コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐十参
スーパーマーケットの戦略的値上げ
「もっと安くした方がいいと知り合いにいわれたのですが……」という相談をよく受けるのですが、もの余りのご時世、安くすれば売れるほど商売は甘くはありません。まして、「高値売却」の回で指摘したように、ネット通販は値頃感が大切で、安いだけの商品は品質を疑われ敬遠されます。
リアルの商売でも「安く安く」は土日の家電量販店ぐらいで、安売りや特売といったイメージのあるスーパーマーケットでも、いつも値下げをしているわけではなく、消費者の懐事情を踏まえた「戦略」で価格を決めており、定期的に値上げをしています。
「安売り」はスーパーの販売戦略の戦術の入り口です。安くしなきゃと価格を下げる前にご一読を。
戦術と戦略の違いの知ってるつもり
物騒な戦争はともかく、販売競争でもお中元商戦でも戦いは「勝つ」ことが目的で、可能な限り合理的に(楽して)勝つための方法が「戦略」です。
一方、戦術とは手段であり方法です。戦略の下に戦術がぶら下がり、戦術が戦略を支えます。
毎年夕張メロンの初競りで高値がつきますが、これもお中元商戦の戦術の1つです。今年、過去最高額の2玉200万円で競り落としたのが、百貨店の丸井今井札幌本店。
ご祝儀相場の異常な高値ですが、たった200万円で新聞、ラジオ、テレビとタダでCMを流せると考えれば安いもので、「売名行為」は商売では立派な戦術です。売名行為から「売り上げ増加」を達成するためのシナリオが「戦略」です。
安売りは強者の戦い方
東京は足立区の老夫婦が営む八百屋が、200万円のメロンを落札したとして、はてさて儲けにつながるでしょうか。報道陣が殺到して物見遊山の有象無象が大挙して押しかけ、キュウリやナスが売れたとしても200万円のメロンでは足が出てしまいます。
戦術や戦略は身の丈にあったものでなくてはなりません。
家電量販店のような戦略としての安売りは「強者の戦い方」で、中小零細は絶対に真似してはなりません。ブランドや、知名度がないからといって「とりあえず安売り」するのは自殺行為です。
安売りは一時的に客足を伸ばし、売り上げを上げますが、忙しさは比例するのに儲けは横ばいです。利益が5%とすると、1か月の売り上げが500万円と1億円なら、利益は25万円と500万円。25万円では1人雇うのがせいぜいですが、500万円なら20人体制で戦えます。
中小零細が強者の戦い方をするのは、つま先立ちで全力疾走をするようなものです。
お財布事情でデフレとインフレを使い分け
安売りは消耗戦となります。中小零細の戦い方ではありません。
スーパーでは毎週のように「特売」が繰り返されていますが、「安売り」が軸であるのは24日までです。
24日までは「冷凍食品全品4割引」「50%OFFコーナー」と価格や割安感がメインですが、25日以後では「品質」や「旬の食材」がプッシュされます。24日までのチラシが「カレー特集」で、25日以後は「焼き肉フェア」と変わるのも同じ理由です。
給料日前は財布の中身が寂しくなることから、小銭レベルの安い商品を提供して「助かるわ」と主婦に言わせます。そして、給料が振り込まれ気持ちが大きくなるころを見計らって、旬の食材などの価格以外の判断基準を提示して小銭を忘れさせます。給料日夕方のレジでは、「万札」が飛び交っていることをご存じでしょうか。
スーパーでは客のお財布事情にあわせて「売り分け」ているのです。
チラシ価格にも迷彩仕様がある
M玉1パック88円だった玉子を、128円とするような直線的な値上げもありますが、チラシ紙面では、ファミリー向けの「とろけるカレー(108円)」が、25日以後は高級路線の「ゴールデンカレー(138円)」と単価の高い商品が目につくようになります。
更に価格だけ見ていたら気がつきにくい「迷彩服」のような手法もあります。
24日まで:シーチキンLフレーク(80g)5缶パック370円
25日以後:シーチキンLフレーク(80g)3缶パック300円
チラシは価格を大きく表示するので、300円の方が強く印象に残り、値上げされていることに気がつきにくいのですが、5缶パックと3缶パックを単価割りして再計算すると
- 370円÷5=74円
- 300円÷3=100円
100円×5缶=500円と、130円も値上がりしているのです。
25日攻防で収穫し、次の種を育てる
スーパーが25日以後に暴利を貪っているというのではありません。給料日前は安売りでタネを蒔き、給料日以後に「収穫」するという「戦略」に基づいているということです。
25日の給料日が多数派であると設定し、給料日前の安売りで薄くなった利益を給料日後に回収するのです。
スーパーだけでなく中古テレビゲームソフトの販売店では、財布の寂しくなる24日まで人気ソフトの買い取り価格を高めにし売ってもらおうとしますし、パチンコ屋も24日までは釘を甘くして客を喜ばせ、25日以降給料袋から搾り取るのです。
種をまき、収穫する「戦略」は、利益を一定の期間のトータルで得るもので、需給のバランスを見定めて「儲けるときに儲ける」という商売の鉄則に則っています。
小売りの先輩から学ぶコツ
商売用ホームページを運営していると、さまざまな「アドバイス」が寄せられます。冒頭のような「安くすれば売れる」という根拠のないアドバイスをするのは大抵の場合「小売り未経験者」です。断言してもいいでしょう。
チラシは主婦向けに作られ、広告として軽く見られますが、イトーヨーカドーのチラシは一部上場企業の小売りのプロ達が、客に気持ちよく1円でも多く使って貰うために知恵を絞っているものです。
迷彩的手法は組み合わせや、パッケージといった「切り口」で広く応用ができますし、25日を挟んだ価格管理はボーナス商戦で使えます。
ネットとスーパー。世界が違っても「小売りの先輩」から学べることが沢山あります。
♪今回のポイント
安売りは種蒔き。戦略のための戦術に過ぎないと知れ。
小売りは上場企業から雑貨屋まで同じ土俵の事例の宝庫。
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