企業ホームページ運営の心得

契約の心得はお見合い。聞いてないよ……とならないための教訓

契約とはお見合いのようなもの。事前に想定されるリスクと利益を知っておきましょう。
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の481

突然のサービス変更

DmitriMaruta/Thinkstock

アマゾンが鳴り物入りではじめた電子書籍読み放題サービス「キンドル アンリミテッド」は、開始直後から一部書籍が閲覧不可となり、しばらくもせず大手出版社の作品がリストから消えました。

マスコミ各社が騒動を報じ、出版社はこれに抗議声明を出します。内部資料を入手したNHKによれば、月額980円の購読料は50%ずつアマゾンと出版社で折半し、さらに年内までの期間限定ながら、通常の電子書籍販売の一冊あたりの対価も支払う二重取りという「破格」の契約だったようです。一冊のページ数のうち10%以上が読まれた場合は販売したとみなし、漫画や写真集など「パラパラ」と見られただけでもカウント。これにアマゾンが音を上げたと報じます。

この手の契約は「守秘義務」の高い壁に阻まれ、双方の同意なく公開することを禁じる条文が盛り込まれているもので、NHKが紹介していた資料には「提案」とあり、どうやら「プレゼン資料」のようです。全容は当事者同士でしかわかりませんが、この騒動から「契約」の心得を学べます。

慣習の敗北

出版とIT業界のどちらとも取引がある立場から見て、騒動の背景に「慣習」の違いが存在するように感じます。最近ではしっかりとしてきましたが、出版業界は「口約束」が多く、単発の寄稿はもちろん、正式な契約を交わさないまま連載が始まることは日常茶飯事。

契約に則るなら守るべき「締め切り」にルーズな筆者は多く、印刷所への「入稿時間」など、事前の取り決め通りに進行できることはまれという業界事情からも、緻密な契約を交わすことによる不利益もあり、単純な受発注者契約では割り切れない「お互い様」の関係。よく言えば「阿吽の呼吸」。程度の差こそあれ、日本のビジネスシーンで散見することです。

対するアマゾンは「訴訟大国アメリカ」で生まれた企業。本件においてもばっちり「契約書」が用意されていたことは疑いようがなく、そこに「トラブル条項」を添えるのは、とりわけIT企業では常識以前の話です。

取り決めの理由

弊社は、本サービスの一部または全部を予告なく変更・中断・終了することができます。これにより発生する損害について、弊社はその責任を負いません

これは当サイト「Web担当者Forum」の利用規約で、サイトに限らずIT系の取引では、同様の「トラブル条項」が必ずといっていいほど盛り込まれます。悪意を持って読み下せば、「いつでも好きなように変えられる条文」となりますが、IT業界の歴史的経緯と現状から、外せない条文なのです。

IT機器が貧弱だった時代、サーバーダウンは日常茶飯事で物理的にもセキュリティが甘く、クラッキングへの対策はルーティンワークでした。なにより秒単位で新しい技術が生まれる時代、サービス開始時に予見不能なことは多く、事前にすべてのリスクを契約に盛り込むことは不可能だったのです。

予見の困難さについては、今もさして変わってはいません。数年前には、あるレンタルサーバーが障害によってデータを失うという、想定外のできごとがおきたものです。

トラブル条項の有無

また、往々にして利用者は提供者の想像を超える利用方法を編み出すものです。

たとえば、本サイトの記事を論拠としてセールスしている企業があったとします。諸事情から当該記事を削除したことで、「取引が中止になった。責任をとれ、賠償しろ」と訴えられても補償できません。サービス提供者にとって、こうした理不尽な要求から逃れる役割も与えられ、編み出された「お祈り」のような条文がトラブル条項なのです。そして、この確認こそが「契約」を交わす上での重要な心得です。

契約書にサインをする前には、必ずこの手のトラブル条項を確認しなければなりません。記載がなければ「怪しい」と判断していいでしょう。予見不可能なトラブルに備えていないということは、そもそもの見積もりが甘いか、ビジネスを継続させる意思がないか、あるいは詐欺的な目論見が疑われるからです。

契約とはお見合い

トラブル条項を確認したら、先方が想定しているトラブルの範囲を尋ねます。たとえば「レンタルサーバー」の契約なら、システム障害による運転停止を時間単位で想定しているのか、週単位なのかと確認します。可能なら文書化を求め、数字による想定があれば、その場で当てはめて計算してみます。仮に「アンリミテッド」の契約内容がNHKの報じた通りだとすれば、

アンリミテッドの利用者数×月額購読料÷2(全出版社の取り分)+販売冊数×インセンティブ=アマゾンの支払額

という式が成り立ち、想定されるリスクと利益を「契約前」に知ることができます。「お見合い(結婚)」をイメージするといいかもしれません。お見合いでは、「身上書(プロフィール)」などによって、相手の年収などの「条件」を結婚前に具体的に確認できます。「契約」においても、人生を共に歩むメリットとリスクを予め知ることができる「お見合い」と同様、「将来」を想定するための具体的な数字の提示を求めるべきだということです。

支払いリスクの確認

一般消費者の場合、消費者保護の観点から法整備が進んでいますが、ビジネスシーンは自己責任。ビジネス上の契約において必ず確認しなければならないのは、トラブル条項に隣接するお金のやり取りについてです。商品に不備があったときや、先方の都合による取引中止、さらには商品の受け渡しが完了する前に「倒産」になった場合の返金規定について確認します。

倒産リスクを尋ねるのは、失礼でも荒唐無稽でもありません。20世紀の終わりごろ、かつて栄華を誇った「ダイエー」で冷蔵庫を買いました。そのとき、冗談のつもりで「(別途の保証料を支払い)5年保証をかけてもダイエーが潰れたらどうなる?」と尋ねた翌年、経営破綻が現実のものとなります。絶対に潰れない企業などなく、商品未受領で代金を支払った直後に「倒産」すれば、「債権者」へと転落し、多くのケースで損失は免れません。

倒産は極論としても、文書化できない最大リスク、重大なデメリットを予め確認しておくことが「契約」における心得です。

今回のポイント

契約条項は最悪と最善を意識する

契約とはお見合い結婚のようなもの

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