Instagramの売上相関指標は「フォロワー数・いいね数」より「保存数」!? ユーザー行動モデルで分析
Instagramは近年、ライブ配信やショッピング機能などコミュニケーションツールから進化をとげている。そんなInstagramを使って売上を増やすにはどうすればいいか? まず思いつくのは「フォロワー」「いいね」の増加だが、実はそこだけにこだわるのは危ういという。
「デジタルマーケターズサミット 2022 Winter」にて、書籍『いちばんやさしいInstagramマーケティングの教本』の著者であるパスチャーの代表取締役である甲斐優理子氏、同社SaaS事業部 シニアコンサルタントの金澤美咲氏が登壇。Instagramの最新動向、そしてSNS時代のユーザー行動モデル「AIKRA(アイクラ)」を解説した。
Instagramでモノを売るなら3つの潮流を押さえる
パスチャーは甲斐氏が2016年に設立した企業で、Instagramを中心としたSNSマーケティングに関する支援事業を手がけている。Instagram運用支援ツール「MASAI(マサイ)」の提供、トレンド情報の発信を目的とした自社メディア「Petrel(ペトレル)」の運営、そしてアカウント運用代行や各種コンサルティングの事業の柱だ。
パスチャーでは、Instagramが国内サービスを開始した初期から支援サービスを提供しており、多くの知見・ノウハウを蓄積しているという。
また、企業・ブランドのInstagram利用について、ユーザーはどんなイメージをもっているのか? ある調査によれば、ユーザーは「楽しい」「有益な情報を提供している」「人気がある」「クリエイティブ」など、総じてポジティブなイメージを抱いていることが分かった。
Instagramと言えば、これまではユーザーとユーザー(消費者同士)がコミュニケーションする場と捉えられていて、企業がそこに入り込んで商品情報などを投稿してしまうと、どうしても宣伝感が強くなってしまった。しかし、そうしたイメージが払拭されつつある。企業アカウントに対するイメージが変わってきている(金澤氏)
その点を踏まえて、Instagramをビジネス目的で利用するうえで知っておくべき最新動向を解説した。
- 投稿コンテンツの多様化
- ユーザーの情報収集方法の変化
- Eコマースプラットフォーム化
1. 投稿コンテンツの多様化
Instagramの機能は日々進化している。投稿コンテンツの多様化はその一例で、最も標準的な投稿である「フィード」以外にも、24時間で投稿が消える「ストーリーズ」、最大60秒の短尺動画「リール」が楽しめるようになった。また現在は、そうした投稿を見つけるための「発見」タブも追加されている。
投稿されるコンテンツの傾向も変わりつつある。美しさが一目で伝わるような“アート志向”の写真だけでなく、料理レシピ、ファッションのコーディネイト、メイクのハウツーなど実用性の高いコンテンツが増加した。
また「フィード」「ストーリーズ」といった投稿フォーマットを、ユーザーは積極的に使い分けている。たとえばTwitterは140文字以内の1ツイートが全ての基本だが、Instagramならは静止画投稿では伝わりづらい内容は「リール」で投稿してもよい。結果として、情報の掲載面が他のSNSより多く、ユーザーも盛り上がり・熱狂を感じやすいという。
最近は1投稿あたりの「情報量」が非常に重要だと感じている。自社の製品をそのまま単純に紹介するのではなく、その製品のアレンジレシピや、他の製品と組み合わせてどう楽しめるのか・便利になるのかといった、一歩先の潜在ニーズを満たせるような投稿が求められているようだ(金澤氏)
2. ユーザーの情報収集方法の変化
情報収集の主役といえばこれまではGoogle検索だったが、Instagram内での検索もユーザーは使いこなしてきている。Instagramの検索機能は年々強化されており、現在は2つ以上のキーワードを組み合わせて検索することが可能だ。また地図検索機能によって、現在地・指定地周辺の投稿も発見できる。
こうした検索時には公式アカウントが上位に表示され、その詳細ページからはGoogleマップへの導線などが用意されている。つまり、Instagramの公式アカウントが、企業にとっての公式Webサイト的な役割を担えるようになっている。よって店舗の基本情報といった“ストック”(一度見たら終わりではない)系の投稿も重要だ。
一方、各ユーザーに対する情報のパーソナライズ化についても、Instagramはさらに磨きをかけてきている。ユーザーの興味関心をアルゴリズム分析して、投稿表示順を変える処理は各所で行われており、前述の「リール」や「発見」タブでは顕著だ。
今後もありとあらゆる面で、ユーザーが能動的に情報を受信しようとしなくても、Instagram側が考えて優先的にマッチングさせる仕組みは強化されていくだろう(金澤氏)
3. Eコマースプラットフォーム化
Instagramでは「発見型コマース」という概念が提唱されている。コンテンツのパーソナライズを駆使することで、ユーザーに“思いがけない商品との出会い”を創出し、購買に繋げようというアプローチだ。
たとえば、投稿画像内に映り込んでいる商品にタグをつけておくと、ユーザーは写真の該当部分をタップすると、Instagramアプリ内の「ショップ」へと遷移。そこからさらに自社ECサイトへ誘導することもできる。商品の認知から購買まで可能にするプラットフォームへと進化しつつある。
Instagram内に顧客の購買データが蓄積されていく。恐らくInstagramでは今後それらのデータをもとに、ショップ単位ではなく商品単位で、(レコメンドの)最適化を図っていくのだろうと予測している(金澤氏)
いいねやフォローではなく「投稿の保存」こそが購入意思の証明
スマホの登場によってユーザーの嗜好が変わり、そしてSNSプラットフォーム側もそれを好機とばかりに機能・サービスを爆発的に進化させている。となれば、ユーザーがモノを購買・消費するにあたっての行動も変わる。甲斐氏らパスチャーでは、SNS全盛時代のユーザー行動モデルとして「AIKRA(アイクラ)」を提唱。
AIKRA誕生の背景を、甲斐氏はこう語る。
Instagramにはフォロワー数やいいね数など、さまざまな指標がある。では、どの数字を追えば売上が増えるのか? 今使っているKPIは本当に重要なのか? その点に悩んでいるクライアントが多くいらっしゃったのがきっかけだった(甲斐氏)
購入検討時に思い浮かぶ商品は3、4個
以下の図は、これまで一般的と考えられているユーザー行動モデルである。図左上の「入手可能集合」から右に向かって、商品をそもそも購入できるか、名前を知っているか、関心があるか等のフェーズを経て、購入にいたる。しかしその途中でふるい落とされる可能性もある。
最終的な購入候補として人間が脳で覚えておける商品・ブランドの数は3、4個が限界といわれる。たとえば店先で「洗剤を買いたい」という時、頭に思い浮かぶ商品は3、4個。それ以外は忘れられ、購入の選択肢にすら入らない。購買がまさに発生するタイミングで、数少ない候補に入り、最優先にならなければ実際の売上に繋がらない。これがビジネスの難しさだ。
SNS時代のユーザー行動モデル「AIKRA」
こうした消費行動モデルを、SNS時代に合わせてアップデートさせたのがAIKRAである。マーケティング理論として名高い「AIDMA」とも似ているが、AIKRAでは「購入検討軸」「意思表明軸」の2軸に立って行動分析をしているのが特徴だ。
商品やブランドに興味をもった方に、それらを記憶(Keep)してもらい、さらに「これを買ってもいいんだ」と自分自身で理由付け(Reasoning)し、最終的に行動する。しかしSNSユーザーは、購入こそしないが情報に対して好意的な姿勢を示したり(Response)、継続的な情報提供を求めてアカウントをフォロー(Connect)することもある(甲斐氏)
これをInstagramにあてはめるとどうなるか。ユーザーはレコメンドされた投稿や「発見」タブを通じて商品を認識し、興味があれば投稿の詳細を開いて中身を確認する。この次がユーザー行動の分岐点で、Instagram上の機能で「投稿を保存」するのが「Keep」、いいねを付ければ「Response」である。
ここで重要なのは、いいねやフォローといった行動が、必ずしも購入検討の予兆・前触れ的行動とは限らないという点である。いいねやフォロー数の増加は、一般的には良い反応だが、商品販売には必ずしも直結しないというのが甲斐氏の指摘。むしろ、購入を決断したユーザーはいいねを付けるなどの行動をとらない例が多いという。
とはいえ、いいねやフォローが全く無意味な訳ではない。前述の通り「今は買わないが、ブランドとは繋がっておきたい」という姿勢の表明とも認識でき、これは企業側にとっては「見込み顧客」そのもの。その姿勢を前提としたマーケティング施策は十分可能だろう。
フォロワー数の多さと「ショップ」遷移数は無関係?!
パスチャーではInstagram行動分析の一環として、ある企業アカウントのフォロワー数と、同アカウントからInstagram内の「ショップ」への遷移数の関連性を調査した。だがフォロワー数と遷移数にはほぼ何の関連もなかった。つまり「フォロワーが多くてもECへの遷移がその分増えるとは限らない。売上とフォロワー数は関係ない」というのが結論である。
同様に、公式アカウントのプロフィールページに自社ウェブサイトへのリンクを用意し、それが実際にタップされた数を調べた。しかしこちらも、フォロワー数の多い企業がタップ数も多いとは限らず、相関性はほぼなかったと甲斐氏は明かす。
では、どの指標が売上と相関するのか? その最有力候補が、すでに述べたように「保存数」だ。保存数が多いとInstagramの「ショップ」閲覧数も多い可能性が高く、他の「コメント数」「インプレッション数」と比較しても統計上優位な傾向が出ている。
またInstagram上で各種マーケティング施策をおこなった場合、投稿内からのリンク・タップが増えるという直接的効果以外に、ユーザーがGoogleで製品名・ブランド名を検索したり、リアル店舗への来店者数が増えたりなど、別の指標に好影響を与えるケースがある。Instagram上の「保存数」は、そうした別指標とも連関性が高いとしている。
SNSの運用にあたっては多くの企業が、フォロワー数を増やすとか、とにかくリーチを増やしていくことで認知を広げれば、それが最終的な売上に繋がると信じられてきた。だがユーザーの行動が変わってきている。そこを是非、認識しておいてほしい(甲斐氏)
甲斐氏はSNS時代のユーザー行動モデルも意識することの大切さを唱え、セッションを締めくくった。
\参加無料 11/19火・20水 リアル開催/
「Web担当者Fourm ミーティング 2024 秋」全50講演超!
ソーシャルもやってます!