【正しい理解編】同じ広告費で顧客転換率を向上させるLPOの手法
仮説! 検証!
実例でわかるマーケ実践術
ネットイヤーグループ株式会社 金澤 一央
成功するウェブマーケティングには、仮説と検証が存在しなければならない。さらに適切にデータを検証することで、「間違いに可能な限り早く気付き、迅速に手を打つ」というPDCA(Plan Do Check Action)サイクルをいかに高速回転できるかが、今後のWeb担当者のテーマであると言える。
この記事では、マーケティング施策の概念解説とともに、実際に筆者が担当した企業の事例を元にした実践的なノウハウをお伝えする。
LPOは顧客転換率を向上する手法の1つ
LPO(Landing Page Optimization)という言葉はこの1年でかなり浸透したのではないだろうか。LPOは、直訳すると「着地ページの最適化」、つまり「ユーザーが何らかの意図で訪れる最初のページを、その意図に適した状態にすること」だといえる。
ここで大切なのは「ユーザーの意図」であり、その肝は「ユーザーの意図をいかにして汲み取るか」という極めてマーケティング的な概念である。LPOに限らず、新しいウェブマーケティング手法を導入するとき、どうしてもスペックや性能など技術的要素に興味が移りがちであるが、自戒の念も込めて、ここで改めて提起しておきたいと思う。
LPOは、Yahoo!やGoogleといった検索エンジンの隆盛が生み出した考え方である。Googleアドワーズ広告やオーバーチュアのスポンサードサーチなどのリスティング広告は、ユーザーの想起の数だけ露出チャンスがある広告であり、その価格は入札によって決められる。たとえば「ダイエット」など、一般語に近く競争が多い言葉(以下「ビッグキーワード」)はオーバーチュアで入札価格にして1クリック1,200円、2位の入札価格が309円なので実際の1クリック単価は310円だが、「リンゴダイエット」など、範囲を絞り込んだ競争の少ない言葉(以下「スモールキーワード」)だと9円に抑えられる(参考:2007年4月13日現在:オーバーチュア入札価格チェックツール)。
ビッグキーワードはたいてい検索頻度が高く、そのぶん露出量も流入量も高い。たとえば、「ダイエット」がYahoo!で10万回検索されたとして、その1%がクリックされるとすると、310円×1000クリック=31万円の出稿費がかかる。1000の流入のうち1%が顧客になったとすると10名。顧客獲得単価(CPA)は31万円÷10=3万1,000円である。
もちろん効率が悪いので、広告主は顧客転換率を1%から2%に上げればCPAが半額の1万5,500円になると考え、顧客転換率を上げるためのさまざまな試みを展開する。そのうち、「リスティング広告」→「ランディングページ」という流れにフォーカスした最適化の考え方が、LPOなのである。
これまで、各広告主は、流入量を確保するためにさまざまなキーワードに入札し、そのほとんどからトップページに誘導していた。理由はさまざまだが、その多くは、
トップページに来てくれれば、ユーザーはそこからゴールに到達できるはずだ
という考え方に起因する。これは、ウェブサイトはトップページからうまく遷移できるように構築しているからであり、ほとんどのサイトはそのように作られている。もちろん、トップページは最もユーザーに接触する重要なページであることは依然として変わらない。しかし、検索エンジンやブログなどからトップページを介さずに下位階層のページに直接飛んでくることが増えたのも確かだ。
たとえば、「ダイエット」と入力したユーザーが、検索エンジンから「おすすめダイエット食品のページ」と「ダイエット食品メーカーの会社紹介トップページ」のどちらに行こうとするだろうか。言うまでもなく後者の可能性が高いだろう。
ユーザーが打ち込んだ検索キーワードに秘められた「意図」と、ランディングページをいかに近づけるか、両者の関係性をいかに最適化するか、LPOとはこのための行為すべてを指す。
LPOは効果測定を前提とした施策
LPOを実施するにあたり、よく陥りがちなのが、「LPOの仕組みを導入すれば、コンバージョン率が上がる」という考え方である。決して間違ってはいないが、これでは継続的な成功はまず得られない。LPOによって継続的に成功するためには、次のような行動が必要になる。
- 現状把握
- 行動+改善仮説の立案
- 行動+改善仮説の実践
- 効果測定
LPOを実施しようと考える場合、ほとんどの担当者は現状のコンバージョン率(顧客転換率、以下「CVR」)とクリック率(クリックスルーレート、以下「CTR」)に問題を感じているはずである。もちろん、この2つを押さえていれば、施策成功の是非を判断することは可能である。しかしながら、「なぜうまく行った(行かなかった)のか」を正確に推察できなければ、改善施策は運任せとなってしまう。そのため、
- どんなユーザーが
- どんな意図で
- どんな時間に流入し
- どんな行動をしたか
といった、アクセス解析による基本的な情報によって現状を把握し、
- ユーザーはこのように行動するはずだ
- ここが改善すべきポイントだ
- 結果として、このように改善されるはずだ
という行動+改善仮説を立てて実践に移すのが重要なのである。CTRやCVRの変化は、これらの一連の行為を評価するための指標でしかないのである。LPOは効果測定を前提とした施策なのであり、いかに効果測定の検証サイクルを回転させられるかが、LPO成功の重要なポイントである。
LPO施策の4パターン
LPO施策を実施するには、さまざまな方法論が存在する。ここでは、実際にどのような手法があるかを紹介する。
1. 力業LPO
LPOを行うにあたりまず考えられるのが、入札したキーワードに合わせたページを用意し、ランディングページとする力業(ちからわざ)的な手法だ。
たとえば、「米沢牛」には米沢牛のページを、「松坂牛」には松坂牛へのページを、「お歳暮」「ギフト」にはギフトパッケージのページを用意するといったように、入札したすべてのキーワードに、用意されたいくつかのランディングページを振り分けるのである。トップページ着地一本槍にくらべると、これだけでも相当な効果があり、比較的低コストで対応が可能である。
しかしながら、大量のキーワードに入札した場合や、アイテム数が多い場合は相当の人海戦術を必要とするのが弱点となる。
2. ダイナミックLPO
力業LPOを、ソフトウェアの力を借りて動的に行う手法がダイナミックLPO(以下DLPO)である。DLPOには、次の2つの考え方がある(もしくは両者を複合した定義)。
生成型:キーワード別のランディングページ「生成」をダイナミックに行う
最適なページをその都度生成させる方法。Amaznon.co.jpなどで有名ないわゆる「動的リコメンド」に近い。振り分け型:キーワード別のランディングページ「振り分け」をダイナミックに行う
リスティング広告などのパラメータときっかけとして最適なページに着地させる(リダイレクトする)方法。
DLPOは、現在LPOという言葉をにぎわせている大きな要因の1つである。特に生成型のDLPOは、あらかじめ用意したテキスト情報や画像パーツを組み合わせることによって、極めて多数のユーザー意図に対応することが可能である。もちろん、「米沢牛+ギフト」と「米沢牛+すき焼き+ギフト」で異なったページを出現させることも可能であるし、cookie情報などと突き合わせれば、再訪問ユーザーにはまた異なるページを見せることもできる。DLPOは、力業LPOでは物理的に不可能な最適化を、論理的に可能にできるのである。
振り分け型のDLPOは、ページを力業でつくり、振り分けルールの設定をソフトウェアで補う方法である。ランディングページが無限に近い生成型に比べると着地先のバリエーションは制限されるが、レイアウト制限を受けない自由なクリエイティブテストとの併用が可能であることや(動的生成ページはその特性上レイアウトの自由度に限界がある)、動的ページ生成を行わないことによるSEO効果(ケースにもよるが、動的ページはSEOスコアが低くなる場合もある)などの利点も多い。
両者に共通することだが、効果測定の結果を見て振り分けルールを変更するなど、柔軟性の高さという面でも、DLPOは力業LPOを格段に凌駕する。また、リスティング広告以外でも、判別できるパラメータがついている流入であればすべて最適化対象にできる。バナーやEメールだけでなく、技術的にはキーワードのリファラーを識別し、SEOによる流入にも対応することが可能であり、まさに現在のインターネットビジネスに必要とされる施策であるといえる。
現在、いくつかのDLPOソフトウェアが日本でもリリースされており、今後DLPOはますます洗練と進化が進んで行くことになろう。
3. A/Bテスト(スプリットテスト、クリエイティブテスト)
DLPOの1つであるが、ランディングページとして複数のページを用意し、ランダムに出現させる手法である。しばらくの期間それぞれの効果を測定し、スコアの高かったページの出現率を上げることで、顧客転換率のさらなる向上をねらう。
ダイレクトマーケティングの世界では以前から行われており、ピンと来た方も多いと思うが、クリエイティブの優劣を決めるテストとしても活用できる。
4. 多変量解析
多変量解析は当初からリコメンドに採用されている方式で、「Multi Variable Test」とも呼ばれる。多数の判別情報から最適解を導くロジックを組み、ユーザー意図に最適なページを常に生成し続ける手法で、いくつかのDLPOツールにも導入されている。
たとえば、「米沢牛」+「すき焼き」+「ギフト」というキーワード属性に、
- 四角いボタンをクリックする傾向が高い
- 商品訴求画面は200×300ピクセル以上
- 動画に反応しやすい
などの判断基準を追加することによって、表示するページを変更するのである。
このロジックの精度が上がれば、常に高いCVRを獲得できるページを提供し続けられることになる。これまでWeb担当者が腐心してきた「最適なレイアウト」を多変量の解析結果に基づき、ソフトウェアが自動的に生成してしまうのである。まさに夢のソフトウェアだが、判別制度を上げるためには十分なデータの蓄積と、管理者による細やかな調整が必要である。
ただ、大量のPVを誇るサイトの場合、上記のようなロジックを設定すること自体が困難になる。これを解決するために、とにかく勝ち組だけを残すという手法もある。常にテストを繰り返し、多くクリックされたものを正として、比較洗練をし続けるもので、完全に確率論に立脚する。この場合は逆に、「なぜこのページはCVRが高いのか」という理由がわからなくなってしまうというデメリットがある。
行動仮説と効果指標の明示化が必須
前述のDLPOとA/Bテストを行うことで、ランディングページの最適化は格段に向上するように思われる。ましてや、多変量解析の精度が上がれば言うことなしである。
しかし、冒頭で述べたように、ユーザーの「意図」を解釈しないことには、継続的な効果は期待できない。この「意図」を正確に汲み取るために、ユーザーの行動仮説が重要な意味を帯びてくる。
LPO施策を展開するにあたり、これまでの経験や勘、データ根拠などによって、必ず何らかの仮説の下にキーワードを選び、見出しと説明文を考え、振り分け先のランディングページを制作・設定する。この一連の行為をユーザー視点で書き換えてユーザーの行動仮説とし、その行動仮説に基づいて達成するであろう目標値を効果指標として設定する。
この行動仮説や効果指標を明文化して認識しているかは、LPOにおける重要なポイントである。たとえば、次のような仮説を立てたとする。
実際にテストをしてみて予測よりも効果が出なかった場合は、仮説を疑うことになる。
しかし、ここで重要なのは、「仮説が間違っていた」ことではなく、「間違っていることに気付いた」ことである。間違っていれば直せばいい。DLPOは、この迅速な対応を可能にし、常に最適化を洗練させるための技術に過ぎず、あくまでも重要なのは、間違いをすばやく見つける準備、すなわち、行動仮説と効果指標の明確な設定なのである。
次回は、実際に行ったキャンペーンの事例を元に、LPOをどのように行うのか、仮説をどう立ててどう測定し、どう調整していくのかを具体的に解説する。
コメント
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× たとえば「ダイエット」など、一般語に近く競争が多い言葉(以下「ビッグキーワード」)はオーバーチュアで1クリック1,200円だが、
○ たとえば「ダイエット」など、一般語に近く競争が多い言葉(以下「ビッグキーワード」)はオーバーチュアで1クリック310円だが、
実際のクリック単価は確かに310円になりますね
ご指摘ありがとうございます。編集時点のミスですね。
1位の入札価格が1,200円でも、2位の入札価格が309円なら、実際のクリック単価は310円になりますね。チェック漏れでした。大変失礼いたしました。
masahiroさんのご指摘をふまえて本文の記述を少し訂正しておきます。