企業ホームページ運営の心得

歯ブラシをまとめ売りするとしたら? 遊び心で広がる販促のバリエーション

値段を安くするだけでは限界がきます。遊び心を身につけ、自由な発想でお客を楽しませます
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の430

デフレーランドの衝撃

Wavebreakmedia Ltd/Wavebreak Media/Thinkstock

それぞれが隣接する足立区北西部から埼玉県草加市の南西部、同じく埼玉県川口市の南東部を直線で結んだ三角地帯を「不毛のトライアングル」だと教えてくれたのは、ガソリン販売系企業の元マネージャーでした。

ガソリンの特売が常態化し、利幅が薄く、ボックスティッシュ1つのプレゼントにも「渋滞」ができるのは、この地域だけだというのです。確認する術を持たず、いささか大袈裟な気もしますが、確かに私が利用するガソリンスタンドは、料金の比較サイトで「日本最安値」と表示されています。物価が安いのは確かに事実。以来、このエリアを「デフレーランド」と呼んでいます。

庶民のワンダーランド「デフレーランド」では、多少の値引きではだれも振り向きません。ハリウッドスターが来日した羽田空港を、プライベートで歩いている漫画家の蛭子能収氏への注目度ぐらいでしょうか。だからといって、いつも特売価格の限界値である「底値」にすることもできません。そこでデフレーランドでは、各社が「知恵」を絞り、お客の注目を集めています。

コンビニのぷちハッピー

単純な値下げを回避する心得が「遊び心」です。その初級技は「ゾロ目市(フェア)」。

111円、88円、44円と、商品価格を「ゾロ目」に揃えます。たとえば、食品スーパーなら「食肉」や「日配品」といったカテゴリ単位で、いくつかの商品を「ゾロ目」にします。それが「底値」でないところがポイント。鶏の胸肉の通常売価を100g/68円としているあるスーパーの、底値は同19円、特売価格で38円ですが、ゾロ目市では44円に設定しています。

コンビニでの会計が「777円」だったとき、なんとなく得した気分になりますよね。あの心理です。揃えた数字はそれだけで遊び心を演出できるのです。

とても難しい百均

似て非なる販促が「均一」です。98円均一などと銘打つ販促は、揃えた商品の魅力に左右され、ともすれば単なる値引き販売に成り下がります。また、一定の品揃えを用意しなければ売り場が「貧相」で、単一価格で販売できる商品をむりやり集めた結果、「処分市」のようになるケースもあります。

「均一」は、仕入れ力のある「大手チェーン店」向きの難しい販促手法なのです。雨後の竹の子のように増えた、百円均一の店舗が次第に縮小していった理由も同じです。

3本セット、5コパックと、同じものを複数セットにする「まとめ売り」も初級技。まとめることで値引き額を大きくでき、販売量を増やすことに成功すれば、仕入れ先への価格交渉力が増すおいしい手法でもあります。ですが、あまりにも手軽過ぎ、「キュウリ3本100円」などと、昭和時代の八百屋から使い古されている手法で目新しさがありません。

しかし、「遊び心」を養成するには役立ちます。何本をセットにすればお客が喜ぶかはもちろん、何個ならば「笑い」をとれるかと考える工程が発想力を養うのです。

反対の手法

「まとめ売り」の応用が「セット販売」。応用へ進む前に「デフレーランド」で最近、唸った遊び心溢れる妙手を紹介しておきます。

チャルメラ50円

スーパーマーケットのチラシに目玉商品として即席麺が紹介されていました。この商品の底値は198円。一般的な特売でも248円ほど。超破格値なのかとよく見ると、単位は「1袋」。先の価格は「5袋パック」のものです。やられました。コンビニなどでは「1袋」で売られている即席麺ですが、スーパーマーケットのセールでは5袋セットが基本。これを「解体」して単品販売。

落ち着いて見ると、「なんだ1袋か」と思うでしょうが、お客の先入観を逆手にとることで注目を集め、一般的な特売よりわずかながらも「高く」売るもくろみ。お見事!

利用シーンを想像する

次は応用編です。

「歯ブラシ」の「まとめ売り」をするとします。「客のことを考える」ことが販促の基本とは前回指摘した通り。そこでパパママ、子供2人の「標準世帯」をターゲットにして考えてみます。

すぐに思いつく「まとめ売り」は、大人用の2本の歯ブラシと、同じく子供用2本の計4本セット。しかし、これではお客の目を惹くことは困難。そこで歯磨き粉を大人用、子供用の2種類を加え、さらに歯間磨きの「デンタルフロス」もセットにします。ボリュームは増しましたが、面白味は不十分。ならばと磨き残しをチェックする「歯垢染色液」を加え、こう名前をつけます。

家族で一番、歯磨きが上手いのはだれだ? おうちで歯磨き選手権セット(仮)

ファミリーで歯ブラシを利用する場面を想像し、利用法を提案し、そのための商品をセットにします。組み合わせと、セット名をつける以外は「価格」だけの変更。取引の構造としてキュウリの「まとめ売り」と同じです。

用途を考える

少し難易度を上げます。今度は「乾電池」。歯ブラシと違い、利用者の絞り込みが難しい「乾電池」です。そんなときは「商品特性」に注目します。乾電池の特徴は「モバイル」性。いま「モバイル」といえばスマホ。震災はもちろん、車両事故などで電車内に閉じ込められたときなど、外出中の「バッテリー切れ」はときに死活問題と仮定します。すると「乾電池式急速充電器」と「乾電池」の「まとめ売り」が浮かんできます。

さらに乾電池は一定期間が経過すると「放電」して電気の量が減っていきます。ならば「充電式乾電池」とその「充電器」も「まとめ売り」の対象になり得ます。常に乾電池を充電しておくことで、いざというときに機能し、充電済みの乾電池とスマホ向けの充電器を携帯すれば、「スマホ利用時のバッテリー切れも怖くない!」と、煽ります。

充電式乾電池と普通の乾電池の2種の「スマホ向け乾電池セット」の完成です。従来の在庫でまかなえるなら、これらのために特別な仕入れは不要で、あとは売れればラッキー。こちらも手を加えているのは「価格」だけです。

ポイントは「遊び心」。遊び心を身につければ、仕事が遊びに変わります。「まとめ売り」はデフレーランドの常とう手段。カートシステムでは実現困難と紹介しませんでしたが「組み合わせ自由」など、手を替え品を替えお客を飽きさせないよう工夫しています。

今回のポイント

安くするだけでは限界がくる

遊び心が生み出すバリエーション

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