データアナリストが現場で使えるスキルを学ぶ8冊! ~GA4の知識・問題解決力・伝えて動かす力
今回は、GA4(Google Analytics 4)を使いこなす本はもちろんのこと、データアナリストとして、必要な知識・スキルが得られる書籍を、デジタルマーケティングの支援を行う月曜日のトラの代表取締役 西正広さんに紹介してもらった。
Webアクセス解析は魅力的な仕事!
西さんのWeb解析キャリアは、2006年に不動産会社に新卒入社したことから始まる。システム部でWebディレクション・デジタルマーケティング業務を担うことになり、Webアクセス解析に出合った。Webアクセス解析をマーケティングだけでなく、急激なサーバー・ネットワーク負荷の高まりの原因分析などにも利用した経験から、幅広く活用できることに魅力を感じ、極めてみたいと思うようになったという。
その後、インターネット専業広告代理店における分析業務支援を経て、電通デジタルにてアクセス解析・DMP・レコメンデーション・BIツールなどの導入・活用支援に8年ほど取り組む。そして、2019年7月よりMOLTSグループに参画している。
西さんが代表取締役をつとめる月曜日のトラは、MOLTSの子会社として2023年3月に設立された。Webアクセス解析をはじめ、データ基盤構築・運用支援、広告効果測定など、データに関連したマーケティング支援を行っている。
今回は、GA4にダイレクトに関連する書籍が2冊、データアナリストとして顧客に分析結果を伝えるためのスキルや、施策につなげていくためのスキルを磨くための書籍を6冊紹介してもらった。
GA4を使いこなすために、読んでおきたい2冊
これから紹介する1冊目と2冊目は、どちらか片方だけではなく、両方を読むのがオススメだという。1冊目では細かな機能と設定方法を学べ、2冊目ではアクセス解析の取り組み方を知ることができる。
私がアクセス解析のトレーニングセミナーを実施するときも、「アクセス解析の取り組み方」と「機能やその設定方法」は分けて解説しています。この両輪で理解することが重要です(西さん)
1冊目
『できる逆引き Googleアナリティクス4 成果を生み出す分析・改善ワザ 192 できる逆引きシリーズ』(木田和廣:著 インプレス:刊)
1冊目は、GA4の機能を一通り理解できる書籍だ。
本書は、具体性や情報の網羅性が抜群に高いです。章によっては難しい部分もありますから、初心者の方は無理して全部を読もうとする必要はないと思います。全部目を通すという読み方だけでなく、デスク横において気になるところを目次から探して調べるという、まさに逆引きとして使えます。たとえば、この数値は何なのかと思ったら調べてみる、こういう設定をしたいと思ったら調べてみる、という使い方です(西さん)
2冊目
『現場のプロがやさしく書いたWebサイトの分析・改善の教科書【改訂3版 GA4対応】』(小川卓:著 マイナビ出版:刊)
GA4の機能だけでなく、KPI設計などアクセス解析全般の取り組み方にフォーカスした1冊だ。
実のところ、このタイプの書籍は少なくて、貴重な書籍の1つだなと感じました。収集したアクセスデータの読み方についても解説しているので、アクセス解析を始める方は参考になると思います。データの向き合い方、分析の仕方が身につく本です(西さん)
進化するGA4の最新情報はネットで得るのがベター
なお、GA4は機能や画面がどんどん進化しているので、書籍はすぐに内容が古くなってしまう。そのため、最新情報を得たいのであればネット上の情報が有用だと西さん。なかでも、絶対に見ておきたいのが小川卓さんのGA4のサイトだ。
問題解決のためのデータ分析のアプローチを知る1冊
ここからはWebアクセス解析に限らず、データアナリストとして成長するために役立つ書籍を教えてもらった。
3冊目
『マッキンゼー式 世界最強の問題解決テクニック』(イーサン・M・ラジエル、ポール・N・フリガ:著 嶋本恵美、上浦倫人:訳 英治出版:刊)
データアナリストとして知っておきたいスタンスが書かれている書籍として、西さんがオススメするのがこの本だ。西さんは社会人5年目にこの本を読んで、データ分析に対しての取り組み方が変わったという。
データ分析は問題の要因を探るために行うことも多いと思いますが、そうした分析へのアプローチのしかたを学ぶことができる本です。本書を読めば、数値を見て分析する手順、分析との向き合い方などが理解できると思います。今は多くの人から仮説の重要性が語られていますが、仮説の立証だけでなく、反証も探す大切さなども記されており、分析の心得を学べます(西さん)
なお、この書籍は『マッキンゼー式 世界最強の仕事術』(イーサン・M・ラジエル:著 嶋本恵美、田代泰子:訳 英治出版:刊)という書籍の続編にあたる。データアナリストにオススメなのは「問題解決」だが、それを読んでおもしろいと思ったら、仕事術もぜひ読んでほしいと西さん。
分析結果を効果的に伝える力を身につける5冊
データアナリストがデータを分析後、その結果を関係者に伝えて、施策に移していくことになる。ただし結果を伝えても相手に伝わらず、施策につながらない場合もある。そこで、ここからは「分析結果の伝え方」にフォーカスしたオススメ本を紹介したい。
データアナリストになった当初は、データから発見したことや考えたことを伝えることに苦労しました。当時、私が作成した資料に対し、先輩からフィードバックをいただきながら、どう伝えるのかを学びました。データアナリストとして成長するためには、分析力を積むだけでは不十分です。いろいろな職種の人と円滑に仕事をするために、相手を理解したうえで自分の考えを伝えていくための技法を習得する必要があります(西さん)
4冊目
『具体と抽象 ―世界が変わって見える知性のしくみ』(細谷功:著 dZERO:刊)
あなたは、経営層にレポート結果を伝えても、論点が異なるせいかスムーズに話が進まない経験をもっていないだろうか? レポート結果を伝える際、論点を合わせるうえで重要になるのが具体と抽象を意識することだ。4冊目は、具体的な考えと抽象的な考えを切り替えられるようになる本で、経営層にプレゼンすることが多くなるデータアナリスト4、5年目の人に特にオススメしたいという。
具体と抽象はデータアナリストとして、解析結果を相手に伝えるときに意識するべき視点です。データアナリストは、データを見ているのでディティール(具体)を知っています。一方、上司はデータを見ていないので、抽象的な視点になります。
そこでデータアナリストは、「具体から抽象的な視点に切り替えて説明すること」「相手と抽象化のレベルを合わせること」が必要になります。ただし、行動を促したいときには、抽象だけでは話がぼやけてしまうので、抽象と具体を行き来しながら話すことが求められます(西さん)
5冊目
『「超」文章法: 伝えたいことをどう書くか』(野口悠紀雄:著 中央公論新社:刊)
5冊目はレポートを作成する際に重要になる文章法の本だ。著者は、ベストセラー『「超」整理法』(中央公論新社:刊)で知られる野口悠紀雄さん。データアナリストに向けて書かれた本ではないが、誰にでもわかりやすい1冊だ。
データアナリストにとって、分析から得られた結果をレポートにまとめて言語化するスキルは非常に大切で、ビジネスシーンで伝わりやすい表現をする必要があります。本書では、メッセージングの重要性を伝えており、伝えるための骨組みづくりについて紹介しています。説得力を持たせる文章の書き方として参考になると思います(西さん)
6冊目
『外資系コンサルのスライド作成術―図解表現23のテクニック』(山口周:著 東洋経済新報社:刊)
6冊目は、得られた結果をPower Pointに整理する場合に参考になる本だ。たとえば、本書にはグラフ選びについても具体的に書かれている。
本書にはグラフ選びに必要な2つの原則が書かれています。わかりにくいアンチパターンと、良いパターンが並んで掲載されているので、グラフの選び方が身につきます。たとえば、円グラフは量を表現するには不向きで、縦の棒グラフで示したほうが直感的にわかりやすいですよね。具体的な例とともに紹介されているので、示したい内容によって最適なグラフ選びが身につくと思います(西さん)
最近は、Power Pointでレポート化せずに、Looker Studioなどのダッシュボードを使うケースが多い。ただし、ダッシュボードでも、どのグラフを選ぶかで伝わりやすさが変わるので読んでほしいという。
7冊目
『ノンデザイナーズ・デザインブック』(ロビン・ウィリアムズ:著 吉川 典秀:訳 マイナビ出版:刊)
専門のデザイナーではないデータアナリストが知っておきたいデザインの知識は、この書籍で学べる。
前職の上司から読んでおくように言われた1冊です。見やすい配置などデザインの原則が学べますし、デザイナーが意識していることが理解できるようになります。類書はたくさんありますが、その元祖であり、元になっていると思います。デザイナーには敵わなくても、見栄えのするレポートやダッシュボードがつくれるようになります(西さん)
8冊目
『ザ・コピーライティング――心の琴線にふれる言葉の法則』(ジョン・ケープルズ:著 神田昌典:監訳 ダイヤモンド社:刊)
デザインだけでなく、一言で方向性を伝える力もデータアナリストには求められる。そのために読んでおきたいのが本書だ。
データ分析の結果を伝えて、施策の方向を示すときに、自分でコピーを提案できるようになる本です。電通グループ在籍時に、コピーライターの仕事ぶりを見たことがあるのですが、コピーライターが考えたコピーをベースに世界観・メッセージの方向性が定まり、デザインが決まるということを知りました。
アナリストはコピーライターではないので、考えた案が最終的なコピーにはならないとしても、コピー案を通して、考えや方向性を伝えて、デザイナーなど他のメンバーに動いてもらうきっかけはつくれます。コピーライティングを少しでも知っておくと、分析から施策につなげやすくなります(西さん)
なお、著者はアメリカで活躍したコピーライターで、原典は100年以上前に書かれたもの。それでも内容は古くならずに、今でも通用するさまざまなコピーのパターンが並んでいる。分析結果から得られたターゲットを振り向かせるには、どんな言葉がいいのか、パターンをインプットしておけば、A/Bテスト、LP、リスティング広告などの案として、方向性の打ち出しができるようになるだろう。
本書には具体例がたくさん紹介されています。いろいろなパターンを知っておくと、世の中に溢れているコピーもより深く見ていけるようになります。ボリュームがあるので一気に読むのは難しいかもしれません。寝る前に少しずつ読んでインプットするのがオススメです(西さん)
ChatGPTを相談相手に、アイデアを磨いていく
最後に、書籍以外で参考にしている情報について聞いてみた。
わからないことは、Web検索で調べることが多いという西さん。ただし、Web検索は自分がおかれた状況に対して、適切な解を得るのには向いていない。そこで最近活用しているのがChatGPTだという。
「GA4のコンバージョン設定」はWeb検索をしたほうが早く答えがわかります。一方で、「◯◯業界の、◯◯キャンペーンを実施する場合のKPIは何がいいのか」ということはChatGPTに聞くといい回答をもらえることがあります。
ChatGPTは状況を踏まえて答えを返してくれますから、実際にそれを参考に検討することがあります。もちろんChatGPTの答えのなかには、自分ですでに考えていたこと、当たり前のことも含まれていますが、ChatGPTはMECE(漏れなくダブりなく)な回答を返す天才なので、自分には抜けていた視点を返されることもあって、大変参考になります(西さん)
Web検索とChatGPTとを使い分けているという西さんは、最近ではChatGPTに自分の文章を直してもらうこともあるそうだ。
西さんは、データ分析よりも相手に理解してもらえる伝え方を重視した書籍をたくさんピックアップしてくれた。それは、西さんがデータ分析の結果を相手に伝えること、相手を動かすことに苦労しつつも、それを乗り越え信頼を獲得してきたからだろう。最近は、レポートを作成するのではなく、BIツールのダッシュボードに直接アクセスしてもらうことが多いそうだが、そこでも伝わりやすい表現について知っておくことで、より効果的に活用してもらうことができるだろう。
西正広(にしまさひろ)
株式会社月曜日のトラ
代表取締役
大手不動産賃貸事業会社におけるWebディレクション・デジタルマーケティング業務後、インターネット専業広告代理店における分析業務支援を経て、株式会社電通デジタルにてアクセス解析・DMP・レコメンデーション・BIツールなどの導入・活用支援に取り組む。
2019年7月より株式会社MOLTSに参画。2020年より子会社KASCADE取締役、2023年より子会社月曜日のトラを設立し、代表取締役に就任。データに基づくサービス改善、ビッグデータ活用のコンサルティング、インハウス運用、データドリブンなマーケティング組織の構築を支援する。
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