企業ホームページ運営の心得

セールするならポイント還元と値引きのどっち? 顧客満足は原価から考える

キャッシュフローから販促企画を考えるポイントを解説
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の351

キャッシュかポイントか

北関東の「Y2K(ヤマダ、コジマ、ケーズデンキ)」が主導し、熾烈な争いを繰り広げた家電量販業界。特にヤマダとコジマの争いは激しく、前者は「ポイント還元」、後者は「現金値引き」を主力兵器に据え、鎬を削りました。

闘争の果て、世紀末覇者の「コジマ」は、新世紀に「ヤマダ」に抜かれ、ビックカメラの子会社になりました。これをもって「ポイントの勝利」とするのはいささか乱暴な議論ですが、現金よりポイント値引きが企業側に有利であるという理由は、「キャッシュフロー」から明らかです。

裏返せば「消費者」にとって還元率や値引きなどの条件が同じなら「現金値引き」が有利ということ。こちらは「生活防衛術」としての基本です。ちなみに「ポイントのヤマダ」においても、

ポイントはいらないから値引きを

と交渉すると、相応の対応がなされることがあります。「駆け込み」の際にはぜひお試しください。

キャッシュフローでみれば

お客から見れば「売上」をもとに付与されるポイントは、取引の一部が積み立てられているように感じます。しかし、帳簿上ではポイント相当分は「一時預かり」となり、その性質は取引前にお客から代金を預かる「前金」と同じで、お客の財布の一部を店が預かっている状態です。これが「ポイント」が企業側に有利な理由です。

しかも利用は店舗に限定されます。仮に家電量販店で1万円相当のポイントを貯めていても、そのポイントでは、街角の自動販売機で缶コーヒー1本すら買えないように、いわば個人の資産が「ロック」されている状態になっているということです。もう1つ例えるなら、ポイントとは、店舗限定の商品券や回数券を、強制的に買わされているのと同じです。一方の現金値引きなら、お客の自由に使えます。

キャッシュフローで見ると、「ポイント」と名付けられた、お客のキャッシュが企業側に移っていることがわかります。

まとめ売りの経済学

キャッシュフローは、販促企画を考えるときにも重要です。

1本100円の「歯ブラシ」を3本買うと、もう1本プレゼント

とは、400円の商品が300円で買えるということですから100円の値引きです。しかし、これは「お客の視点」による見かけの数字です。企業側の視点に立てば、実際に動く負担(現金)は「原価」です。仮に原価が30%ならば、付加する1本分のために流通するキャッシュは30円で、これが実際の販促コストとなります。

キャッシュフローに立つと、原価率が低いビジネスでは、「数量プラス」が有利な戦術と見えてきます。また、原価とは直接の仕入れ価格だけではありません。ラーメン屋における「ライス無料(+ご飯)」も同じ発想で、よそうだけのご飯は「人手(人件費)」という原価を抑えて提供できるサービスなのです。

相殺の美学

反対に原価率が高い商売の場合は、数量プラスが利益を圧迫してしまいます。そんなときは対象商品を指定したうえで、全体から割引する「○パーセントオフ」のような戦術がよいでしょう。需要と粗利のバランスから、対象商品を選定することで、これらを合算した「原価率」によって「お得感」を導き出す作戦です。

たとえば、歯ブラシの原価が30%で、歯磨き粉が70%なら、双方の組み合わせによって原価率「50%」を目指します。前回紹介した、イオンのポイントカード「WAON」の最大28%ポイント還元でも対象商品が限定されているように、粗利を組み合わせることによって相殺するのは基本的な販促技術です。

余談ながら欧米では、消費税(付加価値税など)が変更されるとき、日本のように「一律値上げ(値下げ)」をせずに、売れ筋と利幅の大小から選別した「総徴収額」で、新税率に対応するといいます。こんなところにも「横並び」が好きな国民性が見えてきます。

ポイント vs 現金割引

原価率からみると、ポイントがさらに企業に有利な仕組みであることがわかります。ポイントは「売価」への支払いに用いられます。仮に1万円分のポイントを利用しても、企業側の実質負担は原価であり、原価率3割なら3,000円の負担に過ぎないからです。

ただし、ポイントも万能ではありません。以前、消費税が3%から5%に引き上げられたときのこと。アジア通貨危機にともなう金融不安が追い打ちをかけ、日本経済が急速冷凍されて国民の不満が頂点に達したとき、イトーヨーカドーは伝説の「消費税還元セール」を実施しました。

対するダイエーは、当時「1万円購入すると5百円の金券プレゼント」という企画で対抗します。数字上は同じ還元セールですが、前者は現金値引きで、後者はダイエーだけで利用できる商品券の提供で、形式上はポイント制と同種の還元方法です。

結果は立志伝中の人物、故中内功体制によるダイエーの崩壊へとつながります。また、ショッピングモールへ出店し、「ポイント負け」している場合は、値引きにより直接お客に還元し、満足度を高める方が良いケースもあります。

お得感がすべてに勝る

前回、セールの本質として「他社の排除」に触れました。しかし、それはセールの本質の半分。残りの半分は「顧客満足」のためです。

先の「歯ブラシ1本プレゼント」なら、プレゼントする「1本」を「高級品」や「新商品」にします。お客に「付加価値」を提供することで「顧客満足」を目指すのです。永谷園のお茶漬けの素に「松茸のお吸い物」がオマケとしてついてくるのがこれにあたります。キャッシュフローや原価率とは、「オマケ松茸」的なアプローチから、顧客満足を提供するための「基本情報」ということです。

もちろん、ポイントでも同じ。

3本買うとポイント10倍プレゼント

内訳を見れば、100円=1ポイントならば、10倍にしても30円相当に過ぎません。しかもポイントは売上換算で、原価率で比較すれば1本プラスするよりコストを抑えることができます。

今回のポイント

セールは「原価」で考える

ポイントは企業側に圧倒的に有利な施策だが万能ではない

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