広告費が無駄に⁉ 「デジタル広告詐欺」対策を行って「自社ブランド」を守ろう
2022年、日本のインターネット広告詐欺発生率は世界平均の2倍になり、被害額は1,300億円に達したという。日本のデジタル広告の問題は深刻化している。そこで、パナソニック コネクトの山口有希子氏とメディアジーンの今田素子氏が「デジタルマーケターズサミット 2023 Summer」に登壇。広告業界の問題の本質を掘り下げながら、アドフラウド(広告詐欺)の横行が広告主に与えるデメリット、アドフラウドへの対策方法を紹介した。
デジタル広告の予算が不当に搾取されている現実
アドフラウドの問題は根深く、むしろ深刻化し、複雑化する傾向にある。マーケターにとっては頭の痛い問題である。「なかなか良くなっていかない」と山口氏が嘆くように、特効薬的な解決策が示されているわけではない。
2023年3月5日付の日本経済新聞には、アドフラウドに関する調査データが掲載されたが、2022年における日本のインターネット広告の閲覧水増し詐欺被害額は1,300億円にのぼり、発生率は世界平均の2倍以上あるという。
今田氏は「メディア側も対策を考えてきたにもかかわらず、広告詐欺は増え続けている事実に、非常にやるせない思いがある」と語る。山口氏も「広告費をだましとったお金が反社会勢力の資金になっている。調査は20カ国で行われたが、最もひどい状況にあるのが日本だということに衝撃を受けた」と同意した。
広告主側の課題
広告主側の課題は、主に2つある。
- アドフラウド:不正クリックやボットなどで水増しされ、不正インプレッションが発生する
- ブランドセーフティ:ブランドに合わないコンテンツ環境に広告が表示されてしまう
次図のデスクトップディスプレイにおけるアドフラウドの推移をみると、日本は“いいカモ”にされている状態で、悪化傾向にある。山口氏は「広告主は真剣に広告をつくり、ユーザーに届けたいと考えている。それを踏みにじる行為」と怒りをにじませた。
広告主の課題認知率
しかしながら、JICDAQ(デジタル広告品質認証機構)が実施した「デジタル広告課題意識調査」によると、広告主の認知率は、「アドフラウド(無効トラフィック)」で約7〜9割、「ブランドセーフティ」でも約8〜9割。広告会社や媒体社に比べて、広告主の認知率が低い結果となった。
この結果に、「大切なお金を使う広告主の認知率が低いことは大問題。すべての広告主に認知してほしい」と山口氏。今田氏も「広告会社まかせにせず、広告主がアドフラウドを意識することが大切」と語った。
広告主の対策率
さらに、課題を認知したとしても対策は万全とは言えず、広告主の対策率はやはり低い状態だ。広告主の対策率は、「無効トラフィック」で約6〜7割、「ブランドセーフティ」で約7〜8割である。
その理由について、山口氏は「デジタル広告は、その複雑さがゆえに知識がおいつかない。さらに対策のリソースや予算もない。そこで対応しないままになってしまっている」と語った。また、今田氏は「運用型広告は効率を追い求めるがゆえに、クリエイティブなどが疎かになるなどの問題も生じている」と分析した。
もともと日本のデジタル広告の傾向として「販促系」の割合が高く、ブランド広告の割合が高い米国と比べて予算が低めで、「とりあえずリード」という目的であることが多い。そのためにクリエイティブの品質も低下する傾向にあるという。今田氏は「インパクト先行で、コンバージョンやファンの醸成に結びついているかといえば疑問」と語り、山口氏も「経営層によるガバナンスが全社に行き届かず、部門の数字を追いかけることが優先になっていることも多い。組織的な問題は根深い」と指摘した。
上場企業で反社的な団体を取引先としないための取り組みは厳密に行われていても、資金源となっていてもどこか他のサイトを経由し、直接支払われていないがゆえに、デジタル広告には意識が向きにくい。結果、デジタル広告への課題に対する認知率も対策率も低いことにつながるわけだ。
ブランドを守るために、デジタル広告の出稿先管理が必須
対策方法
それでは、どのような対策が可能なのか。山口氏は、次のような方法を紹介した。
まずは、出したくないサイトを登録する「ブロックリスト(旧ブラックリスト)登録」という方法がある。さらに、出したいサイトのみを選定する「セーフリスト(旧ホワイトリスト)」、参加できるメディアと広告主が限定されたWeb広告の取引の仕組み「PMP(プライベートマーケットプレイス)」の利用、そして、Webに掲載された広告が人に正しく見られているか、適切なサイトに掲載されているかを調べる「アドベリフィケーションツールの導入」も有効だ。また、こうした問題から立ち上げられた「デジタル広告品質認証機構(JICDAQ)」の認証パートナーを活用するとよいだろう。
ただし、今田氏は「ブロックリスト利用者は多いが、ヌケ・モレがあり、イタチごっこになりがち」と指摘。「ネットワーク広告の立ち上げ期には、在庫(広告の出し先)をより多く集めた広告会社がより成長するという構造があり、審査がゆるくなり、在庫の貸し借りをしていた。そのため、広告会社側に問題があるサイトが含まれていることもあり、見極めが難しい」と広告業界のリアルを語った。そうなると、広告主は出し先を把握し、見極めることが至難の業となる。
メディア選定の課題
2021年の米国でのデジタル広告費と日本国内エージェンシーのデジタル広告費を比べたものが次図になる。
日本は大手プラットフォームへの出稿が80%にも上り、オープンウェブ(Open Web)と呼ばれるパブリッシャーやサイトへの直接広告が2%程度と米国の1/10にしかならない。大手プラットフォームへの出稿は確かに手軽ではあるが、ほとんどの広告予算が注ぎ込まれているのはバランスとして違和感がある。
また、運用型広告でのPMPの活用は米国で50%。日本においてはほぼゼロに近い可能性があるという。PMPを活用することで、「どこのメディアに出るのか」はもちろん、例えば「競合とかちあわないように」「どんな人に届けたいのか」という細やかなコントロールができる。それによって広告効果を高めるだけでなく、ブランドセーフティが担保され、反社会勢力への費用流出も防ぐことにつながる。
しかし、PMPによる管理は、日本のデジタル広告ではほとんどなされていない。求める数量の配信結果として、クリック率やコンバージョンレートだけをみて自動的に広告が配信されていく。効率性の影で、不適切なメディアに大量に出稿され、不正クリックも含めた数字が計上されている可能性もあるのだ。今田氏は「ブランド毀損のリスクもありうるのに、数字だけを見ているのが果たして効率的なのか」と改めて警鐘を鳴らした。
健全な広告活用を実現するには、出し先の再認識が必須
それでは、広告の出し先として、どのようなサイトが望ましいのか。
広告費の投下バランス
次図にあるように世界的な調査によると、デジタルメディアの利用時間の66%を、パブリッシャーなどを含めたOpen Webが占めている。それにもかかわらず、広告費は40%しか投下されていない。しかも、日本での投下割合は2%だ。広告費の投資のバランスが悪い印象がある。
メディアと広告の信頼関係
また、日本インタラクティブ広告協会が公開した情報によると、「有名 / 信頼できる企業や商品の広告」が「不快 / 不適切なメディア」に掲載されると、広告への評価や信頼度は低下することがわかる。今田氏は、「差別的なコンテンツを掲載している、コピペでコンテンツを作っているなど、不適切なサイトは多く、そうしたサイトへの広告掲載がマイナスイメージをもたらす可能性が高い」と語り、「広告主はメディアを選別する必要がある」と強調した。
一方、メディア側としても、不快・不適切な広告を掲載し続けると、コンテンツがよくてもメディアの評価や信頼度が損ねられる。山口氏は「広告主としては、そうした評価が下がったメディアへの掲載も避けたいと考えることが自然」と語った。
コンテンツメディアの評価
次図をみてわかるように、コンテンツメディアの評価においては、コンソーシアムメディアの信頼性が総じて高い。しっかりとしたコンテンツを生み出しているメディアは、コンテンツづくりにおいてユーザーの動向や感情を常に意識している。裏を返せば、ユーザーをしっかりと意識したコンテンツを掲載するメディアは信頼され、評価も高いというわけだ。そして、そうしたメディアに掲載される広告も、好印象や信頼感をもたれやすいということになる。
今田氏は「運用広告のデータは大切だが、やはり人を動かすのはコンテンツだと思う。クライアントやスポンサーが提供する商品やサービスを好ましいと思うかは、コンテンツやクリエイティブと必ず紐づいている。それを見ているユーザーのマインドセットが何よりも重要なのではないか」と語った。
広告への信頼回復を
次図のように、テレビや新聞などと比べても、インターネット広告は信頼されていないという報告がある。
山口氏は「長年、広告に携わってきた人間として、インターネット広告が信頼できないというのは心が痛むが、不適切な位置への掲載、視聴のしにくさ、内容の不確かさ、過度なターゲティングなど、その理由を鑑みれば当然のこと」と語り、「すでにインターネット広告の規模は3兆円にもなる。だからこそ業界全体で問題を解決していかなければならない」と訴えた。「いい広告」は見ていて楽しいものであり、コンテンツとしても優れている。広告もメディアもコンテンツであり、優れたクリエイティブがあってこそ、生活やビジネスに役立ち、心を動かすものとなる。
しかし、生成AIによる広告収入目的の“ゴミサイト”が1日1,200本も更新されているという報告がある。そこに広告費が消費されるとなれば、さらに問題は深刻化する。しっかりとコストをかけてコンテンツを作成している事業者への広告収入が大きく損ねられるということでもあり、ジャーナリズムの衰退にもつながりかねず、社会的な影響も無視できない。
今田氏は「世界に比べても日本の状況は深刻。まずは現実を知り、できることから対策をとってほしい」と語り、山口氏も「日本の広告エコシステムをなんとか健全化していきたい。そのためには、広告が出るメディアに対する評価や信頼性を再認識し、アクションにつなげることが大切」と続けた。そして、「今回の対談が多くの人の気付きになり、業界が変わっていくきっかけになれば」と語り、セッションを結んだ。
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