【レポート】Web担当者Forumミーティング 2021 春

AGC流マーケティングDX|耐熱ガラス食器「iwaki」で目指す顧客コミュニケーションとは?

素材の会社のAGCが、同グループの耐熱ガラス食器ブランド「iwaki」を事例に、マーケティング分野におけるDX成功までの道のりを解説。DXの効果は新規チャネル獲得、業務の効率化、社内メンバーの意識変革、外部からのコラボ提案など社内外の多方面に波及した。
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デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現に取り組んでいる企業も多いだろう。「素材の会社」として知られるAGCグループもまた、そんな1社である。

Web担当者Forumミーティング 2021 春」に登壇したAGCの田家敦史氏と、AGCテクノグラスの野村考弘氏は、同グループが手がける耐熱ガラス食器ブランド「iwaki」を題材に、マーケティング分野でのDXをどう達成したのか、その2年におよぶ苦闘の歴史を詳らかにした。

田家敦史氏(AGC株式会社 経営企画本部 DX推進部 マネージャー)(左)
野村考弘氏(AGCテクノグラス株式会社 コンシューマ本部 ハウスウエア営業部 チーフマネージャー)(右)

国際的企業グループでもDXに苦戦

AGCはグループ売上高1兆4123億円(2020年12月期)、建築用板ガラスや自動車ガラス、さらには塗料用フッ素樹脂などの分野で極めて高い国際シェアを獲得している企業だ。2018年には現社名へ変更(旧名称は旭硝子)。女優の広瀬すずさんをCMに起用し、近年は「素材の会社」であることを大きくアピールしている。

AGCグループの概要

AGCの製品は、その多くがB2B、つまり法人向けに販売されている。対して、今回の講演のメインテーマである耐熱ガラス食器ブランド「iwaki」は、同社グループとしては比較的珍しいB2C(一般消費者向け)ジャンルの製品だ。食品の保存容器、調味料入れ、冷水筒などさまざまなジャンルのガラス製品をラインアップしている。

iwakiブランドの製品開発・販売・マーケティングは、AGCのグループ会社であるAGCテクノグラス株式会社のもとで展開されている。AGCテクノグラスでWeb、EC業務の責任者を務めている野村氏は、2年前までは非効率な組織運営が常態化していたと明かす。

マーケティングやブランドの戦略が機能しておらず、ターゲットも不明瞭。掛け声だけのお客様視点、なりゆき営業など、今ここでご紹介するのもお恥ずかしいくらいの状態だった(野村氏)

2年前まではマーケティングで大きな課題を抱えていた

田家氏はAGC株式会社に在籍しつつ、グループ内企業のDX戦略構築・推進を図る、言わば”社内コンサル”を主業務としている。数々のDX事例に関わってきており、知見も豊富な田家氏だが、iwakiのマーケティングを巡っては、情報発信がメーカーからの一方通行に留まっていて、顧客の声を全く聞いていない印象を受けたという。

実際のところ、2年前の段階ではAGCテクノグラス社内にマーケティング部門が存在しなかった。そうした経緯もあり、必要な業務が現場レベルではわかっていながら、誰が担当すべきか不明確なまま、時間だけが過ぎていったという。

まずは勉強、そしてペルソナ&SWOT分析を駆使するレベルへ

こうした課題を解決すべく、田家氏と野村氏は協力してさまざまな分析を行い始めたのが、まさに2年前であった。「お客様にiwakiをもっと好きになってもらいたい」。その一心で、それこそ専門書を書店で買うところからはじめ、ビジネスフレームワークの作り方などを学んでいったという。その成果の1つ目が、ペルソナの作成だった。

iwaki製品の販売ターゲットというと、これまでは『20~60代、女性、主婦』という認識が社内で支配的だった。だが、考えてみるとこれでは対象が広すぎる。そこでまず絞りこみをしようということになった(野村氏)

全員で討議して練り上げたペルソナは「近藤恭子」と名付けられ、家族構成や年収、性格、悩み、さらには「よく検索するキーワード」までを規程。「40代主婦だったらどう受けとめるか」ではなく、あくまで「近藤恭子だったらどうするか」を社内の全員が意識することで、マーケティング戦略を立案する上でのコミュニケーションロスが大幅に減ったと田家氏は振り返る。

マーケティングではお馴染みの「ペルソナ」を作成

成果の2つ目はSWOT分析である。強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)という4つの軸でiwakiブランドを分析。保存容器シリーズ「パック&レンジ」の競争力が特に高かった点から「強み」とした。一方、既存流通チャネルに対する交渉力が低い点を「弱み」とした。

また、SNSの浸透に代表されるように生活者のデジタル化が急速に進んでいるのは、iwakiにとっての「機会」となりうる。もちろん競合ブランドの拡張という「脅威」もある。

これらの分析結果から、「パック&レンジ」を武器に確固たるiwakiブランドの確立をマーケティング戦略の中核に定めた。そして、今どきの生活者のスタイルに合わせてデジタル接点を最適化し、そのためにはファンと一緒にブランを形成していく。こうして「ファンを大切にする」が、AGCテクノグラスにとっての“目指す姿”として明確化された。

SWOT分析の結果から、マーケティング変革の方向性を決めた

「ファン参加型」を目指してInstagram活用からスタート

iwakiは130年以上の歴史を誇り、長年に亘って愛用し続けている顧客は多い。野村氏も個人的な接客体験からそれを実感していたが、田家氏は「そうしたお客様と長く関係性を持ち続けることができていなかった」と反省する。

iwaki製品のファンをどう顕在化させ、ファンの数そのものをどう増やすのか。最終的にはファンと一緒になってブランドを育てていきたい――これをマーケティング戦略に位置付け、より具体的な戦術・手段の策定へと進んでいった。

前述のSWOT分析でも指摘されたように、顧客自身のデジタルシフトは急速に進んでおり、WebサイトやSNSは企業と顧客がコミュニケーションする上で重要なプラットフォームとなっている。そこでまず実施したのがWebサイトのリニューアル。“ファン参加型”を特に意識したという。

リニューアル後のWebサイト

現Webサイトのトップページには、「#iwakiのある暮らし」というパートがあり、こちらではユーザーがInstagramに投稿した写真を、ユーザーから承諾を得た上で転載している。企業の視点ではなく、あくまで顧客の間でiwakiの保存容器がどのように使われているか伝わる構成とした。

Instagramでは、自分が作った料理の写真をアップロードするユーザーが多いが、iwaki製品の利用シーンを投稿しているユーザーも相当数いた。そこでAGCテクノグラス側からInstagramを通じて連絡をとり、その都度許可を得ている。

連絡を取る際の応対例

当初の運用としては、「#iwakiのある暮らし」のタグを付けてくれたユーザーにだけ、画像利用の連絡を取る体制としていた。それだけに、果たして本当にタグをつけてくれるは不安があったという。

ただし、それは杞憂に終わった。

実際に始めてみると『ぜひ使ってください』『載せてくれると励みになります』などの有り難いお言葉を沢山いただき、iwakiファンの想いを肌で感じた。問い合わせたほぼ全ての方にご了解をいただき、わざわざ記念の画像を作ってくれた方もおり、本当に有り難い思いだった(田家氏)

Instagramを通じた連絡は、地道な取り組みではあるが、リアル店舗における接客にも通ずるものがある。現在、iwakiのWebマーケティングを手がけているのは田家氏、野村氏を含めて4名と少ないが、そのうち1人はiwakiのリアル店舗で店長を務めた経験がある人物で、その接客スキルをWebでも発揮してほしいとの狙いから招聘した。

野村氏は「Webとリアル店舗は真逆に見えるかもしれないが、お客様対応という点ではまったく同じ」と強調する。田家氏も「Webサイト構築は、お金さえかければすぐスタートできる。ただそのハードの上のソフト部分、つまり接客やコミュニケーションはすぐには真似できず、そこが差別化のポイントである」と補足した。

リアル店舗とWebは違うが、お客様対応の方向性は同じ

データ重視のマーケティング体制を構築

Instagramの取り組みを継続していく中では、ユーザー同士が直接コミュニケーションしたり、利用法について直接質問しあったりするケースが増えてきた。野村氏はiwakiのリアル店舗運営に携わっていた際、客入りが良い店はさらに客が増えるという傾向を間近に見ており、デジタルにおいても、やはり盛り上がっているコミュニティにはユーザーが惹き寄せられるようだと分析する。

現在、iwakiのマーケティングについては、画像を掲載させていただいたファンの人数を具体的な数値目標としている。取り組み開始から3カ月で60人だった人数は、6カ月目には160人に到達。今後は「12カ月後に500人」を目標にしている。

一方で、データを重視したマーケティング体制の構築にも取り組んでいる。購買プロセスモデル「AISCEAS(アイシーズ)」などを参考にしながら、各場面でKPIを設定し、PDCAを回す体制が現在は構築されている。たとえばブランディング関連のKPIとしては「NPS(Net Promoter Score)」を用いている。

売上とブランディングの両面でKPIを定めてPDCAを回す

DX効果は社内外へ波及

ここまで約2年の取り組みを振り返って、野村氏は「モチベーション高く、仕事ができるようになった」と率直に語る。社内の他部門からも「楽しそうに仕事がやれているね」という声が多数届くなど、その効果は大きかったようだ。さらには外部企業から、コラボレーションやダブルブランドでの商品展開の引き合いが急増。顧客のために実施したブランド施策が、社内理解にも波及する。アウターブランディング、インナーブランディングの両方に効果があったという訳だ。

DX実施前後の比較

AGCテクノグラスでは、DXによって業務課題解決のみならず組織変革の筋道を付けた。ただ田家氏らは2年前までDXに対する認識を「デジタルが、私を変えてくれる」。デジタル化が進めば、勝手に変わっていくというような、言わば受け身の姿勢だったと回顧する。

しかし、2年の取り組みを経て実感したのは「私が変わる。デジタルを使って」だということ。まずは自身の意識を変革させることが重要で、デジタル的な施策は後から選び取るという発想だ。

また、企業を構成するのはあくまで1人1人の社員・従業員である。全てを組織任せにせず、個人が意識を変えていくことによって、DXの新しいステージに進めるのだろうとまとめ、講演を締めくくった。

DXの本質とは?
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