【レポート】Web担当者Forumミーティング 2017 Autumn

マーケティングに人員を割けない中小企業こそ、MAが役に立つ

成功企業の真似をして、「Small start, quick win(小さく始めて素早く成功)」
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Webサイトの来訪状況、メールマガジンのクリック率などをまとめて管理し、見込み客をあぶり出すのがMA(マーケティングオートメーション)の役目。確かに便利そうだけれど、中小企業にはハードルが高いのでは……。

そういった悩みに対して、「いや難しく考えなくていい。まずは真似するところからはじめてみては」──SATORIの植山氏が「Web担当者Forum ミーティング2017 秋」で「“真似するだけで成果が出た”リード獲得14倍を実現したMA活用コツ」と題し、ギブリーの吉田氏とともに、MA活用の貴重な実践例を解説した。

植山 浩介 氏吉田 将輝 氏
SATORI株式会社 代表取締役 植山 浩介 氏(左)と
株式会社ギブリー 執行役員 経営企画部長 兼 マーケティング部長 吉田 将輝 氏(右)

中小企業でもMAを

「SATORI」は現在、約200社以上の企業に導入されているMAツール。利用企業の多くは中小企業やリソースの限られている大企業の小規模チームで、マーケティングの専任担当者が社内に1人いるか、場合によっては全くいないというケースもある。「とにもかくにも、少ないリソースでお金も時間もかけずに成果を上げたいお客様に選択いただいている」と植山氏は説明する。

実際、株式会社としてのSATORIは設立してまだ2年弱の若い企業。従業員6名からスタートし、当初はマーケティングに力を割けなかった。その苦い経験を、製品開発に反映させているという。

その上で植山氏は「中小企業にこそ、MAツールを使ってほしい」と主張する。一般にMAというと、大規模なWebサイト・膨大な顧客数を抱える企業向けのツールというイメージが強い。

しかしSATORIの顧客層からも明らかなように、マーケティングが後回しになりがちな中小企業であっても、MAの導入で効果を上げている企業は多いという。

マーケティングに人員を割けない中小企業こそ、MAが役立つ
マーケティングに人員を割けない中小企業こそ、MAが役立つ

植山氏は「講演の席などで『どうすればMAで成功しますか?』という質問をよく受ける。これは私の主観だが、やはり『成功している企業の真似をする』のが1番。ギブリーはまさにゼロからMAの導入に成功した会社。ぜひ参考にしてほしい」と、吉田氏に話を引き継いだ。

「SATORI」を導入した理由

吉田氏はギブリーでマーケティングを統括している。同社は創業9年目で、従業員数は約50名。主力製品は、ITエンジニア向けのプログラミングスキルチェックツール「codecheck(コードチェック)」で、このマーケティングに「SATORI」を活用している。

※2018-04-12編注 本記事で事例として取り上げているギブリー社のサービス「codecheck」は、2018年3月27日に全面リニューアルし、サービス名も「track(トラック)」と変更している。

「codecheck」は、エンジニアの新規採用にあたって、その能力を評価したい人事担当者などからの引き合いを想定した。しかし、次の2つがマーケティング上の課題だったとギブリーの吉田氏は振り返る。

  • 類似の製品がほぼ存在せず、「エンジニア採用フローの効率化製品」という市場を生み出すところからはじめなければならない

  • 「効率化」が主目的の製品であるため、「大手企業の人事担当者」でなければ「codecheck」の導入メリットを感じにくい

「codecheck」の概要。狙うは「大手企業の人事担当者」からの受注
「codecheck」の概要。狙うは「大手企業の人事担当者」からの受注

「codecheck」は2016年12月にスタートアップの登竜門といわれる「Infinity Ventures Summit」というイベントで発表したことを契機に、2017年1月から販売を本格化した。初月はテレアポによるアウトバウンド、つまり電話営業が中心だったが、前述の「大手企業の人事担当者」に絞ってアプローチするのは並大抵のことではない。そこで2月からはWeb広告を使ったインバウンド営業への転換を模索したのだが、コンバージョンは向上せず、コンバージョンがとれたとしても獲得単価(CPA)が高騰しがちだった。

ここからMAツールの導入が実際にスタートする。2月後半から3月までの約1か月半で、土台となるプロダクトサイトのコンテンツを整備し、MAの検討から導入までを完了させるというスピード感だった。

この頃はとにかく市場をとりにいきたいという一心。そこで、時間的に本格稼働までの準備期間が短くスピーディに進められる「SATORI」を選んだ(吉田氏)

「SATORI」導入までのスケジュール感
「SATORI」導入までのスケジュール感

MA運用、最初のポイント

MA運用開始後のポイントとして吉田氏が挙げたのが、マーケティング部署とセールス部署の役割分担だ。試行錯誤を経て、現在は次のような体制をとっている。

MAツールを単に導入するだけでなく、社内体制も見直した
MAツールを単に導入するだけでなく、社内体制も見直した

ギブリーでは、リードナーチャリング業務はインサイドセールスの領域だが、マーケティング担当者にも一部関与させている点が特徴。具体的には、マーケティング担当者の人事評価に商談数を加味している。マーケティング担当者のメイン目標は、リードジェネレーション(見込み客の獲得)だが、そこから実際に商談へ移行できたかも査定される格好だ。

またMAというと、ユーザーの関心に合わせた「ステップメール」の配信や、サイト上からの問い合わせを増やすための「キラーコンテンツ」が重要となってくるが、すべて最初から用意するのではなく、段階的に拡充を進めた。これら施策を積み重ねたことにより、「SATORI」導入直後の4月に「数件」だったリード獲得数は翌5月に4倍、そして6月には14倍になった。

導入の成果
導入の成果

実践MAテクニックを公開

吉田氏自身はギブリー入社以前、おもにリサーチャーとして活躍していたため、Webマーケティングに関する知識はあったものの経験自体はほとんどなかったと明かす。しかし、「SATORI」を約8か月に渡って利用したことで、実践的なノウハウを手に入れていった。吉田氏は「あくまで主観の個人見解であり、一般論とは異なるかもしれないが」と断りつつも、いくつかの例を紹介した。

まず、MAにおけるスコアリング設計は、必ずしも重要ではない。ギブリーではサイト来訪客の見込み度合いを松・竹・梅の3つにシンプル化している。「製品情報ページを見たら10点」といった細かな設計は確かにできるが、中小企業はそもそもリソース不足で手が回らないことがある。ならば、シンプル化にかじを切ったらいいのではという発想だ。

見込み度合いは3種類に絞り込んだ
見込み度合いは3種類に絞り込んだ

営業担当者向けの通知メールも非常に重要という。「当初はマーケティングチームがWebで獲得した案件に、セールスチームが反応してくれないことがあった。『なんでやってくれないんだ!』とそこで感情的になっていたら、MAでここまでの成果は挙げられなかったろう」と吉田氏は振り返る。

不調の原因の1つは、セールス部隊への過負荷。ギブリーはその時点ではインサイドセールス(内勤型営業)の人員がおらず、Webから獲得した案件も含めてすべてフィールドセールスが担当していたため、業務負荷が大きくなっていたという。

少しでも負荷を軽減するため、セールスチームへの通知メールを工夫。電話の可否、担当者名、電話番号などの重要情報をすべて件名に入れるようにした。これならば、外出先であってもスマートフォンでメール件名さえ見れば、要旨がわかる。また、相手先の会社概要を簡単に調べられるよう、検索用URLが本文に入っている。これは、会社名をコピー&ペーストする手間を減らすのが狙い。

通知メールにも細かな工夫を施した
通知メールにも細かな工夫を施した

顧客に配信するメールマガジンについては、タイトルや冒頭文を工夫して「営業担当者が直接送っているメール」のような構成にすると、コンバージョンが高かった。ただし、フィールドセールスが今まさに対応している客に対してこの体裁のメールが届くと逆効果。パーミッションのチェックは厳密におこない、さらに乱発しないことも重要だ。ギブリーでも月1回程度にとどめている。

このほか、電話して不在だった客の情報をMAで管理しておき、コール後に「先ほどお電話した件ですが……」という書き出しのメールを送るのも、非常に効果的という。

メールマガジンの文例
メールマガジンの文例

素早く、多くの施策を実施する手段としての「真似」

リードナーチャリングの分野ついては、「長期視点で見込み客をホット化させるよりも、ホット化した客を“見逃さない”ようにすることが重要ではないか」と吉田氏は語る。たとえば、毎週1回のメールマガジンを必ず開封しているユーザーは、ゆっくりとだが着実にMAのスコアが上がっていく。

このスコアが一定の値になったら、そのユーザーを見込み客とみなすのがMAの基本的な考えだ。しかし、そのスコアが定常的に増えているユーザーが、果たして今まさに製品を買いたい「ホット」なユーザーなのだろうか。送られてきたメールマガジン全部に目を通すような、ただのマメなユーザーという可能性もある。

吉田氏は、スコアの合計値は必ずしも重要ではなく、むしろ短期間でスコアが急上昇する“0から1へ変化した”ユーザーこそが、ホットな客ではないかと指摘。上司からの突然の命令など、なんらかの外的要因で急にリサーチをはじめたユーザーの場合は、こういった傾向が出るという。ギブリーではスコアの急上昇を見逃さないため、メールマガジン配信後には目視によるデータ確認もおこなっている。

ナーチャリングの考え方
ナーチャリングの考え方
実際の例。2つのうち、上の方が総合スコアは低いが、極端に急上昇している。これを見逃さない
実際の例。2つのうち、上の方が総合スコアの絶対値は低いが、極端に急上昇している。これを見逃さない

吉田氏はこれらの施策を、SATORI公式ブログやユーザー会などで仕入れ、とにかく徹底的に真似をした。だからこそ、素早く、多くの施策にトライできたのだ。

SATORIはさまざまな方法でカスタマーサクセスのためのネタを提供してくれている。特にユーザー会の存在は大きかった。「SATORI」導入直後は考えてもいなかったが、実際に8か月運用してみると、ユーザーコミュニティの重要性を実感した(吉田氏)

植山氏は講演のまとめとして、「まずは成功企業の真似をして、皆さんにぜひ『Small start, quick win(小さく始めて素早く成功)』してほしい」とコメント。ギブリーが真似で成果をつかめたように、その他の中小企業に対しても「SATORI」の有用性をアピールして締めくくった。

吉田氏によるまとめ
吉田氏によるまとめ
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