【レポート】デジタルマーケターズサミット2023 Summer

PV8倍を達成! JALの「OnTrip JAL」運営担当者が明かす、オウンドメディアの作り方

「OnTrip JAL」の事例をもとに、オウンドメディアでPV増を実現するプロセスについて解説。

近年ますます注目が集まっているオウンドメディア。メディア運営が専門でない企業でも、プレスリリースや公式サイト、広告とは別のアプローチでブランディングやプロモーションができる。しかし、メディア運営には本業とは違う難しさがある。日本航空(JAL)が手がける「OnTrip JAL」では、オウンドメディア運営に詳しい外部企業とタッグを組み、1年で月間PVを8倍に成長させたという。

成功の背景にはどんな取り組みがあったのか。日本航空株式会社の波多野力氏(Web販売部・販売グループ アシスタントマネージャー)と、株式会社ハルマリの青木優氏(コンテンツプロデューサー)が「デジタルマーケターズサミット 2023 Summer」に登壇し、その裏側を語った。

日本航空株式会社 Web販売部・販売グループ アシスタントマネージャー 波多野力氏(左)、株式会社ハルマリ コンテンツプロデューサー 青木優氏(右)

JALのオウンドメディア「OnTrip JAL」は、販売系部門が運営

JALが手がけるオウンドメディア「OnTrip JAL」は、旅行需要の喚起やJALブランドファンの獲得を目指し、2017年3月に開設された。

国内・海外の観光情報やJAL社内スタッフらの取材による記事、仕事の舞台裏紹介などのオリジナルコンテンツを掲載しており、一言で言えば「JALが提案するオリジナル観光ガイド」のようなものだ。

「OnTrip JAL」の概要

オウンドメディアとしては珍しいが、Webプロモーションの受託事業も展開している。また、ツアー商品、航空券の直接的な販売支援も行っている。

一般的にオウンドメディアの運営は、企業内の広報部・宣伝部が担当するケースが多い。しかしOnTrip JALは営業支援的な側面が強く、JALの販売関連部門であるWeb販売部が運営しているのも特徴だ。

OnTrip JALの運営体制~JALを中心に、ハルマリと連携

OnTrip JALの運営体制を会社別に示したのが以下の図だ。

OnTrip JALの運営体制

各社の主な役割として、JALが全体戦略の立案と運営を担当し、株式会社JALブランドコミュニケーションが運営補佐・実績分析を行いつつ、講演後半で登場する青木優氏らハルマリがより具体的なディレクションや進行管理にあたる。

このように複数社が運営に関わっているが、運営体制の構築にあたっては以下4つのポイントを意識したという。

1. 明確なゴールと背景、温度感の共有

複数の関係者がいる以上、運営の背景やゴールが共有されていなければ目標達成はおぼつかない。他社とは共有したくないことも少なからずあるものだが、一見ネガティブなことや各社の人間模様も含めて共有した方が、最終的に良い成果に繋がるのだという。

2. 密なコミュニケーションとPDCA

各社とのミーティングは月3回のペースで実施。チャット、メール、電話も含めれば、ほぼ毎日コミュニケーションを取っている。

3. 餅は餅屋

メディア運営には明確な答えがないことも多い。だからこそ、戦略や目的を共有した後は、互いに信用し合って仕事を任せた方がいい。そうしなければ方針がブレてしまう。「一度信用して決めたらその後はしっかりと仕事を任せる」という意味で、波多野氏は「餅は餅屋」と表現する。

4. 垂直体制

運営体制としてはJALからハルマリへと実務が流れていく。この過程で関係者が増えるケース(外部とのコラボレーションなど)があるが、その際にもJALだけで交渉するのではなく、ハルマリを通して取り組みを行う。こうすることで、目標に対するスピード感の向上、サイト全体や記事の統一感維持にも繋がる。

プレスリリースやSNSでは伝えきれない、より深掘りした情報発信媒体として

2018年に波多野氏が着任した直後のOnTrip JALは、制作、進行管理、CMSなど、タームごとに異なる外部企業に依頼していた。しかし、関係者間の目的意識を揃えたり全体把握や進行管理が困難で、責任の所在もあいまいだった。そこで、取引関係をハルマリに一本化。これが波多野氏にとっての最初の仕事だった。

運営に関連する企業をハルマリに一本化

また、コロナ禍における交通・旅行業界の苦境は誰もが知るところだが、OnTrip JALも例外ではなく、緊急事態宣言が度々発出される状況での旅行喚起は難しく、運営で苦しんだという。

そうした中でも、コロナ禍発生直後の2020年春には「#旅を夢見て」と題し共通ハッシュタグを活用したメディア横断のコミュニケーションを企画。また、アフターコロナでもしばらく続く旅の不安を少しでも払拭し、安心して旅を楽しめるよう密を避けた「新しい旅のカタチ」と題した企画や、それに連動したワーケーション、宿泊施設の一棟貸し切り企画など、現在にも繋がる旅行商品販売をスタートさせた。

コロナ禍の初期に実施したキャンペーン

2023年秋の段階ではコロナ禍からの回復傾向が続いており、掲載コンテンツの制限もほとんどなくなった。そこで波多野氏は改めて、多くの社員を巻き込んだコンテンツ展開に力を入れている。

社員の話に耳を傾けてみると、(対外的に)もっと情報を発信したいという声は多かった。しかし実際にやりたくても、プレスリリースやSNSでの発信には限りがある。OnTrip JALがその受け皿になれるのではないかと思った(波多野氏)

そうした想いから、以下2つのコーナーを設けることにしたという。

  • 「JAL STAFF VOICE」……JAL社員が自ら取材・撮影、文章作成までを行い、新サービスや地域情報を発信する。
  • 「JALの舞台裏」……プレスリリースなどで発信される情報について編集部で取材・撮影を行い、「人」にフォーカスを当てることで、プレスリリースでは伝えきれない社員の想いや背景などを深掘りする。
対外的に発信したい情報は多いが、媒体は限られる
OnTrip JALでは、JAL社内の声を発信するコーナーを設けた

1年間でPVが8倍に! 成功要因はSEO最適化

この1年で、OnTrip JALの月間ページビュー数(PV)は約8倍に増加した。驚くべき数字だが、波多野氏によれば、前提として2つの背景があったという。ひとつは、前年にはコロナ禍による旅行需要の落ち込みとそれによるサイト閲覧数の減少があったこと。もうひとつは、以前は数より質を重視していて、閲覧数を伸ばすための取り組みをほとんどやっていなかったこと。

大幅なPV増を達成

では、なぜこのタイミングで数を重視するようになったのだろうか?  波多野氏によると、冷え込んだ旅行需要を回復させるために1人でも多くの人に旅行の楽しみを届けることが重要だと考えたからだという。

とはいえ、追加費用をかけられるわけでもない。そこで力を入れたのが、限られた予算の中で実行できるSEO(検索エンジン最適化)だった。なかでもオーガニック検索における流入シェアが10%増加したことが特徴的だ。

講演の時点では「銀座 楽しみ方」「日本三大花火大会」などのキーワードで検索1位を達成し、「中華街」「Visit Japan Web」などのトレンドでも公式サイトに次ぐ2位を達成。他にも空港内のおみやげ記事や都内の観光スポット記事なども上位に表示されるなど、SEOが大幅に改善されたという。

SEO対策を強化し、Organic流入シェアが10%増加

波多野氏は、今後も「餅は餅屋」の精神で、Webの専門家であるハルマリとしっかりタッグを組んでいきたいという。その上で、新たな取り組みとして、TikTokをはじめとしたSNS活用も2023年度から本格化させた。オウンドメディアだけではリーチしきれない顧客へのアピールが大きな狙いだ。

徹底した情報共有と、「発信したい情報」×「読者インサイト」による企画

講演後半は、OnTrip JALの運営をサポートする株式会社ハルマリの青木優氏(コンテンツプロデューサー)が登壇し、その舞台裏を解説した。

ハルマリは2019年からOnTrip JALの運営に携わっている。その体制図は以下の通り。

OnTrip JAL運営における、JALとハルマリの連携体制

波多野氏らOnTrip JALの中心的運営チームに対し、ハルマリ側ではプロデューサーを置き、全体の進行管理にあたる。プロデューサーはハルマリ社内の戦略・進行・編集それぞれのチームと協調して作業する。ただし、各チームは独立分業制ではなく、全員が同じ情報を共有し、それによって全体最適を図っている。

さきほど波多野さんに『餅は餅屋』とおっしゃっていただいたが、OnTrip JALをとりまく状況や目指しているゴールを我々ハルマリ側も共有できているので、やるべき企画などもこちらから自信を持って出せる(青木氏)

こうして情報共有、意識のすり合わせを徹底するメリットは大きく、JALとハルマリのメンバーが顔を合わせる月2回の編集会議では、企画に対して「やる・やらない」がほぼその場で決まる。

オウンドメディア運営を外部委託している場合、企画の可否はその場で決まるよりも、「社内に持ち帰って検討」や「1週間待った挙げ句、企画変更」に至るケースが少なくない。しかしOnTrip JALの場合、企画から着手までがスムーズで時間も短いため、季節性・ニュース性の高い案件にも素早く着手でき、その分、制作に時間をかけられるので、品質も上がるという。

では、オウンドメディアにとってベストな企画とはどんなものだろうか。

メディアを立ち上げた以上、さまざまな情報を発信したい。だが、それらを全て闇雲に企画にしても読者には届かない。読者がどんな情報を求めているのか、どんな見せ方をすれば企画に興味をもってもらえるのかが重要だ。つまり、「発信したい情報」と「読者インサイト」を掛け合わせた企画がベストだと青木氏は説明する。

こうすることで、広告すぎず、エンタメすぎない、読み物として価値があってJALのブランド好意も高められる企画ができあがる(青木氏)

オウンドメディアにとってベストな記事とは

PV増に向けてのプロセス

OnTrip JALにとっての2022年度は、PV増を目指す1年であった。外部メディアからの流入増、いったん訪問したユーザーの回遊率アップなど、流入経路ごとに狙うべき施策はいくつかあったが、今回講演で解説されたのは、検索エンジンからの自然検索(オーガニック検索)の増加策。

流入経路ごとに戦略を立て、KPIを設定

SEOはコストパフォーマンスが高い。成功すれば継続的な流入増に繋がるため、メディアにとっての資産になる。予算が限られる中で流入増を目指すならSEOに力を入れるのは妥当な選択だったと言える。

オウンドメディアのSEOにあたって重要なのが、どの検索キーワードで上位に表示されるのか狙いを定める「キーワード選定」だ。インターネット上でよく検索されるキーワードは存在するが、その全てがOnTrip JALと関係あるわけではない。オウンドメディアで大切なのは「検索ニーズ」と「メディアの親和性」のバランスだ。JALらしく、旅の提案サイトとしての価値をなくさない一定ボリュームのあるキーワード(テーマ)をどうやって見つけ出すかが鍵になる。

以下の図は、縦軸で検索ボリューム(検索数)、横軸でOnTrip JALとの関連性をマッピングしたチャートである。

縦軸:検索数 横軸:ブランドとの関連性 でマッピング

右上の「スポット名(観光地名など)」は、OnTrip JALと関連性が高く検索ボリュームも多い。だが、ここで検索上位を狙うのは、競合サイトも多いため難しい。

左上の「ダイエット」は、インターネット全体では人気キーワードだが、OnTrip JALとは関係性が薄い。「旅とダイエット」をテーマに記事を書くことはできるが、それをOnTrip JALでやるかどうかは議論が分かれるところだろう。

この図の中でOnTrip JALが選んだのは、なんと「宝石」だった。検索ボリュームが一定数確認されたにもかかわらず、宝石について解説する権威的なサイトが見当たらない。そこで「旅のお守りとしての宝石」や「旅行先で選ぶお土産としての宝石」について紹介する記事を制作した。

成果はじわじわ出たものの、即効性に欠け、PV増の目標期日も迫っていたため方針を変更。既存記事を分析し、旅系のワードで手堅く上位を狙うことにし、記事の修正(リライト)や、すでにある人気記事を「親記事」として、その記事から派生する「子記事」を作り、親記事と子記事の回遊を狙った。

「宝石」での検索上位を狙ったが、即効性は低かった

仮説検証を繰り返して「上位を取れるキーワード」を特定

一方で、新規記事の制作にも着手。上位を取れそうなワードを選定して記事を公開し、1ヶ月後の数字を目安に、どのキーワードなら勝てるのか仮説検証し、そうして特定されたワードを横展開して記事を量産する……といった手順を踏んだ。

たとえば、さまざまなキーワードの反応を見ていく中で、「日本三大花火」というワードの反応が良く、「日本三大そば」「日本三大祭り」といった記事を展開。これが見事にヒットし、「日本三大○○」というクラスタ化(特定のキーワード群)に成功。「OnTrip JALは日本三大○○について詳しくていねいに説明している良いサイトだ」とGoogleからの評価も上昇し、SEO的な強さを高めることになった。

月次・施策別のPV変遷。「宝石」でスタートし、「旅系ワード」に路線変更、
勝ち筋を見つけて流入増へ

青木氏はPV増達成の過程を振り返り、SEOの基本をおさえることはもちろん、トライ&エラーで勝ち筋キーワードを見極め、公開されたら終わりではなくリライト前提で分析を継続し、期待されるブランドらしさ、メディアらしさを徹底できたことが特に重要であったと分析する。

ブランドらしさ、メディアらしさを忘れないことが特に重要で、そうすればSEOで重視すべきポイントがハッキリするし、PVにも反映される。この事実を確認できたのは貴重だった(青木氏)

青木氏によるまとめ

最後に、まとめ記事に対するOnTrip JALのスタンスも明かされた。一般的に、旅行・観光系のWebサイトでのSEOでは、複数のスポットやトピックをまとめ記事にするのが一種の定番化している。だが、多くのサイトが同種の記事を作るため、差別化することが必要だ。ではどうするか? 以下2つの観点で差別化しているという。

ネガティブチェックを徹底

競合サイトも紹介している一般的な人気スポットに関しては、「本当に紹介するに値するか?」とネガティブチェックを行い、徹底的にリサーチ。

オリジナリティを加える

JALとしておすすめしたいスポットは、JALのネットワークを活かして独自のリサーチを行い、JALだから紹介できるスポットとして紹介。

このように、検索ニーズを満たしながらも、新しい発見があって参考になる情報の詰まったJALらしい上質な記事になることを目指しているという。そしてこれがまたSEO最適化に寄与するわけだ。

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