井村屋の「あずきバー」はなぜリニューアルした? 発売50周年の“変えない”リブランディング戦略とは
1973年の発売から50周年を迎えた井村屋の「あずきバー」。誰もが知っているロングセラー商品だが、長く愛され続けるために、井村屋ではどのようなリブランディングを行ったのだろうか。
「デジタルマーケターズサミット 2023 Summer」では、井村屋の商品営業企画部長の浅田英伸氏と、同社の販売促進チームの龍田健介氏が登壇。商品リニューアルの背景や、発売50周年のプロモーションの裏側などを紹介した。
祝50周年! 井村屋の看板商品「あずきバー」がリニューアル
井村屋は1896年創業の老舗菓子メーカー。小さなようかん事業から始まった同社は、今年で創業127年目を迎えた。後に看板商品となる「あずきバー」が誕生したのは1973年のことだ。
ボックスタイプのあずきバーシリーズの売上は右肩上がり。2021年には年間販売本数が3億本を突破し、2022年には過去最高の売上を記録した。
そんなあずきバーは、販売から50周年となる2023年に、大掛かりなリブランディングの実施を決定。熟考を重ねた上での決断ではあったが、50年続いた看板商品のリニューアルともなれば、社内からは反対の声も多かったという。
- あずきバーの定義を問われるのでは?
- ロングセラー商品のお客様認知を捨てることに……。
- 売れてるんだから、このままでいいじゃない。
「長年愛されてきたものを変える」という不安や恐怖がある中で、最も苦心したのは、やはり社内の調整だった。
社内では『あずきバーを変える必要はないんじゃないか』という意見がほとんど。賛成の方が少ないくらいでした。というのも、あずきバーはもう10年以上変更を加えていない主力商品。売れている商品に手を加えることに対する恐怖は大きく、社内調整が非常に大変でした(龍田氏)
そうしたプレッシャーの中で行われたのは、「シンプル」をキーワードにしたパッケージデザインのリニューアルだ。具体的には以下の点が変更された。
「ミルク金時」と「宇治金時」の変更
- ミルク金時と宇治金時を、あずきバーの「ミルク」と「抹茶」に変更
- あんこがしっかり入っていることが伝わるように、アイスの向きを変更
- スペックアップした原材料についての表記を追加
3つの商品共通の変更
- 「あずきたっぷり」のコピー部分を挟む線を消した
- 背景に敷かれたスダレ模様が以前より太くなった
- 「6本入り」の文字の視認性が上がった
「あずき」を「AZUKI」に? これからの50年を見据えたリブランディング
実に13年ぶりとなるあずきバーの大型リブランディング。社内外からさまざまな声が寄せられる中で、リニューアルに踏み切った理由は、大きく分けて2つあるという。
1.世界的な価格高騰問題への対応
まず、世界的な価格高騰の問題だ。原材料費を見直すにあたり、ベースとなったのは、「ステルス値上げはしない」と「ブランド価値の向上が必要」という2つの方針だったという。
要するに、メーカー都合ではなく、お客様への還元をするという意味合いでのリニューアルがテーマとなりました(龍田氏)
そこで行われたのが、時代のニーズに合わせた原材料の変更だった。あずきバーはもともと5種類の原材料からなるシンプルな氷菓ではあったが、よりクリーンラベル化するために、「コーンスターチ」を材料からなくしたという。
コーンスターチは決して害があるものではありませんし、あずきを均一に配置するために必要な粘性のある材料でした。難しい改良ではありましたが、関係者と長い時間をかけて協議した結果、あずきの持つでんぷん質に着目し、コーンスターチを抜くことに成功しました(龍田氏)
2.「あずき」を「AZUKI」にする世界戦略
次に、「あずき」を「AZUKI」として世界に広めることだ。海外であずきを広めるにあたって、龍田氏は食文化の違いによるネーミングの伝わりにくさが課題だと考えていた。
日本では『小豆』というと、甘いお菓子としてすぐに伝わる。しかし海外だと、豆を煮たり焼いたりして、主食に近い食べ方をしているところが多い。また、海外には『金時』に該当する言葉がなく、商談でも困ることがありました(龍田氏)
また国内でも、ミルク金時と宇治金時には「あずきバー」の名称が入っていないことから、シリーズとしての違和感が指摘されていた。そこで、商品名を「あずきバー」に統一し、それぞれ「ミルク」「抹茶」とネーミングを変えることを決めた。
国内全支店のセールスにヒアリングをしましたが、『あずきバーシリーズ』への違和感を覚えている方は非常に多かった。『あずきバー』の商標を活かそうという意図もあって、この決断に至りました(龍田氏)
自分は中途入社なので、シリーズなのに名前が違うことに、より違和感がありました。今回の変更で、堂々と“ボックスあずきバー3種類”と名乗れるようになったと感じています(浅田氏)
50周年の話題作りとして「白あずきバー」「こしあんバー」を発売
あずきバーのリブランディングを世に広めていくにあたり、話題となるような派生商品の開発も行われた。第1弾は2022年12月に発売された「白あずきバー」、第2弾は2023年8月に発売された「こしあんバー」だ。いずれも数量限定となっている。
50周年といっても社内的なことで、お客様からすると関係がないこと。メディアに取り上げてもらうためには、フックとなるような商品が必要だと考えました(龍田氏)
白あずきバー、こしあんバーともに売れ行きはよく、通年販売を求める声も多かったという。それでも数量限定にこだわった理由は、商品のプレミア感を演出するためだ。特にこしあんバーは反響が大きく、白あずきバー以上に数量を用意したが、井村屋のWebショップで発売したときには、なんと7時間で完売したという。
こしあんバーはかなりレアなので、見かけたらぜひ買っていただきたい商品です。もちろん消費者からすると(数量限定は)納得いかないところもあると思うので、数量の枠を徐々に増やしていけたらいいなと考えています(浅田氏)
また、こういった派生商品は過去にもいくつか販売している。「主役であるあずきバーを際立たせるためにも、これからもチャレンジングな商品開発をしていきたい」と龍田氏は語った。50周年記念の新たな派生商品も検討しているということで、今後の展開に期待したい。
CMやSNS、イベントでも盛り上げた「あずきバーの日」
井村屋では7月1日を「井村屋あずきバーの日」とし、毎年さまざまなPRを行ってきた。節目となる2023年は、尾上松也氏を起用したCMを展開。店頭でも仕掛けを作り、7月1日に向けて盛り上がりを演出したという。
また、あずきバーのサンプリングイベントも、コロナ禍を経て4年ぶりに実施。井村屋社員が来場者に直接商品を手渡すという本イベントは、テレビ局も取材に訪れ、全国で合計15,000個配布し、大盛況に終わった。
お客様の顔を見て、リブランディングに対する生の反応を知りたいという思いがどうしても強かった。今後もこうしたタッチポイントを増やしていきたいです(龍田氏)
10年ほど関わっている企画ではありますが、今回ほど『家族』を感じたサンプリングはなかったです。お客様の中には、原材料の安全性の観点から、初めてのアイスクリームがあずきバーというお子様もいて。『アイスクリームのファーストアイテムとして、あずきバーはありなのかも』という発見に繋がりました(浅田氏)
イベント中、井村屋の公式SNSではリアルタイムでの投稿が行われた。これまではTwitter(現X)のみだったが、今回からInstagramも追加。担当者がお客様へお声がけをし、許可を得た写真を投稿している。中には井村屋の前会長の写真もあり、「経営層を含んだ会社ぐるみのイベントとなった」と浅田氏は語った。
長く愛されるために? あずきバーの“変わらない部分”
ここまで「変えたこと」の話が続いてきたが、「変えないこと」にこだわった部分もあると浅田氏は語る。その柱となったのが、以下の3点だ。
- 小豆の粒は、1本あたり約100粒
- 小豆の粒が満遍なく行き渡っていること
- シンプルな原材料
実は、40周年のときにも「コーンスターチを抜けないか」という話はあがっていたという。当時は無理だと断られたが、10年経った今、技術の進歩もあり実現に成功した。「よりシンプルに」という軸を守ったまま商品価値を上げることにこだわった結果だ。
あずきバーはリピーターの指名買いが多い。だからこそ、リブランディングにあたって“あずきバーらしさ”は失ってはいけないと感じていました。変えちゃいけない部分を保ちながら変えていく、その線引きは難しかったですが、チャレンジはできたと思います(龍田氏)
最後に浅田氏は、「50周年という節目の年に、こうした大きな企画を行ったことには意義があると思います」と語る。龍田氏は、「今回のリブランディングにあたって、浅田から『自己満足で終わるなよ』と言われてきました。重要なのは、社内的なリニューアルで終わらせず、世の中に発信していくこと、思いを広めていくことです」と語り、講演を締めくくった。
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