Z世代向けマーケティング戦略|若者の価値観に基づいた消費行動とは?
「Z世代」というキーワードに注目が集まって久しい。1996年〜2012年生まれで、2025年には全世界で約23億人に達するZ世代は、「デジタルネイティブ」で他の世代と異なる価値観を持ち、消費の中心になりつつある。この世代を知ることは、今後のマーケティングを考える上で重要なポイントになるだろう。
SHIBUYA109エンタテイメントが設立したZ世代に特化するマーケティングチーム「SHIBUYA109 lab.」所長の長田麻衣氏は、「Web担当者Forumミーティング 2021 春」に登壇し、マーケターがZ世代をどのように捉え、心を動かし、消費につなげていけばよいかについて話した。
Z世代が大事にする「4つの価値観」
1979年4月開業のSHIBUYA109は、昭和から平成にかけて若者文化の中心を担ってきた。2009年には、年間の来館客数は約900万人を誇り、若い世代のファッションの聖地として、これまでさまざまなトレンドを生み出してきた。
しかし、その後のSHIBUYA109は「コモディティ化が進み、若い世代の嗜好や情報受発信のスタイルが変化することも相まって、低迷が続いた」(長田氏)。そこで設立されたのがSHIBUYA109エンタテイメントだ。同社はSHIBUYA109のロゴマーク変更やリブランディングに取り組み、2019年度には過去最高の入館者数を記録するなど、その復活を後押しした。
そんなSHIBUYA109エンタテイメントが若者世代のトレンド把握のために立ち上げたのが、長田氏が所長を務める「SHIBUYA109 lab.」である。同組織は、SHIBUYA109のマーケティング活動はもちろん、外部企業のマーケティング支援などを通じてZ世代と直接向き合っている。定性・定量調査などを通じて「月200人と直接対話し、独自のネットワークで900人ほどのZ世代とつながっている」という。
そもそもZ世代とはなんだろうか?
1981年〜1995年生まれの「ミレニアル世代」に対し、1996年〜2012年生まれ(9歳〜25歳)の世代は「Z世代」と呼ばれる。
ミレニアル世代はインターネットとともに成長し、シェアリングエコノミーの影響を受け、「コスパ重視」「モノへの執着が低い」「多様性を受け入れる」といった価値観を持つ。これに対し、インターネット成熟後に生まれたZ世代は、デジタルネイティブで「ブランドよりも本質」「好きなモノへの消費意欲が旺盛」「体験重視」といった価値観を持つと長田氏は説明する。
また、時代背景を見てみると、Z世代は彼らが生まれた2000年以降、ITバブルの崩壊やリーマンショック、東日本大震災、コロナ禍といった社会情勢を経験している。そして2010年以降の現在は、LINEやInstagram、TikTokなどの「SNS戦国時代」のまっただ中にある。
ハードウェアにおいては、2010年頃を境として、ポケベルやPHSをはじめとするガラケーからiPhoneなどのスマホが中心となっている。「特に今の中学生は動画・SNS中心の世代といえる」と長田氏は指摘する。
こうした「デジタル・SNSネイティブ世代」はスマホ・SNSがデフォルトの環境やコミュニティがリアルだけでなくデジタルにも拡大していること、そして画像や動画を介したビジュアルコミュニケーションに親しんでいるという日常の中で、以下4つの価値観の特徴を持っているという。
- 自分らしさは周囲が決める: 周囲からどう見られているかを意識している
- 同調思考が強い: 周りの目が気になり、共感能力も高い
- 多面性がある: さまざまな自分を持ち、SNSアカウントを含めたコミュニティに合わせて表現する
- 多様性は当たり前: 自分にも他人にもいろいろな側面が合って当然だと考える
自分が価値を感じたものに「時間、お金、熱量」を注ぐ
スマホやSNSの普及によって、若者の消費への価値観も徐々に変化している。たとえば、「トレンドの生まれ方」は、2015年頃まではかろうじてTVや雑誌などのマスメディアが中心といえた。しかし、この5年でInstagramやTikTokなどのSNSが中心となり、より細分化、多様化している。
これにより、「憧れ・参考にする人」は、みんなが憧れるような共通の人物ではなく「自分に合う人・近づけそうな人」が対象となっている。
そして消費への価値観は、「量産」型のトレンドから、パーソナルカラーや骨格診断など「より自分に合うようカスタム」することが重視されてきている。
長田氏は、こうした若者消費を表す4つのキーワードを示した。
- 体験消費・参加型消費
- 間違えたくない消費
- メリハリ消費
- 応援消費・親近感消費
1. 体験消費・参加型消費
「モノ」よりも「コト」に価値を感じることで、コロナ禍により非日常に価値を感じる傾向は強まっているという。たとえば、2019年に調査した「お金をかけていること」のランキングで、「旅行」は男性で1位、女性でも3位だった。
しかし、コロナ禍により旅行ができなくなり、おそろコーデやリンクコーデ、あるいは、旅行に行ったつもりで仲間と楽しむ渡韓ごっこ、ホテル女子会などのように、SNSで共有・共感を生むことに価値を感じる傾向が強まっている。
2. 間違えたくない消費
「自由に使えるお金が限られている」「SNSで情報収集が可能」「周りの目も気になる」といった背景から、この世代は買い物に失敗したくない傾向が特に強い。その結果、事前の情報収集を入念に行う傾向があり、「口コミの評価が高いかどうか」「信頼する人がおすすめしているかどうか」「自分に合っているかどうか」といったことを慎重に検討すると長田氏は話す。
情報収集については「GoogleなどのWeb検索ではなくSNSがメインになっている」といい、詳細情報はTwitter、ハウツーはYouTube、ビジュアルはInstagramなどのように、求める情報に合わせて使い分けている。
コロナ禍で自分に向き合う時間が増加し、単にトレンドを追うのではなく、自分に合うものを選択したい「パーソナライズ」への気持ちが強まっているのではないかと長田氏は話した。
3. メリハリ消費
自分が価値を感じるものにお金と時間を使い、あとは節約する状態を指す。
4. 応援消費・親近感消費
「社会や他者への貢献意識が高く、応援したいと感じるものにお金を使う」傾向である。
たとえば、ファンであること、お金や時間をたくさん費やしていることなどを指す「ヲタ活」については、2019年のSHIBUYA109ガールズ調査によれば、Z世代女性の69%が「経験あり」と回答し、年間の消費金額で最も多かったのが「15万円以上」だった。
これはファッションやコスメ、外食よりも金額が高く、いわゆる「ヲタ」のイメージが「この数年、ニッチでネガティブな、閉ざされたイメージからマス化してオープンになり、“推し”がいるのは当たり前と、ポジティブなイメージに変わってきていることが背景にある」と長田氏は指摘した。
そしてヲタの領域も、アイドルやアーティスト、コスメ、アニメ・マンガ、YouTuber、ファッションなど多岐にわたり、自分が価値を感じたものにお金と時間をかけている(メリハリ消費)という。
こうしたヲタ活の熱量は、さまざまな消費と拡散を生んでいる。韓流アーティストのグッズ、ライブなどのオフィシャル消費から、ファッション、メイク、聖地巡礼、おしゃれピクニックをヲタ活仕様にした「ヲタピク」などのカテゴリーにも波及しているのだ。
このような「熱量の源になる要素を把握してアプローチすることが大事」だと長田氏は話した。
体験価値の提供を支援するSHIBUYA109の取り組み
若者へのアプローチは、価値観や生活環境が違うため、他の世代に比べて想像がつきにくい(長田氏)
こうしたZ世代の「熱量」を生で感じ取るため、SHIBUYA109 lab.は若者と直接コミュニケーションを取ることを大切にしている。
長田氏は、「細分化している若者の嗜好は、定量調査では測りきれない部分がある」、そのため「定量に頼りすぎない。定量だけでは見誤る可能性が大きい」と警鐘を鳴らす。
たとえばファッションブランドの調査では、グループインタビューなどの定性調査で「SHIBUYA109のどのフロアの、どの店というように深掘りすることで、若者がブランドよりもテイストを重要視する」ことがわかったという。
さらに「内製化」もポイントで、担当者が外部企業を頼りすぎず自ら若者と直接会う機会を作り、若者の感覚を実感できる環境作りを大事にしているという。
具体的なリサーチの進め方は、こうした「ルーティン活動で社内に知見を蓄積する」ことからはじまる。これにより仮説を持つことが可能になるからだ。そして、グループインタビューなどのリサーチを通じて「熱量」の確認を行い、若者トレンドの背景にあるインサイトを分析、知見をもとに判断していく。長田氏は、「若者は答えを持っているわけではない」として、リサーチの際の仮説立案の重要性を説いた。
こうした手法を用い、SHIBUYA109 lab.では「月次トレンドレポート」「定点インタビュー」「ビッグデータ×定性調査」「共創プロジェクト」などのリサーチ実績を持っている。
長田氏は、その中の具体的な事例を3つ紹介した。
事例①
SHIBUYA109渋谷店 地下2FのスイーツフロアMOG MOG STANDのフロアリニューアル
フロアの空間デザインにおいて、ターゲットへのグループインタビューなどを重ね、食に関する若者のリアルな実態を把握し、施策やクリエイティブに反映した。
「どんなピンクが好き?」など、ターゲットにとっての“かわいい”や“映え”などの定義を行い、ターゲット座談会でコンセプトの方向性を決定した。さらに、若者の食の楽しみ方を実現するため、各テナントに“映え壁”の設置を依頼するなど、若者の食の楽しみ方を反映し、世界観に共感し、SNSで共有したくなる空間を作り上げた。
事例②
MOG MOG STANDのIMADA KITCHEN(イマダキッチン)のクリエイティブ監修
先述のMOG MOG STAND内にあるスイーツ店「IMADA KITCHEN(イマダキッチン)」でコラボフードのクリエイティブ監修を行った事例だ。クリエイティブや商品企画において、SNS利用実態や食に関するトレンドの知見を共有し、さらにメニュー開発段階でも若者にも参加してもらい共創を行った。
事例③
若者向けホテルプランの企画
コロナ禍により「人が集まって安心して過ごせる場所がない、遠方への旅行はできないが非日常な空間でリフレッシュしたい」という若者の声をもとに提供したホテルプランの企画だ。この企画では、各プランのオプションや体験価値を若者と考え、企画の解像度を上げていった。その結果、若者が抱える課題を明確化し、体験価値の提供を支援することができたという。
Z世代の価値観や熱量に向き合い、体感することが大事
長田氏は、Z世代の心を動かす・消費につなげるためのポイントとして「若者のツボを理解し、正しくアウトプットすることが大切だ」と述べた。
彼らが何にお金と時間をかけていて、その背景にはどんな熱量や価値観があるのか、実際に担当者自身が体感していくことが企画の精度を上げていく一番の近道です(長田氏)
そしてSHIBUYA109 lab.での取り組みを通じて得た知見として、長田氏は「マスメディアで語られている若者がすべてではない」として「5~10年後の消費の中心になっていくZ世代へのアプローチ方法は、今までの世代とは全く異なる」と話す。
世代の消費行動は、どんな消費行動であれ、始まりは“共感”。表面的ではなく一貫したストーリー性が求められる点で、企業のサービスや取り組みにある背景や姿勢が問われている。
長田氏は、前述した4つの「消費価値観」は、Z世代が大人になっても継続していくとした上で、リアルな実態から若者の本質を捉え、若者の心を動かす・共感できるポイントを作り出すことが重要だと総括した。
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