稲富滋のWebマスター探訪記 稲富滋のWebマスター探訪記

BtoB企業のブランドをWebサイトで正しく伝えるにはどんな戦略が必要か/オムロンの挑戦を内田孝裕さんに聞いた

ブランドイメージをWebサイトで正しく理解してもらうためにどんな戦略とどんなコンテンツが必要か。まさにその難題に挑戦しているオムロンの内田孝裕さんに話を聞いた。

BtoB企業の顔とも言えるWebサイト。そのWebサイトでブランドイメージを見込み客や顧客に対して正しく伝えて理解してもらうためには、さまざまなタッチポイントを戦略的に活用しなければいけません。

オムロンでは、中長期経営計画を受けて、「オムロン」というブランドイメージをステークホルダーに正しく理解してもらう取り組みを行っている最中です。どのような戦略を持って、どのようなコンテンツを用意しているのか、その挑戦をグローバルIRコーポレートコミュニケーション本部デジタルコミュニケーション部の内田孝裕さんに聞いてきました。

「オムロン」のブランドイメージを正しく伝えられているのか?

左:内田孝裕さん 右:稲富滋

オムロン株式会社(以下、オムロン)という企業名を聞いて、皆さんはどんなブランドイメージを持ちますか? 多くの人が「健康・ヘルスケア」といったワードを想起するのではないでしょうか。しかし、オムロンは、健康以外にも社会課題を解決するコア技術がたくさんあり、日々その研究を進めています。

たとえば、自動改札機を最初に開発したのが、オムロンだということはご存じでしょうか。数十年前、駅員による通行確認だったため、改札前は常に長蛇列ができていました。改札業務を遂行できる機械の開発が急がれたものの、磁器定期、切符両方の情報を正確に読み取り、さらに降車駅到着後は切符に穴を開け使えなくするといった処理がその当時難しかったのです。その難題を技術力で解決したのがオムロンでした。

オムロンは健康器機だけのメーカーではありません。技術をさまざまな分野に展開することで、社会的課題の解決や人々の生活の向上に貢献を目指す企業なのです。

しかし、広く一般にはそう認知されていません。そのブランドイメージをWebサイトなどのさまざまなタッチポイントでステークホルダーに正しく理解してもらい、価値創造の機会を作り出すことが私たちのミッションです(内田さん)。

経営戦略に密着したコーポレートサイトとKPIへの転換

内田さんが所属するデジタルコミュニケーション部とは、今年の4月にオムロングループのブランディング機能を統括する「グローバルIR・コーポレートコミュニケーション本部(GIC)」のなかに新設された部署です。今年5月に発表された「新中期経営計画(VG2.0)」のなかで、ブランディングを加速させるため、デジタルメディアの戦略的な活用が強化されています。

具体的には「ステークホルダーとの対話を通じて、社会を担うコア技術(センシング&コントロール+Think)と幅広い事業を理解してもらい、企業価値の向上を図る」という戦略です。

顧客価値の向上→エクスターナルコミュニケーション
社員価値の向上→インターナルコミュニケーション
株主価値の向上→フィナンシャルコミュニケーション
中長期経営計画のなかのコミュニケーション戦略の構造

この戦略では、「顧客価値の向上」に関して、「コーポレートブランディングを高め、パートナー企業の発掘と人財の獲得」するという具体的な目標が定められました。このことについて、内田さんは次のように言います。

オムロンの持つ技術・事業を社外の組織・企業に知ってもらい、私たちとともに新しい価値を創造し、社会貢献できるパートナー企業を発掘すること。さらに、オムロンの成長を支える人財の確保すること。

特に新しい技術を持つエンジニアの方たちは、世界中にその活躍のフィールドが拡がっています。いかに「オムロンで働きたい」と思ってもらえるか、試行錯誤が続いています。

内田孝裕さん

そうした目標をベースに、KPIも見直されたといいます。

今までのコーポレートサイトの主要なKPIは、「情報の発信数」や「ユニークユーザー数」といった一般的なものでしたが、経営戦略に直結した「キャリア応募の数」とオウンドメディアなどを経由した「企業からのオープンイノベーションの問い合わせ数」が加わりました。

ちなみに現在、企業からの問い合わせ数は「捌けないほど」数多く寄せられているとのこと。企業同士がさまざまな分野でつながっていくきっかけを作り出しています。

私の経験上、経営問題に近いKPIをコーポレートサイトが公称することを、あまり見たことはありません。せいぜいあっても「内々の参考値」程度でした。ここまで踏み込んだKPIを宣言したのは、次のような理由からだそうです。

私たちの部署が何をやっているのか他部署に伝わりにくいというのは、そもそも自分たちの部署の、会社における役割をKPIに落とし込めていないからです。

そのためにも明確にKPIを設定する必要がありました(内田さん)。

想定ユーザーを定める

まず、オムロンにおけるステークホルダーを、社内のヒアリングなどを通じて、次のように定めました。

たとえば、BtoB商材の場合、情報収集者と意思決定者は異なります。それら両者のニーズを満たすだけのコンテンツが用意されているか。それ以外にも個人投資家や就職希望者といった想定されるユーザーにとって、必要な情報が用意されているかといった観点で見直しを図りました。

その結果、情報量が不足していたり、一方的な情報発信だったりするケースが多く、オムロンの持つさまざまなコンテンツの相互リンクもなく、より深く知りたいといったニーズには、応えられていないことが判明しました。

この見直しから、自社の持つ情報を次の4つにカテゴリ分類し、それらの役割や目的を明確にして、想定ユーザーにとってどうコンテンツを企画して、表現するべきかを再検討しました。

具体的には、次のような情報設計に落とし込んだそうです。

  • たとえば、上図Cのブランドでは、ブランドアイデンティティや企業理念、ビジョンを訴求する領域と定義して、「ハカルコトカラダ」サイトといったメディアがその役割を果たします。

  • 上図Dのニュースでは、オムロンの今がわかる情報や社会へのメッセージなどを扱う領域と定義して、「EDGE & LINK」サイトがその役割を果たします。

  • 上図CとDの中間的な役割を果たすのが、「イノベーション」サイトです。

  • 上図Bの企業情報では、ファクトやソース情報を正確にかつ、迅速に開示・発信する領域として定義して、コーポレートサイトがその役割を果たします。

上図Aの製品・サービスでは、各事業分野における実績・課題解決力を訴求し、コーポレートサイトや各オウンドメディアへの送客に貢献する領域と定義しています。現在、この領域は、事業部とともに実施に向けて協議中とのことでした。

デジタルメディアコミュニケーションの設計

さらに、さまざまあるデジタルメディアでどうコミュニケーションをとるのかを、次のように設定したといいます。

展示会・その他PR活動・ソーシャルメディアで「発見」され、より深く「理解」してもらうために、コーポレートサイトやオウンドメディアが存在します。それらの場で接触した人々に足して、マーケティングオートメーションなどで、個別の「共感」を得て、キャリア採用やパートナー企業の問い合わせへつなげます。

「理解」のところは、想定ユーザーだけでなく社員も含まれるといいます。外部のステークホルダーや顧客と接する機会が一番多い社員が、自社サイトから得た情報で、自社の戦略を理解します。そのうえで想定ユーザーに接することがオムロンブランド浸透につながり、企業のブランド価値創造を高めることに貢献できるのです。

このような情報・コミュニケーション設計を日本で実施した後、グローバルでこれらを展開していく予定だそうです。

戦略に基づいた3つのオウンドメディア

このように明確に定められた目的に対して、コンテンツごとの回遊性を高め、それぞれのサイトをメディア化して情報を発信するために立ち上げられたオウンドメディアは3つ。

EDGE & LINK 切り拓く、未来を創る。」
オムロンの幅広い事業を、社会のトレンドでもあるAI、loT、ロボティクスなどの動向を交えながら伝えるサイト。技術者のインタビューコンテンツもあります。
イノベーション
人の知見を機械に組み込んだ、「Sensing & Control + Think」技術。このオムロンのコア技術と、これからの人と機械の関係の象徴である卓球ロボット「フォルフェウス」を紹介するサイト。

実際に「EDGE & LINK」と「イノベーション」のサイトではオムロンのコア技術やそれを応用したソリューション、技術者のインタビューなどのコンテンツが並びます。単体の技術ばかりでなく「蓄積された現場データや知見」を惜しみなく披歴し、オムロンの価値を伝えようとする強い意志が感じられる力の入ったサイトです。

ハカルコトカラダ オムロン社員が実践する、カラダ見える化習慣。」
健康が経営の基盤である考えのもと、オムロン社員がそれを実践している様子を紹介するサイト

「ハカルコトカラダ」では、すべての活動の基となる「健康」を企業の経営にどう活用するかといった内容のインタビューや健康を維持するのに役立つ製品情報などが並びます。

稲富レクチャー

EDGE & LINKとイノベーションサイトから彼らのKPI「問い合わせやキャリアの応募数」への動線がうまいなぁと感じます。採用についてというページを見るとオムロンの本気度というか、真剣に技術者やパートナーをみつけようとする強い意志が感じられました。

デジタルメディア戦略を遂行するチーム

内田さんがコーポレートサイト担当になったのは、今から3年ほど前のこと。営業からの異動でした。「社内のだれもやったことのないことをやりたい」という理由から社内公募に手を挙げたそうです。当時はサイト専任の担当というのは1人もいなかったそうです。

当時の職務分担表を拝見すると、まるで分身の術を駆使したかのように、あちらこちらに内田氏の名前が出てきます。「Web制作・運営会社(オムロン マーケティング株式会社)とのやりとりや、サイトやコンテンツの企画、SNSの立ち上げ、なんでもやりました」と内田さん。

今ではマネジャーも含めて6名体制に強化されました。

ちなみに部長の劉さんは3月までオムロン中国本社の経営戦略室長を務められていました。

デジタルコミュニケーション部のメンバー

自由度の高いガバナンス「オムロン・グループ・ルール」

オムロン株式会社は、すでに世界のビジネス拠点が116カ国、売り上げの約6割が海外から、従業員の7割は外国籍というグローバルな企業です。

「ただ、海外へのオムロンの浸透はこれから。特に技術人財を求めて北米西海岸に広める必要がある」とのこと。

各事業部の努力で進められてきた知名度向上と市場開発をデジタルコミュニケーションとの相乗効果を発揮して加速するのがこれからの狙いです。

現在、各国のサイトに対してはオムロン・グループ・ルールに基づいてガバナンスを行っています。ただし、「各国・事業部の活動を縛るのではなく、各国・事業部の状況や環境にあわせて、意思決定のスピードを速める」ためにデザインガイドも作っていないそうです。「逆に海外からデザインガイドを求める声も来ていて、今後どうするかは共通のデザインガイドを“持たないリスク”を精査して結論を出す」とのことでした。

稲富レクチャー

他のグローバル企業本社では、とかくガバナンス強化目的にデザインの標準化やガイドラインを細かく決めたがるものです。しかし、「各国の活動を制約したくない。リスクに応じて考える」というオムロンの姿勢は、各国の個別顧客企業のシステムと一体化する製品群を提供するBtoB企業ならではです。

また将来ガイドを提供する場合でも「求められて決めたデザインガイド」ということでガバナンスを徹底しやすくなるかもしれません。賢明ですね。

価値創造の実践の場としての今後の課題

デジタルコミュニケーション部門のビジョンには、「デジタルコミュニケーションの”フロントランナー”」であるようにと記述されています。フロントランナーとなって、成果と実績を積み上げることで、社内全体を巻き込んだ取り組みへとつながっていくはずです。

内田さんが「まだまた表に出ていない宝のような事業が隠れているのがオムロンです」。と言っていましたが、事業部の理解と協力関係があって初めてオウンドメディアの仕組みとして完成します。

また、Webサイトなどに掲載する記事の鮮度と頻度維持にはたいへんな努力が必要です。それにも事業部との連携が欠かせないでしょう。そのためにも、フロントランナーとして、オムロンというブランドを正しく伝えられるようにチーム一丸となって頑張ってください。

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