食べログは広告と割り切る。飲食店のWeb担当者が考えるプラットフォーム活用
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の480
食べログのリセット事件をどう捉えるか
ネット予約を使ってもらわないと検索の優先順位を落とす
東京や京都に店舗展開する飲食店のオーナーが、食べログスコアへの疑念をつぶやきました。全店舗の食べログスコアが3.0にリセットされ、食べログの営業担当者から上記のように告げられたというのです。これを「食べログ3.0リセット騒動」と名づけています。
一部週刊誌も追随し「食べログ許すまじ!」的な盛り上げを試みるも、いまいち広がりに欠けます。むしろネット上に散見する「食べログの点数? そんなの見ていないよ」といったユーザーのつぶやきが、食べログに与えたダメージの方が大きいように感じます。
騒動に接しての第一印象は「ウブだなあ」。ことの良し悪しは脇におき、これはWebが普及して以来繰り返されて来たことだからです。そして飲食店のWeb担当者的視点で見れば「なに言ってんの?」と。
真相はブラックボックス
食べログの批判を要約するこうなります。
- 食べログが提供する「ネット予約」を使わなければ、食べログ内の検索結果に影響する
- 「ネット予約」は有料プランに含まれる
- つまりは金を払わなければ不利になる
- 金で順位が決まるのはおかしい
点数のリセットはあくまでアルゴリズム調整だと、食べログは点数操作を否定しており、批判への評価はパスしますが、これが名も無きグルメサイトやクチコミサービスならばどうだったでしょうか。きっと告発した飲食店オーナーは、別のサービスに乗り換えたことでしょう。つまりは「食べログ」だったから憤り、告発を試みたのです。
なお、標準表示していた検索順位については、広告優先だったことを明らかにし、サイトの表示を変更しています。
ルールは我が手にある
契約形態は異なりますが、アマゾンの読み放題プラン「アンリミテッド」を巡る騒動も、本質において同じ構造を持ちます。読み放題をうたいながら、有力書店の書籍がほぼ一方的に閲覧中止になった騒動です。NHKなどの取材によって、想定以上の閲覧件数に出版社側に支払う費用が不足したからではないかと推測されています。
こちらもアマゾンではなく、新興の電子書籍配信企業なら、少しの愚痴がこぼれる程度で、NHKが取りあげるほどのニュースバリューは持ち得なかったことでしょう。両者に共通するのは「シェア」です。どちらもそれぞれの業界において、圧倒的シェアを確保しており、ビジネスインパクトも比例します。
一定以上のシェアをもつ企業に、世間は社会の公器としての性質を与えたがります。ところが、これらが民間企業であるかぎり、自社の利益に敏感である宿命には逆らえません。自社の都合でルールを変更するのは、合法の枠内である限り、道義に触れても停止することが困難であることは、Webで繰り返され、今後も続く歴史であることを、Web担当者なら忘れてはなりません。
シェアと打算
国内で最初に騒動となったのは「楽天市場」でしょうか。月額5万円だった出店料の変更、メルマガの有料化など、数え切れないルール変更のたびに出店店舗との騒動が勃発し、係争事案に発展したものもあります。
Amazonマーケットプレイス、Yahoo!ショッピング、そして各種ショッピングカートサービスが普及した今となっては、隔世の感を覚えるにしても、当時(決済をサービスを含めた)ショッピングモールといえば楽天で、出店企業の多くが愚痴をこぼしても従うしか選択肢がなかったのです。
それでは食べログに愚痴をこぼした飲食店、アンリミテッドにおける出版社、かつての楽天の出店者は、一方的な被害者かといえば、それは違います。食べログに関しては、営業情報を無断で掲載されることもあるとはいえ、有料サービスを利用するか否かは選択できますし、それぞれのサービスにおける圧倒的なシェアという恩恵を期待できるのです。
食べログとは何か
Web担当者ならご存知の通り、商売で最も困難であり至上命題であるのが「集客」です。田畑だらけの村道沿いのコンビニに人を呼び込むことは困難でも、もっとも公示価格の高い銀座の「山野楽器」のある場所に店を開くことができれば、苦もなく人を集めることができます。圧倒的シェアを誇るネットサービスとは「山野楽器」です。そこに出店するだけで、集客への期待値が高まるのは、食べログのような圧倒的なシェアを誇るネットサービスでも同じです。
ここでWebの歴史をひも解いてみます。食べログとは一般ユーザーにとっては、飲食店の「クチコミ」サイトですが、飲食店からみれば一定程度の露出を期待できる店舗広報のプラットフォームです。
Webの歴史とはプラットフォーム戦争と同義、時をさかのぼれば「SNS」「ブログツール(サービス)」「検索エンジン」「ポータルサイト」「ブラウザ」「オーエス」とシェアの拡大を競い、覇権を握った企業は、その土俵上で最大の収益化を目指すものです。そのためのルール変更も行われ、従わなければプラットフォームから除外されます。
つまりは金目の話
食べログ3.0リセット騒動は、「圧倒的なシェアを誇る(ネット)サービスを利用できるメリットにともなうリスク」だといえます。これはTwitterやFacebook、その他SNS、今後も現れるネットサービスにも通じるであろう経験則で、Web担当者が忘れてはならないことです。順位を人質にした営業スタイルはともかく、騒動に接し「ウブ」だなあと感じたのはこうした歴史的経緯からです。
そもそも食べログでは、メイン写真を大きくするだけでも有料プランに申し込まなければならず、むしろ無料のまま利用できるサービスは限られている、つまり「食べログは広告」というのが人気焼肉店のWeb担当者を担う私の実感です。それが「なに言ってんの?」とつぶやいた理由へとつながります。
飲食店の告発が事実だとして、裏返せば「金を払えば解決できる」ということ(食べログは否定)。つまり食べログというプラットフォームの集客効果が、支払う費用を上回るかどうかの「費用対効果」の話であり、環境大臣時代の石原伸晃氏流に言うなら「金目の話」。週刊誌が焚きつけても、続報がでなかった理由でしょう。広告媒体と割り切って、金を払っている飲食店のWeb担当者からしてみれば、はた迷惑な話だからです。
今回のポイント
食べログの「活用」は有料(あるいは「天下の公器とは錯覚」)
ゲームのルールはプラットフォームが決める
- 電子書籍『マンガでわかる! 「Web担当者」の基本 Web担当者・三ノ宮純二』
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