「最適化のため」のアクセス解析はもはや世界の常識!/ここが変だよWebマーケティング #6
[コラム]
ここが変だよ
ウェブマーケティング
株式会社デジタルフォレスト 清水昌浩
集客のためによかれと思ってやっている、さまざまなマーケティング手法。なのに結果がついてこない、アドバイスを聞いてもなんとなく納得いかない……とお悩みの方は多いのではないだろうか。もしかしたらそんなあなたと、あなたの周囲のウェブマーケティングは、どこかが「変」なのかもしれない。
デジタルフォレスト 清水昌浩氏が、実話をもとにウェブマーケティングの問題点とその解決策を読み解くシリーズ。
Webマーケティングにおけるアクセス解析の重要性は年々高まり、アクセス解析の利用・活用が一般的になってきた。広告の効果測定をする、サイトの現状を把握する、経営陣や関連部門にレポートで報告するなど、アクセス解析の用途も広がってきている。
そんな中、多くの方が気にするのが「うちってちゃんと活用できてる?競合のあの会社よりもうまくやれている?」といったこと。そう、やはり隣の芝生が気になるのだ。今回の記事では、「ここが変だよ」な話はお休みして、WAA(Web Analytics Association、アクセス解析協会)のWeb Analytics Association Outlook 2008: Survey Reportの調査結果を引用して、隣の芝生をさらに越えた海の向こうの世界の芝生の状況について紹介し、世界と日本の状況を比較することにより、アクセス解析活用における課題、取り組むべき方向性について書いていく。
WAAは一言でいえばアクセス解析に関する世界組織であり、私の所属するデジタルフォレストはWAAのアジア最初のコーポレートメンバーである。
アクセス解析を行う目的は何か?
アクセス解析にはお金がかかる。たとえ無償のツールを使おうとも人件費というコストがかかっている。企業である以上、あらゆる投資は何かしらの目的やリターンを得るためであるはずだ。ではアクセス解析という投資の目的やリターンは何であろうか?
日本においては、あくまで私の感覚であるが、「サイトの現状把握」「広告効果測定」という2つの目的のためにアクセス解析を利用する企業が多い。いわゆるWebマーケティングの見える化だ。
それに対して世界では、アクセス解析の利用目的として「サイトとコンバージョンの最適化」をあげる企業が最も多い。サイトの現状把握やキャンペーンの最適化ももちろん多いが、サイト側の最適化を目的とする企業の割合が最も高い。
ここからは私の解釈となるが、日本に比べて世界のほうが投資に対する回収の意識が強いと考えている。分析は、それ単体では儲けを生み出さず、分析結果に基づくアクションや意思決定をして初めて儲けにつながるものだ。この点の意識の違いが「見える化」に留まる日本と、「最適化」を狙う世界の違いなのであろう。
またキャンペーンの最適化よりサイト最適化を目的とする企業が多いのも興味深い。キャンペーンはやればやるほど金がかかるが、そうではなく、サイト最適化を通じてROIを高めようとする世界の動きが見て取れる。
どういったアクセス解析ツールを使っているか?
アクセス解析を行うためには、当然アクセス解析ツールが必要だ。世界の企業はどういったアクセス解析ツールを使っているのであろうか?
サイトとコンバージョンの最適化、キャンペーンの最適化を目的とする世界では、高機能のアクセス解析ツールの利用が5割近くと高い割合を示している。反面、無償のツール利用は2割弱に留まる。最適化のためには、深い分析が可能な高機能ツールが必要なのであろう。
それに対して日本では、無償のツールを利用する企業がまだまだ多い。アクセス解析の目的が違うため、使うツールも違う状況だ。
どのようなことに力を入れるか?
最適化のためにアクセス解析を行い、高機能ツールを使う世界の企業は、今後どのようなことに力を入れていくのであろうか?
分析するだけでは儲けを生み出さないことを理解している世界は、「データに基づくアクション」を最重要事項にあげる。当たり前といえば当たり前だが、データを見て「ふーん」と思っていても何も変わらない。あくまでアクションすることを前提にデータ分析を行おうとする姿が見て取れる。また2007年と比較して重要度が高まっているのが「データ分析に基づくビジネス上の意思決定」だ。意思決定を行うためには経営層や管理者の巻き込みが必須である。担当者が1人で四苦八苦するのではなく、Webマーケティングが企業における重要な役割であると位置付け、妥当な意思決定を行うためにデータを活用しているのであろう。
また「アクセス解析の業務プロセス化」が重要視されているのは、まだ日本ではあまり見られない傾向である。アクセス解析を場当たり的なものとせず、Webの目的に合致したKPIを設定し、アクセス解析を通常業務と位置付け、その上で意思決定を行ったり最適化のためのアクションを起こす、という一連のWebマーケティングの流れが構築されつつあると思われる。
アクセス解析に関する注力ポイントは、中堅・中小企業と大企業とでは少々傾向が違っている。中堅・中小企業ではデータに基づくアクションが最重要であると考えるのに対して、大企業ではKPI設定やベストプラクティスの導入が重要と考える割合が高い。
日本においては、コンサルティング業務やサイトの評価・効果測定を外部の専門会社に任せる流れが生まれつつあるようだ。外部活用の際、ただのデータ分析に留めず、いかにアクションできるか、いかに意思決定できるかという点を重視するのがよいと思われる。
どのようなことに投資していくか?
最後に、世界の企業が今後どういったことに投資していくか紹介しよう。
過去においては、アクセス解析ツールと他アプリケーションとのインテグレーションが上位にあったころもあったが、現在では「トレーニング」に投資するという割合が最も高い。仕組みに投資するのではなく、データに基づいて何をするか、という当たり前のことに原点回帰しているのかもしれない。また「コンサルティング」を活用するという割合も依然として高い。
サイトやキャンペーンを最適化する、データに基づく意思決定をするという目的のために、必要知識やノウハウを外部から獲得し、専門家を活用する必要性を感じていると思われる。
またWAAレポートの中に、米国の調査会社のフォレスターリサーチのレポートが引用されていた。そのレポートによると、コンサルタントを雇うことを通じて、アクセス解析活用をより活発にし、コンサルタントの知識やノウハウを組織内に展開することが有効であるという。
海外ではトレーニングに対して投資を増やしているのに対して、日本のマーケターがノウハウを得る方法は残念ながら個人努力の部分が大きい。Web広告研究会が実施した第3回企業ホームページ運営状況調査(2006年12月調査)(PDF)によると、Webマスターの育成方法として、「社外セミナーへの参加」70.7%、「書籍や雑誌を使った独自学習」58.6%、「OJT」48.3%の3つが一般的となっている。
この理由として、日本企業はまだまだノウハウを得るために投資をするという意識が高くない、ということがあげられる。ただそれ以上に問題なのは、適切なトレーニングやノウハウ提供を行うコンサルティング会社やベンダーが存在していないことである。ベンダーが提供するトレーニングは主に自社ツールの操作トレーニングであるし、分析サービスなどもただの分析レポートに留まるか分析に基づくサイトや広告改善案の提示が中心で、ノウハウ提供の観点がない場合がほとんどである。
ちなみにデジタルフォレストでは、分析に基づく改善や企画を通じて数字アップを狙う&分析ノウハウを提供することを目的とした、つまりコンサルティング&トレーニングを目的としたWebコンシェルジュサービスを提供している。今後このようなサービスが各社から提供されることにより、トレーニングに対する投資の重要性も高まってくるものと思われる。
最後に
今回の記事では、世界と日本におけるアクセス解析に対する取り組みの違いを、アクセス解析利用目的、利用ツール、力を入れること、投資対象の観点で説明した。
この記事を通じて、みなさまの会社におけるアクセス解析活用における課題や取り組むべき方向性を検討する参考になれば幸いである。
<参考>WAAアンケートの回答者プロファイル(従業員数)
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