データサイエンティストが解説! 「顧客ターゲティング」をシンプルに考える方法
より効率的なマーケティングのためには、顧客のターゲティングが欠かせない。成果獲得につながる潜在顧客をあぶり出し、広告などのアクションへどうつなげるのか?
そんな疑問に答えるべく、「Web担当者Forum ミーティング2017 秋」でブレインパッドの佐藤氏が「難しく考えすぎてませんか? データサイエンティストだからこそ語れる、シンプルな顧客ターゲティング」と題して、シンプルなデータ活用の実践方法について講演を行った。
データはやることを教えてくれない
佐藤氏はデータ活用・分析の専門家として、約20年の職歴を誇る。九州大学の大学院時代には、衛星画像の解析による農地植生を研究し、農学博士号を取得。ブレインパッドでは企業のデータ分析を現場で担当。さらに現在は、多摩大学の経営情報学部の准教授も務め、データサイエンスに関する講義も受け持っている。
いわば筋金入りのデータサイエンティストである佐藤氏だが、データ分析を巡っては誤解も多いと指摘する。
1つめの間違いと断じるのが「データが『やるべきこと』を教えてくれる」という誤解だ。
なぜ間違いなのか? やるべきことは、目的があってこそはじめて決まるからだ。
データ分析は、やるべきことと目的を「つなげる」ためのもの。
目的は明確だがどうやっていいかわからないときにデータ分析をする。データを分析すればやるべきことが見えてくるわけではない(佐藤氏)
2つめの間違いが「マーケティングの目的をデータ分析の課題に落とし込めていないままデータを扱おうとしてしまうこと」。
たとえば「売上を上げたい」という目的があっても、その実現には大量の要因が関連してくる。商品力、来客数、広告の出稿状況、天候などなど……そして、それぞれの関係も非常に複雑である。この「売上を上げたい」という漠然とした目的をデータ分析だけで達成しようという発想自体、そもそも無理難題なのだ。
佐藤氏も「(この漠然とした大きな目的設定では)専門家でもここまで複雑な問題を解くのは相当難しい。ましてや専門外の人がそのような問題を解こうとするのは、幼稚園児が大学のレポートを書くようなもの」と表現する。
大きな目的を設定してしまうと、それにともなって必要なデータも増えてくる。何枚ものグラフや表があるものの、多すぎてどう分析すれば良いかわからなくなってくる。分析結果の解釈も複雑になってしまい、「あぁ、やっぱり専門家じゃないとダメだ」というオチがつく。
この2つを総合し、データ分析にあたっては、目的を「シンプルな課題」に変換することがなによりも重要だと佐藤氏は言う。
「目的」を「シンプルな課題」に変換するために
では、シンプルな課題を設定するには具体的にどうすればいいのか? 佐藤氏は次の4つを意識することが重要だと解説する。
このうち「4. 最適化」は特に高度な内容なので、セッションでは触れられなかった。ただし1~3についての知識があれば、課題設定には十分だという。
具体的な例で説明しよう。「カテゴリB商品の売上アップ」という目的設定をしたとする。
この目的を「1. 予測」の切り口から検討すると、「各顧客のカテゴリB商品の購入確率を予測できるか?」が具体的な課題として浮かび上がってくる。これならば、単なる「売上アップ」よりもデータ分析の目的がはるかにハッキリし、集めるべきデータも決まってくる。そして、予測ができるのならば、そのデータに応じて売上アップの施策を進めれば目的を達成できる。
同様に「2. 分類」の切り口で検討すると、「カテゴリB商品購入顧客をグループ分けすることで、購入顧客の特徴が見えるか」という課題が出てくる。特徴が見えるグループ分けがみつかれば、より売上を伸ばせる。グループの顧客を増やすアクションに注力すればいい。
そして「3. マッチング」の切り口ならば、「カテゴリB商品それぞれに相性の良い顧客を見つけることができるか?」といった具合になる。相性の良い商品がみつかれば、カテゴリBを顧客に勧めるときに、より具体的な商品レベルでの推奨ができる。
この3つからわかるように、目的があって、そこから具体的な課題への落とし込みがあってはじめて、どのようにデータ分析すればいいのか方針も立てられ、目的を達成するための施策にも落とし込めるのだ。
データを「可視化」することが重要
佐藤氏はさらに、データを分析するときには、まず可視化することが大切だと説く。
たとえば、先ほどの例から「カテゴリB商品購入顧客をグループ分けすることで、購入顧客の特徴が見えるか」をさらに踏み込んで具体的に分析するとなると、どうなるだろう。プロであればここで「ユークリッド距離を用いたクラスタリング」などを行い、結果を割り出す。
しかし、多くのマーケターはそこまでの知識はないだろう。だとしても、データを適切に「可視化」できれば一般のマーケターでも分析は十分できる。次の表は、ユーザーIDごとにカテゴリA商品・カテゴリB商品のページビュー数をまとめたものだ。
これを「カテゴリAのPV数」と「カテゴリBのPV数」の2軸のチャートに落とし込むと次のようになる。この図の肝は、商品カテゴリのPV数をX軸/Y軸にとって、顧客ごとにプロットした点にある。
この図さえ完成すれば、複雑な計算式を持ち出すことなく、誰でも感覚的にグループ分類(この図であれば3種類)が行える。分類ができれば、ターゲティング型の広告にも当然つなげられる。
ここが人間のすごいところで、分析課題の設定と可視化がうまくいけば、感覚的に誰でもデータ分析ができる。しかも、その感覚での分析と、プロの分析はそれほど差はない(佐藤氏)
まず、「やりたいこと発想」より「できそうなこと発想」で分析する
とはいえ「目的から課題設定への落とし込み」や「データの可視化は」は、データ分析入門者にとっては難題だ。特に、最初のうちは「やりたいこと発想」で壮大な目的を立てがちで、うまくいかない場合も多い。
そこで「まず『できそうなこと発想』からはじめて見るべきだ」と佐藤氏はアドバイスする。現に手元にある材料でなにができるか。それをひとまず考えて実行することは、課題設定の訓練にもなる。
より具体的には「顧客をグループ分けしてコンバージョンに関する特徴は見えるか?」という課題に取り組んでみるのが良いという。Googleアナリティクスを使っていれば、メニューの「行動(行動解析)」から呼び出せる機能なので、あとはExcel用にエクスポートすれば準備完了。次のようなことなどがわかる。
たとえば、Googleアナリティクスにあるデータだけしか材料が無くても、顧客ターゲティングに関する分析はできる。コンバージョンに至ったユーザーと至らなかったユーザーそれぞれの閲覧ページがデータとしてあれば、簡単に次のような可視化ができる。そして、このような可視化によって、施策を企画できるだけでなく、次に知りたいこと/知るべきことも発想できるようになるだろう。
- コンバージョンに至ったユーザーがどのページを閲覧していたか
- 当該ページを閲覧していたユーザーの何%がコンバージョンに至ったか
最後に
こういった一連の流れをより使いやすくするためのツールとして、プレインパッドではレコメンドエンジン搭載のプライベートDMP「Rtoaster」を提供している。いわゆる「プライベートDMP」として機能しつつ、レコメンドエンジンをプラスした点が特徴だ。顧客のサイト内行動データを収集・分析・可視化できるだけでなく、webサイトのパーソナライズや特定のターゲット層への広告・メール配信などへのアクションまでをシームレスに実行できる。
Rtoasterは幅広い業種で採用されており、ECサイト以外にも金融や通信、メディアでも利用されている。佐藤氏は、Rtoasterについて、今後ユーザー分析による課題解決に関する機能追加とユーザビリティの大幅な向上を含むメジャーバージョンアップを予定しているといい、講演を締めくくった。
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