイケースですが、元勤務先の名で起こすトラブルは存外に多く、予防線を張っておきます。

勝利者の総取り

話を戻します。この手の「よろしく」は、必ず本人に伝えたがる人がいて、高確率で元社員の耳に入ります。それを「親心」と錯覚すれば、感謝の気持ちが芽生えます。その結果、転職した先で出世して、要職についた暁に新たな取引が始まるかもしれません。あるいはレベルアップして戻ってくる可能性すらなきにしもあらず。これらは捕らぬタヌキの皮算用ながらも、「よろしく」に損は1つもないということです。

ただし、一点だけ注意が必要です。「よろしく」と伝えるタイミングは、退社が確定したその瞬間からはじめ、退社前には完了しておかなければなりません。すべて先手を打ったものだけが得る果実だからです。反対に退社する社員が、「私は退職しますが、○○(勤務先)はお世話になった良い会社です。よろしくお願いします」と先に挨拶回りをしてしまえば、すべての好評価は元社員のものとなります。

実はこの心得、会社員時代に尊敬する経営者から伝授されたもの。期待していた社員が辞める際に、その本人と接点の少なかった出入り業者の私にまでも「よろしく」と頭を下げたのです。真意を尋ねると、これを教えてくれます。私が独立起業の際に「先手」をうったのは言うまでもありません。

AKB48商法の再現

さらに、直接お客に接するスタッフの円満退社なら、自社サイトやFacebookページなどでも「よろしく」を伝えます。リアルでもメルマガ担当でも、Twitterの「中の人」でも同じです。

永年勤めた優秀なスタッフには、必ず「ファン」がついているもの。そのファンへの告知で、いわば「AKB48」グループにおける「卒業興行(公演)」のようなものです。ファンには別れの機会を提供し、スタッフには最後の思い出づくりを、そして売り上げの微力になることも。この効果を目の当たりにしたのが、行列ができる焼肉屋として有名な、東京は足立区鹿浜の「焼肉スタミナ苑」の木原修一さん。

この春、大分県の実家の焼き肉店を継ぐために退社することになりました。退社の案内をFacebookに掲載すると、別れを惜しむ声とともに、今月中に駆けつけるというコメントが寄せられます。

どこまで実売に結びつくかはともかく、「そのうちに足を運ぼう」と考えていたお客さんを、「できれば今月中に」と前のめりにさせている一種の「タイムセール」です。掲載はWeb担当者の独断で、木原さんへの惜別の思いを形にしたに過ぎませんが、退社(別れ)というネガティブな情報も、前向きなイベントにできる……いえ、イベントにする貪欲さがWeb担当者には必要です。

今回のポイント

退職関連の挨拶は先制攻撃で

「よろしく」のメリットは大きい

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