LTV(顧客生涯価値)を高める3つのポイントは?
デジタルマーケティング技術の発展によって、企業における「データ活用」の意味合いは変わってきている。ある商品が売れたとき、購買までに顧客はどう行動していたのかを検証する際、事前にどんなWebサイトを巡回したのか、どの商品と比較したのかなど、あらゆる角度からユーザーの行動を把握するデータがあり、かつそのデータは「見える化」されている。
であれば当然、企業側が実施できるマーケティング施策の幅は広がる。ある顧客が生涯に亘って購買しうる商品・サービスの量、いわゆる「LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)」を念頭に置いたマーケティングが注目されるのは、まさにそうした理由からだろう。
ブレインパッドは、データ分析を起点としたマーケティングソリューションで高い実績を誇る企業だ。「Web担当者Forumミーティング 2021 春」に登壇した同社プロダクトビジネス本部長の東一成氏が、LTV向上の重要性と、データ活用型マーケティングの動向について解説した。
LTVを高める3つのポイント
ブレインパッドは2004年創業。自社開発しているCDP(カスタマーデータプラットフォーム)「Rtoaster(アールトースター)」の販売をはじめ、海外製デジタルマーケティングツールの販売なども手がけている。
ブレインパッドの強みは、データ活用に関する知見の豊富さだ。機械学習・ディープラーニングを用い、企業内業務のオペレーション最適化、マーケティングの効率化などを総合的に支援している。たとえば配送ルートの最適化や、人事部門における退職者要因分析など、これまでであれば担当者の経験値やセンス・勘などに頼っていた業務についても、あくまでデータをもとに改善を図ることが可能だという。
東氏はセッション冒頭、テーマとして「何故、顧客のLTVが重要なのか?」を掲げ、そのポイントとなる以下の3点を挙げた。それぞれ順を追って解説していこう。
- テクノロジーの発展と社会的背景
- ユニファイドコマースでの購買促進&改善におけるCDPとAnalyticsの活用
- 最新データ活用例
ポイント1テクノロジーの発展と社会的背景
データの重要性の高まりと共に、データを取り巻く環境や社会情勢も大きく変化していると東氏は述べる。2014年には米国の調査会社であるIDCが「第3のプラットフォーム」論を提唱。メインフレームによる「第1のプラットフォーム」、クライアント/サーバーが中心の「第2のプラットフォーム」に続き、ソーシャル/モバイル/アナリティクス/クラウド(SMAC)の4つから構成されるのが「第3のプラットフォーム」であり、ITの主流になっていくとしていた。
この予測は見事なまでに的中した。基幹系システムがクラウド化し、人々のソーシャルメディア利用をどう分析するかが非常に重要になった。モバイルファーストでPCすら使わない時代になってきている(東氏)
ますます高まる「データ」の重要性と先が見えないVUCA時代
社会情勢も大きく変化した。将来の不確実さを意味する「VUCA(ブーカ)」という用語が注目を浴びた。なにより2020年には突如コロナ禍が世界を襲った。どれだけ綿密に計画を立てても、突然の情勢変化によって、それらの取り組みがまったく通用しなくなる可能性があらわになったと言える。
よって、まずはスピードを重視してサービスを立ち上げ、改善を加え、上手くいかなければすぐに止める。ソフトウェア開発における「アジャイル」のような手法への理解が、現代の企業には求められていると東氏は主張する。
爆発的に増加するデータ量~もはやデータは「POS」だけじゃない
では、おもにBtoC(一般消費者向け)分野における商取引には、どんな変化が起きているのだろうか。東氏がまず指摘したのは、データ量の爆発的な増加だ。かつては、電話会社の通話明細にあたるCDR(Call detail record)、小売店のPOSデータなどが、購買分析の重要データ源であった。
しかし現在は、個人ユーザー間で送受信されるテキスト、画像、動画など、蓄積されるデータの量・種類が圧倒的に増加している。これらの多くは構造定義されておらず、すぐにはマーケティング分析などに応用できないものの、顧客理解のためには有用と考えられる。これをどうハンドリングするかが、企業にとって大きな課題という。
顧客の体験が重視される時代へ
一方で、モノを単純に売るのではなく、顧客の体験を重視し、価値を提供して対価を得るという、いわゆる「カスタマーエクスペリンス(CX)」の潮流も確かなものとなりつつある。
たとえばコーヒーショップにおいて、客はコーヒー代としてお金を払うが、店内の雰囲気や店員との会話を楽しめたとか、Wi-Fiが整備されているかなども含め、どういう体験ができたかによって店の善し悪しを判断している。
また企業側も、インフラを整えることで客の行動を把握しやすくなっている。音楽ビジネスであれば、これまではCDが何枚、どんな属性の客に売れたかをPOSデータやアンケートで把握していた。しかし月額制の音楽サブスクリプションが当たり前になると、どんな時間帯に、どんな曲を聴いたかといったことまで、分析調査できるようになる。
ポイント2ユニファイドコマースでの購買促進&改善におけるCDPとAnalyticsの活用
商品を販売したその一の売上だけを重視するのではなく、その後も再び購入してもらいたい。さらに言えば、長期にわたって顧客と繋がり続けたい。それを実現するためのテクノロジーもある。これがまさにLTV(顧客生涯価値)の概念が注目を浴びる要因だろう。
「オムニチャネル」から「ユニファイドコマース」へ
企業と顧客の関係性が変化してきている象徴として、東氏が次いで例示したのが「ユニファイドコマース」だ。リアル店舗から商品を買う「シングルチャネル」から、店舗・カタログ通販・ECサイトのどこからでも買える「マルチチャネル」の時代となった。「オムニチャネル」はマルチチャネルから踏み込み、ECで注文した商品を店舗で受け取るなど、チャネルをまたいだ購買が行える概念だ。
そしてユニファイドコマースは、これらをさらに発展させた概念である。商品(企業)のあらゆる情報を統合し、リアル店舗やECはもちろん、店頭スタッフやコールセンターの担当者レベルでも商品情報が一元化され、顧客の好きなタイミングで、好きなチャネルで購入ができる状態を指す。
ユニクロや無印良品は、ユニファイドコマースをいち早く実現した例だという。
これらの企業はもう、アプリを使って各店舗の在庫状況をチェックできる状態を実現している。お店に電話して『在庫ありますか?』と聞く手間もない。また気分次第でECで買ってもらってもいい。お客様が自由に購買チャネルを選べる(東氏)
東氏が強調するのは、こうした購買体験に顧客はすでに慣れている、という点だ。今はまだ大企業など一部がユニファイドコマースを実現しているに過ぎないが、一度便利な体験をした顧客は、今さら不便なサービスを使いはしない。顧客が要求するCX基準は今後高まっていき、中小企業であってもそれに応えていく必要があるわけだ。
社内でのデータ分断を防げ~DMPとCDPの違い
あるひとりの顧客を理解しようとしたとき、参照するデータは企業内の各部署によっても異なる。広告担当者であればリーチ数やクリック数を重視するが、アプリ開発者であればダウンロード数やアクティブ率を重要な指標とみるだろう。
しかし各担当者が、自分の部署で重要な数値だけを追い求めても、それは顧客が最終的に得る体験の向上につながるとは限らない。部署を越えて、データを統合することが重要だと東氏は説明する。
ただ「顧客データの統合」とひと口に言っても、利用されるテクノロジーはいくつかある。「DMP(Data Management Platform)」は、Cookie情報をもとに顧客の年代や性別を“推定”によってセグメンテーションするための製品で、おもに広告配信の分野で活用されてきた。
対して「CDP(Customer Data Platform)」は、DMPの情報をベースとしながら、各企業が保有している顧客情報などを紐付けたものになる。パーソナルベースのデータとなるため、センシティブな情報も含まれるが、広告だけでなく、MAなどあらゆる用途での活用が想定されている。
莫大な情報が集積されるため、結果として顧客の育成・成長パターンを数年単位で分析できるようになる(東氏)
ポイント3最新データ活用事例
ここで東氏は活用事例の紹介に移った。
活用事例①RFIDを使い在庫データを店頭とECで共有化
東氏は、アパレルメーカーのバロックジャパンリミテッドで、ブレインパッドのサービスを利用して社内データの統合を行った事例を紹介した。RFID(電波を用いてRFタグのデータを非接触で読み書きするシステム)を使い、在庫データを店頭とECで共有化。これにより、在庫情報を単なる商品物流ではなく、マーケティングにも活かせるようになった。店舗担当者がEC部門の実績を参照しながら議論できるようになったのは、その成果の一つだ。
ちなみにこれは同社が取り組んでいるマーケティングDX推進計画の一部成果だという。その全容についてはこちらの事例ページを参照されたい。
活用事例②CDPを活用して「優良顧客度スコア」を算出
あるメーカーでは、CDPを活用して「優良顧客度スコア」を算出する取り組みを行った。コンバージョンした顧客の短期動向を追うのではなく、3年という長期的観点で動向を分析した。これにより、結果として優良顧客に成長しうる客、何をどうしても一切テコ入れできない客を判別できるため、マーケティングコストの重点配分などが可能になる。
活用事例③基幹システムそのままにCDPを活用
次に、カタログ通販を手がけるFELISSIMO(株式会社フェリシモ)での事例が紹介された。同社は基幹システム内に膨大な顧客データを抱えているが、これをECサイト上で活用できていなかった。まさに“データの分断”が発生していたわけだ。
加えて、基幹システムはフルスクラッチで開発されていて改修が難しく、マーケティング目的でデータを抽出するにも手間がかかっていた。
そこでブレインパッドのCDP「Rtoaster」を活用。基幹システムをそのまま運用しつつ、別途運用中のCRMの顧客情報を組み合わせることで、メールと連動した商品レコメンドなどを実現させた。また、メール作成業務の工数を5分の1程度に抑える効果もあった。
ブレインパッドでは、さまざまな業界・業種のデータ活用をサポートしてきた。東氏は「ある分野に特化していたり、分野横断的だったりと、多様なプロフェッショナル人材がブレインパッドにはいる。単に統計に詳しい企業というわけではなく、システム開発、具体的な施策の提案などが一貫してできる」と、その強みをアピール。データ活用に悩む企業を積極的にサポートしていきたいと述べ、講演を締めくくった。
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