コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐十四
簡単だからできるわけではない
「そうだ、京都へ行こう」というJR東海のCMのように、ひらめいた企画をホームページに公開しようと思っても、自社内にノウハウがないと外部業者に発注しなければなりません。こんなときに、手軽に更新できる「ブログ」を活用したホームページがあれば、思いのままに「情報発信」ができるというのが「ビジネスブログ」です。
ビジネスブログはブログ管理ソフトを使って作られ、一目でブログとわかるものから、「ホームページ風」のもの、両者の混合型があります。どれも「ブログ」らしく管理や更新が簡単です。
しかし、「更新が簡単」と「更新する」は別次元の話。操作の簡単なオートマティック車だから運転も上手くいくとは限らないようにです。
廃墟物件という負のオーラ
「次回の苗の出荷は6月を予定しています。今しばらくお待ち下さい」と4月の日付が最終となっている「ビジネスブログ」の園芸店を見たのは、昨年拙著「Web2.0が殺すもの」執筆の為に、いろいろなブログを「ネットサーフィン(死語?)」していた8月9日のことで、約4か月放置されていました。
ビジネスブログは諸刃の剣です。手軽に情報発信できる利点と引き替えに「更新されていない」ことがリスクとなるのです。
更新されていないブログを「廃墟物件(または廃墟ブログ)」と呼んでいます。真夏にみる「あけおめ。ことよろ」的な陽気なブログからは、藤原紀香さんがキャンペーンガールを務めたアサヒビールの色褪せや、画鋲1つでかろうじて止められたポスターがどこからか吹き込むすきま風に揺れる、閉鎖された居酒屋の店内を連想させるからです。
時間に置き去りにされたというマイナスのオーラは、客に「潰れたの?」と感じさせたり、ずさんな管理体質の企業という印象を与えます。
100日続ける覚悟が必要
芸能人にとっての白い歯のように、ホームページはコンテンツ(中身)が命です。コンテンツを作るには、切り口、情報、時節などさまざまなアプローチがあり、手間と知恵とノウハウが必要です。
簡単に更新できるブログのエントリ(記事)もコンテンツです。記事を吟味する必要がありますし、備忘録的な「日記」でも迂闊なことはかけません。
「ビジネスブログをはじめたいのですが」という相談には「100日続けられますか」と尋ねることにしています。
商売は「好きなとき」にだけ営業して成り立つほど甘いものではありません。最低でも定休日以外は、できれば最初の100日はどんな記事が、客の心を捉えるかと向き合って書き続けるぐらいの情熱がないと廃墟となる確率が高いのです。
ビジネスブログを廃墟物件にして、負のオーラをまき散らすぐらいなら「やらない」もありです。
渋谷で働く社長の環境と戦場
ブログ商用利用の火付け役となったのは、ライブドア時代の堀江貴文氏の「社長日記」や、メルマガ配信ソフトをパクって販売していたという、商売仁義を欠く告白をさらっと書籍にまでしたサイバーエージェントの藤田晋社長の「渋谷ではたらく社長の日記」でしょう。
今でも名だたる新興IT企業の社長お歴々がブログっております。商売の主戦場がネットである彼らにとっては、関係者やネットの住民が閲覧することによる広告・広報を期待できるのですが、非IT業種で役立つかは甚だ疑問です。
トヨタの会長や、日本郵船の社長がブログをはじめたという話は未だ聞きません。
また、「IT系」はブログを更新しやすい環境にありますが、工務店の社長は汗水たらした現場から帰ってきて、眠い目をこすりながらパソコンに向き合います。「非IT」が「IT系」と同じ戦い方をするのは上策ではありません。
売り切りごめんの舞台裏
ビジネスブログは販売している側には大変なメリットがあります。
基本的にはシステムを販売するものですから、肝心な「コンテンツ」の部分はお客さんの仕事です。エントリーが陳腐で商売用として役に立たなくてもお客さんの責任となります。自分で更新したいという発注(リクエスト)は満たし、いわゆるホームページにありがちなコンテンツの納品(公開)後の「追加修正」や「クレーム」がないのはとても魅力です。
インフォプレナーもビジネスブログを薦める立場をとります。更新や集客の仕方を「商品」とし、互いのブログ体験を共有することで「信者化」を強めることができるので重宝しているようです。
そして、日本の悪弊ですが、「アメリカ発は正しい信仰」を利用できるのでセールスしやすいのです。
毎日、3万サイトが廃墟となる現実
ビジネスブログは更新を止めたら転ぶ「自転車操業」です。
多くのブログが生まれ、一説には毎日3万を超えるブログが「廃墟物件」となっているといいます。廃墟物件となるのは珍しいことではありません。
100日続ける覚悟がないなら、古式ゆかしい「ホームページ」がまずは安全です。1つのエントリーを3ブロックに分けて考えることにより、簡単にブログを書くコツといったテクニックもありますが、技法を覚えても「毎日続ける」にはもう1つ必要です。
それが「習慣化」です。精神論のようですが100日続けると「習慣」となり、楽に自転車を漕げるようになります。継続は力なりなのです。無料のブログサービスで「習慣化」してからでも間に合います。
ビジネスは競輪ではなく、ロードレースのように長い距離で競うものですから。
♪今回のポイント
ビジネスブログは諸刃の剣、更新頻度が成否を分ける。
無料サービスを活用した100日自主トレしてからでも遅くない。
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