「マーケティング」×「マネジメント」で成果を出す! プロジェクトマネジメントを学ぶ8冊
業界の第一線で活躍する人にオススメ書籍を教えてもらう本連載。今回は、チャレンジを成功に導くためのマネジメントナレッジを提供するEVeMで、B2Bマーケティングのチームを率いる富家(ふけ)翔平さんにお話を聞いた。

マーケティング✕マネジメントの両軸のキャリアを目指す
富家さんは、新卒で通販会社に入社。ここでWebマーケティングのおもしろさを知り、広告代理店に転職。実務を通してプロフェッショナルとしての仕事との向き合い方や顧客の期待を学ぶ。その後、コニカミノルタジャパンに転職して、B2Bマーケティングをスタート。最初は3人だった部署は、その4年後には約30人に成長した。
コニカミノルタジャパンでの経験を通して、B2Bマーケティングは、マーケティングとマネジメントの2つがそろわないと成果が出ないと実感しました。戦略と戦術を描くだけでなく、組織をマネジメントして施策を実行することまでが求められるからです。
マーケティングとマネジメントの2つのスペシャリティをかけ合わせた人材は価値があると思ったので、自分の次の領域をここにしようと決めました(富家さん)
そして2023年9月に、マネージャー向けにマネジメントのナレッジを提供するスタートアップEVeMに転職する。4期目で、富家さんは10人目の社員だった。大企業から社員10人の企業へと環境を変えることで、マーケターとして成長することを目指したのだ。
そんな富家さんに、マネジメントを学ぶのに役立つ書籍を紹介してもらった。ぜひ、これから紹介する順番に読んでほしい。
まずはマネジメントの基本を、童話を通して学ぼう
1冊目
『PMBOK対応 童話でわかるプロジェクトマネジメント[第2版]』
(飯田剛弘:著 秀和システム:刊 2022/10/27:初版発行)
マネジメントについては、アメリカのPMI(Project Management Institute)が発行する「Project Management Body Of Knowledge(PMBOK(ピンボック)」が有名だ。これは、プロジェクトマネジメントに関するベストプラクティスをまとめたガイドだが、初心者が読みこなすには少々難易度が高い。
そこで最初に紹介するのが、このPMBOKの専門的な内容を「三匹の子豚」「桃太郎」などの馴染み深い童話を踏まえて解説した書籍だ。初めてプロジェクトマネジメントに触れる人でもイメージを掴みやすい1冊で、複数人で順番に読んで議論する輪読会にもマッチする。
「桃太郎」の章では、鬼ヶ島に着いた桃太郎がキジ、サル、イヌにそれぞれ動き方や注意点を具体的に指示します。桃太郎は、プロジェクトの最重要点で誰が何をやるのかイメージできているので、みんなに指示できるのです。伝えられた方は、他の人の動き方を踏まえて、自分が何のためにその動きをするのかを理解します。
役割分担やスケジュールの明確化、さらにクリティカルパスを意識的にチーム内で共有することの重要性に気づける本です(富家さん)
なお8章は、PMBOKの総まとめとなっており、これまで童話で扱ってきたマネジメントについて解説されている。「8章を定期的に読み返すだけでも学びがある」と富家さん。

PMBOKの入門編でプロジェクトマネジメントの基礎を身に着けよう
2冊目
『プロジェクトマネジメント標準 PMBOK入門(PMBOK第7版対応版)』
(広兼修:著 オーム社:刊 2022/11/26:初版発行)
1冊目でPMBOKの概要を掴んだら、2冊目の書籍でさらに理解を深めてほしい。なお、この本はPMBOK第7版に対応している。第6版に比べてアプローチが変わっているので、かつて学んだ人にも読んでほしい。
本書にはプロジェクトマネジメントにおける原理原則(マインドセット)とパフォーマンス領域(具体的活動)の関連性が示されています。原理原則が価値観や意識だとすると、パフォーマンス領域はタスクマネジメント、コストマネジメントなどの実務の話で、それぞれの項目について詳しく解説されています。
また、計画は状況に応じて変えていいというテーラリングの考えが紹介されている他、心理的な受容性や納得感を高めるコミュニケーションを考慮したアプローチが重要だと書かれています(富家さん)
富家さんは特に「プロジェクトの成功は目的と目標の明確さに依存する」ということが印象に残ったと話す。目標が曖昧なままプロジェクトが進み、あとから軌道修正するのに苦労した経験があるからだ。
B2Bマーケティングは、社内のステークホルダーの巻き込み方や目標設定が常に課題になります。「関係者がマーケティングの知識がないからプロジェクトが進まない」という悩みをよく聞きますが、マーケティングの知識ではなく、プロジェクトの合意が取れていないからではないかと思います。プロジェクト開始時に目的と最終的な価値を明文化し、チーム全体で共有することで、プロジェクトを前に進められます(富家さん)
プロジェクトの炎上と対処法を疑似体験して備えよう
3冊目
『プロジェクトのトラブル解決大全 小さな問題から大炎上まで使える「プロの火消し術86」』
(木部智之:著 KADOKAWA:刊 2022/2/18:初版発行)
3冊目は、プロジェクトマネジメントの現場で頻繁に起こるトラブルや炎上案件について、具体的かつ実践的な対処方法を紹介した本だ。「現在炎上中のプロジェクトに関わっている人は、まずはこの本を読んでほしい」と富家さん。
印象に残っているのが「プロジェクト成功の9割はリーダーが腹を括る覚悟次第」という言葉です。プロジェクトの計画時と炎上時ではアプローチが異なりますし、リーダーには絶対にやりきるんだという覚悟が大事です。
本書は、抽象的な理論や理想論にとどまらず、現場で起きる具体的な問題に対して即座に応用できる手法が具体的に紹介されていて、共感できる点が多いです。一方で、自分は経験したことがない炎上についても疑似体験できるような感覚があります(富家さん)
なお、本書はノウハウだけにとどまらず、リーダーシップのあり方、コミュニケーション、振る舞い方にも言及している。

人を中心に考えるピープルウエアという考え方
4冊目
『ピープルウエア 第3版』
(トム・デマルコ、ティモシー・リスター:著 日経BP:刊 2013/12/18:初版発行)
4冊目は、ソフトウェア開発について書かれた本だが、人間関係、チームマネジメントに焦点を当てており、他の業種でも参考になる。PMBOKとは異なる切り口でプロジェクトマネジメントについて書かれていて、マネジメントは管理ではなく、チームのメンバー一人ひとりに目を向け、活き活きと働ける環境をつくることが役割であると再認識できたという。
本書では、「人を単なる交換可能な部品として扱っていませんか」と問うています。部品を当てはめているような感覚で人をアサインしてしまうと、人によっては本来のパフォーマンスを発揮できない場合があります。本書では知的労働では、個人の個性や自律性を尊重し、メンバーに自由と信頼を与えることがより成果につながると書かれています。
印象的だったのは触媒になる人材の重要性です。人と人とを繋いでくれる人で、いるだけでメンバー間のコミュニケーションや結束が促進され、チームのパフォーマンス全体が上がるような人です(富家さん)
他にも、「結束したチームには管理や動機付けが不要で、自発的に共通の目標に向かって動く」「チーム編成の目的は、目標を達成することではなく、目標を一致させることである」という内容も響いたという。
KPIと目標は別ものです。たとえばCPA(獲得単価)1万円をKPIとする場合、それを達成することで目標に近づくことを言語化した上で、チーム全体で追求することが重要です。目標が共有できると管理や動機付けがなくても、自律的に目標に向けて動けます(富家さん)
工業社会のマネジメントから知識社会のマネジメントへ
5冊目
『だから僕たちは、組織を変えていける』
(斉藤徹:著 クロスメディア・パブリッシング(インプレス):刊 2021/11/29:初版発行)
5冊目は、売れ行き好調の話題の書籍で、工業社会的なマネジメントが限界にきていること、知識社会にふさわしい新しい組織運営の在り方について書かれている。
工業社会では効率化、標準化が成功の鍵でしたが、知識社会では創造性と斬新なアイデアが必要で、効率化、標準化はむしろ逆効果です。
私はKPIをただただ追いかけ続けることに疑問をもつようになりました。もちろん事業計画としては追う必要はありますが、目標は別にあるべきではないでしょうか。たとえばマーケティングチームでセミナーの回数を決めてそれを達成するために熱量もないのに実施するのは間違いです。リード数や商談数などのKPIを達成するためには、珠玉の一施策にどれだけ魂を注げるか、という方が大事ですし、成果にもつながるはずです(富家さん)
また、本書中の「責任の罠」という言葉にも影響を受けたという。
「責任の罠」は、成果を出さなければいけないというプレッシャーから、マイクロマネジメントをして過度に把握や管理をしすぎてしまうことです。これも発想が工業社会であり、メンバーから創造性や自律性を奪っています。読み進めるなかで気づいたのは、「人の力をどう捉えるか」という思想の違いです。人を管理するか、人を活かすか。その違いが、組織の成果や文化に大きく影響するということを紐解いた1冊です(富家さん)
なお、本書は単に「管理するのはだめだ」としているわけではない。PMBOK、プロジェクトマネジメントのテクニック、人の感情などを理解した上で、さらに発展して組織の活かし方を考えるのに役立つ本になっている。

改めてプロジェクトマネジメントの実務を学ぶ
6冊目
『プロジェクトマネジメントの基本が全部わかる本』
(橋本将功:著 翔泳社:刊 2022/11/8:初版発行)
次に読んでほしいのが、プロジェクト管理に必要なことを網羅的に扱っていて、実務的なアプローチで全体像を把握できる本書だ。プロジェクトマネジメントのスキルを復習し、実務レベルを高めるのに役立つ。
交渉、計画、見積り、要件定義、契約、保守などの実務について書かれていて、研修制度が整っていない会社では教科書として利用してもいいと思います。「プロジェクトマネージャーはタスク管理者ではなく、全体を俯瞰してプロジェクトを成功に導く司令塔である」という考え方が印象的で、マーケティング業務にも適用できます(富家さん)
本書には、プロフェッショナルの態度として課題を隠さずチームで解決する姿勢や、不確実性の高い社会でリーダーも正解がわからないときには、みんなで考えることの重要性も書かれている。また、富家さんは「プロジェクトマネージャー自身も学習を続ける必要がある」という指摘に、自分の弱い分野を避けるのではなく、主体的に学びを深める必要性を感じたという。
1年に1回は読み返してほしい、王道の1冊
7冊目
『マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則』
(ピーター・F・ドラッカー:著、上田惇生:訳 ダイヤモンド社:刊 2001/12/13:初版発行)
最後は「やはりこの本」と紹介してくれた本書。富家さんはこれまでに3回読み返して、そのたびに自分のマネジメントスタイルを見直しているという。ただし、難易度は高く、読み手の経験や理解力が求められるため、「最初にこの本に挑戦するのは、オススメしない」と富家さん。
本書の中心的なメッセージは、マネジメントとは強みを発揮させ、組織の成果を高めることだということです。組織は人の弱みを中和し、強みを生産的な方向に導く仕組みであること、コミュニケーションは相手の経験や理解力に沿って行う必要があること、意思決定は異なる意見を取り入れ、実行者の参加を得てこそ効果的であることなど、これまで紹介した書籍で学んだことが、全部書かれています。マネジメントに関するモヤモヤが晴れないときや、毎年の年末に1回など、定期的に読み返すべき1冊です(富家さん)
番外編
『最高の打ち手が見つかるマーケティングの実践ガイド 3つのマップで戦略に沿った施策を実行する』
(富家翔平:著 翔泳社:刊 2024/6/26:初版発行)
富家さん自身も、昨年書籍を出版している。「プロセスマップ」「キーポイントマップ」「アクションマップ」の3つのマップを使って全体像を把握し、戦略的にマーケティング施策を企画することを解説した1冊だ。ぜひ、手にとってみてほしい。

対面のコミュニケーションで情報収集
富家さんが情報収集として大切にしているのは、対面のコミュニケーション。積極的にイベントや会食に参加して、その人が今取り組んでいる仕事や課題について聞いている。生成AI、動画活用、SEOなど、テーマごとに「この人」という人がいて、一次情報を取りに行くようにしているという。
自分がその人たちの知識をテイクしてばかりでは申し訳ないので、自分でも普段から情報やノウハウをギブするように心がけています。自分が何者なのか、どんな情報をギブできるのかをはっきりさせることで、相談を受けることも多いです(富家さん)
流れるように7冊の書籍のポイントを紹介してくれた富家さん。本ごとに要点をまとめた資料を用意してくれ、常に万全の状態で仕事に取り組む姿勢が垣間みえた。
富家翔平
株式会社EVeM
Marketing Director
大手通販会社のマーケティング、広告代理店にてマーケティングコンサルタントを経験。その後、コニカミノルタジャパンにて、営業改革プロジェクト×マーケティング組織立ち上げを推進。マーケティング企画部 部長として、事業部・全社マーケティング組織の責任者を務めた。
2023年秋よりEVeMに参画。実践者のひとりとして、マーケティングに「マネジメントの力」を掛け合わせた成果創出に挑戦している。
著書:最高の打ち手が見つかるマーケティングの実践ガイド(翔泳社)
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