ここが変だよウェブマーケティング第4回 リニューアルを成功させるために必要なこと
[コラム]
ここが変だよ
ウェブマーケティング
株式会社デジタルフォレスト 清水昌浩
集客のためによかれと思ってやっている、さまざまなマーケティング手法。なのに結果がついてこない、アドバイスを聞いてもなんとなく納得いかない……とお悩みの方は多いのではないだろうか。もしかしたらそんなあなたと、あなたの周囲のウェブマーケティングは、どこかが「変」なのかもしれない。
デジタルフォレスト 清水昌浩氏が、実話をもとにウェブマーケティングの問題点とその解決策を読み解くシリーズ。
サイトのコンセプトは、関係者へのヒアリングだけで出来上がる?
現行サイトの課題を洗いだして現状を把握したら、さぁいよいよデザイン作り……と進めたいところだが、その前にするべきことがある。リニューアル後にどうありたいか、どうあるべきか、といった姿の検討だ。
多くの場合、関係者へのヒアリングを行い、やりたいことを集約することが多いようだ。しかし、私が疑問に思っているのは、果たしてヒアリングだけで十分か、やりたいことを聞くだけで十分かという点だ。
経験上、関係者にヒアリングしてまわると、それぞれ立場に応じていろいろなことをいう。それは良いのだが、網羅性に欠けていたり、内容やレベル感がばらばらだったりで、まとまらないことも多い。
サイトのあるべき姿、ありたい姿をまとめる際には、一定のフレームワークに従ってサイトのコンセプトをまとめることが有効だ。サイトのコンセプトとは、「ウェブサイトで成し遂げたいこと」というサイト運営側の目的と、「ユーザーがウェブサイトで達成したいこと」というユーザー側の目的をすり合わせ、最終的にユーザーをゴールに導く道筋やサイトで表現する情報、実装する機能などを明らかにすることである。
フレームワークに従ってコンセプトをまとめることにより検討漏れを防ぐことができ、またコンセプトを定義しておくことにより制作時に方向性がぶれることがなくなる。
サイトコンセプト定義の際、少なくとも以下の6つの項目について定義しておくといいだあろう。
サイトコンセプト定義の検討項目(1)
サイトの役割や目的
サイトの会社全体や事業計画の中における位置づけはどのようなものなのだろうか。また、サイトで達成すべき具体的な目的は営業リードの獲得なのかか、会員登録なのか、サイトでの直接的な売上なのか。この点を明確にしておくことで、リニューアルの方向性を関係者で共有でき、先々の検討のブレをなくすことができる。
サイトコンセプト定義の検討項目(2)
具体的な目標値
先に検討したサイトの目的を具体的な数値目標に落としこんだほうがいい。言い換えれば、サイトの事業計画を作成するのだ。この数値が明らかになっていることにより、リニューアルの成否、リニューアル後のアクションとそのスピード感が明確になる。
サイトコンセプト定義の検討項目(3)
ターゲットユーザーやユーザーニーズ
あなたのサイトは誰のためのサイトであろうか。またターゲットユーザーは、どういった背景や理由であなたのサイトを訪れ、どのような課題を解決したいと考えているのか。この点を明確にすることにより、サイト制作における工数や投資の配分を適切に判断できる。
このときよく問題にあがるのが、既存の主力事業のメインターゲットと新規事業のメインターゲットのどちらにより注力するかという点で、関係者へのヒアリングだけではまとまらない場合が多い。問い合わせのボリュームや内容、企業の中期計画や財務データなどを分析することにより、客観的にターゲットユーザーを決定したい。
サイトコンセプト定義の検討項目(4)
ユーザーシナリオ
ターゲットユーザーの具体的な課題をどのように解決するのか。あなたの強みを生かしてどういった点を訴求するのか。ユーザーにどんなアクションをとってもらうのか。シナリオを決めるには、先に決めたユーザー像に加えて、自社の強みや弱みを明確にする必要がある。
そのためには、SWOT分析※1というマーケティング分析のフレームワークをもちいると有効であろう。いろいろなマーケターとこれまで仕事をしてきたが、自社のことは誰よりも知っているがゆえに、強みや弱みが何であるかあいまいになってしまう人は多い。SWOT分析をもちいて強みや弱みを文言化することにより、どういった点を訴求すべきか、また弱みはどのように表現すべきか、どんな市場機会に対してどういった対策が有効そうかといった点を明らかにできる。
サイトコンセプト定義の検討項目(5)
実現するためのコンテンツ
ターゲットユーザーの課題をどのように解決するかのシナリオができたら、それを具現化するためのコンテンツの検討が必要となる。この段階では、潜在顧客向け/新規顧客向けや情報提供系/訴求系のコンテンツの割合、具体的に必要となる機能や要件がある程度明確になっているはずだ。
サイトコンセプト定義の検討項目(6)
会社のDNAや担当者のこだわり
コンセプト定義の最後に、必ず明らかにして関係者で共有しておきたいことがある。それはその会社のDNAやリニューアルプロジェクトのリーダーやメンバーのこだわりといったものである。
サイト運営側の押し付けや単なる思い込みは可能な限り排除するべきだが、オリジナリティを生み出すDNAやこだわりが適度に表現されているサイトは、非常に人間味にあふれ、魅力的である。
ここまでで、サイトコンセプト定義の検討項目を6つ挙げたが、このようなコンセプト定義のあと、ようやくデザインやサイト制作に移ることになる。ここまで説明した流れを経ることで、現行サイトでの課題を解決するための、あるべき姿を具現化するためのサイトリニューアルを行うことができるのだ。
作ったらそれで終わり? いいえ、リニューアル後が大事です
厳しいスケジュールでサイトを制作し、晴れてリニューアルサイトをオープン。苦労が実になる瞬間だ。さて、ひと段落ついたし有給でもとってゆっくりしようか……なんて思ったりしていないだろうか?
確かにちょっと一休みしたい気持ちもわからなくもないが、リニューアルしたらそれで終わりではない。リニューアル完了は、ビジネス目標達成の第一段階の始まりである。ビジネス目標の達成のためにも、リニューアル後に以下の2つの観点を持つ必要がある。
リニューアルで課題は解決されたか?
ビジネス目標達成のために何をすべきか?
それぞれについて詳しく解説しよう。
リニューアル完了後のポイント(1)
リニューアルで課題は解決されたか?
繰り返しになるが、リニューアルは現行サイトの課題を解決するために行うものだ。さて、実際のリニューアルを経て、それらの課題は解決されただろうか?
非常に残念なことだが、綿密に計画・検討してリニューアルを実施したとしても、リニューアル以前は問題なかった部分がリニューアル後に悪くなってしまう場合がある。また、制作時に良かれと思って新たな意見を取り込むうちに、知らず知らずのうちに課題解決からは微妙にずれた方向にいってしまうこともある。このような状況を放置したままでは、リニューアルも当初想定した効果を発揮できない。
このような状況を防ぐために、リニューアル後に再度、効果検証を行うことをお勧めする。効果検証には、リニューアル前に課題であった箇所を中心としたアクセス解析や、ユーザーの想定導線に対するユーザビリティテストが有効だ。リニューアル後に分析や評価を行うことにより、リニューアルで改善し切れなかった箇所が浮き彫りにされる。後日、改めてその箇所を修正し、また効果検証を行うというサイクルを繰り返すことで、きちんと課題を解決できるようになるのだ(図2)。
リニューアル完了後のポイント(2)
ビジネス目標達成のために何をすべきか?
サイトのコンセプトを定義する際の、サイトの目的や具体的な目標数値を設定する重要性についてはすでに説明したとおりだ。さて、この目標数値はリニューアルによって達成されたのだろうか?
多くの場合、リニューアル直後はまだ達成されていないであろう。もし達成されていたとしたら、その目標値は低すぎるのかもしれない。
リニューアル後、この目標数値の達成のために改善を行っていく必要がある。この目標達成を支援するものとしてKPI(Key Performance Indicator:主要業績指標、ケーピーアイ)を活用したウェブマーケティングの管理方法が有効である。KPIとは、その指標が改善されれば、結果として全体の目標を達成できるはずだと考えられるもので、最終的な目標数値よりも比較的変化しやすいものに設定する。
一例を挙げよう。たとえば資料請求してもらうことが目的のサイトで、資料請求数が減ってしまった場合、あなたはどのような行動をとるだろうか? 追加で広告出稿する人もいれば、メルマガの配信頻度を挙げる人もいるだろう。アクセス解析で原因を調べる人もいれば、以前から使い勝手が気になっていたサイトのページを修正する人もいるかもしれない。しかし、どういったアクションが最適であるか、なかなか自信が持てないのではなかろうか? このような場合にKPIを設定しておくとアクションがとりやすい。
KPIは、たとえば図3のように設定する。コンバージョン数が下がってしまった場合に集客数とコンバージョン数のどちらが悪化したのか、また集客数が悪化した場合に自然検索、リスティング広告、バナー広告、アフィリエイトのどれが悪化したのかが一目瞭然となる。
悪化した箇所や改善が必要な部分が明確になれば、具体的にどのようなアクションをとればいいのかがはっきりする。また的確な施策の実行ができると同時に、不要なアクションをとる必要がなくなるのだ。KPIによるウェブマーケティングの効率的な管理・改善を行い、計画的にビジネス目標の達成を狙ってみてほしい。
リニューアルは課題を解決するために行うもの。解決すべき課題とその原因を明らかにするには、サイトの現状分析が必要。
課題が明らかになったら、サイトのコンセプトを定義し、リニューアル後にあるべき姿を明確にする。
リニューアル完了は終わりではなく始まり。さらに効果検証を行って次の課題解決フェーズをスタートする。
コメント
人間の共感は現場(=サイト上)で起こって...
残念ながら「将来のお客さんになる人とのコミュニケーションを如何にして取るか」という大事な視点が欠けている。
知名度があり、バンバンCMを流せる大企業やその商品ならともかく、一般人にとって海のモノとも山のモノとも判らない業者はどうだろうか?
たまたまサイトに入った閲覧者の心に、自社ページの印象をどう残すのか、どう信用や共感を獲得するか、この辺りがサイトリニューアルでの「肝」になるのではないか?
例えば、渋谷の交差点でいきなり声をかけられ、仮にそれが凄く良い商品で自分にピッタリだったとしても、相手が見ず知らずの信用していない人であれば、「そうか、じゃあ買おう」といことにはならない。
その反対にテレビショッピングで、社長が声を張り上げて商品説明をしている姿を深夜に見て、「ああ、この人の喋っていることは信用できるな、自分のニーズにも合うよな、じゃあ買おう」と共感経由の購買行動をとる。
閲覧者が共感しているかどうかは、アクセス解析ログを見ても全く判らない。
アクセス解析データは大事な指標であり、十分注意をすべきだというのは同意する。
ただ、それは80%の完成度のサイトを90%、95%に近づけるために足りないところは何かを探る時に重要であり、渋谷の交差点の交通整理や青信号の点灯時間を調整をしているだけに過ぎない。モノを売っていくための本質的なこと(=如何に閲覧者とのコミュニケーションを取るか)ではないと感じる。
拝見すると、先入観が一切無い無垢な人達が閲覧者であるかのような前提、WEB上で全ての商取引が完結するようなコンサル的な発想で作られる「WEBサイトのあるべき姿」で果たして、閲覧者の共感を得ることはできるのか?
最近、この様な考え方が、自分自身のビジネスや商売には結びつかないということを実感している。
共感は人間を介して現場(=サイト上)で起こっている。
ここをもう一度よく考えてみる必要がある。
共感力について
コメントありがとうございます。筆者の清水です。
サイト訪問者とのコミュニケーションや
如何にして共感されるサイトを作るか、
といったあたりはコメントされているとおりだと思います。
今回の記事では、
サイトリニューアルにおける
コンセプト検討の項目やその手順について
フォーカスを絞って書いております。
また機会のあるときに、
コメントされているような話題の
記事を書いてみようかなと思います。