キヤノングローバルサイトのドメイン名に「global.canon」を採用! 新gTLD「.canon」への移行計画とは?
キヤノングローバルサイトのドメイン名を新gTLD(.canon)へ移行しました。新しいことにチャレンジするのがキヤノンです。
そう語るのは、キヤノン株式会社の古山佳子さん。いちはやく企業名による新gTLD(ジェネリックトップレベルドメイン)の「.canon」を取得。2016年5月にグローバルサイトのドメイン名を「canon.com」から「global.canon」へ移行し運用を開始した。聞くだけでも大変さがうかがい知れる「新gTLD(.canon)への移行計画」を詳しく伺いました。
※記事初出の時点で、タイトルに誤りがありました。訂正してお詫び申し上げます。
新gTLD(.canon)への移行計画
キヤノンが「.canon」の取得に動いたのは2010年。ICANNから承認されたのが2015年。それから1年あまりで、グローバルサイトのドメイン名「canon.com」は、「global.canon」へ移行しました。
他の企業でも企業名の新gTLDを既にICANNから承認を受けたところは多数あります。しかし、取得したドメイン名に移行、あるいは移行表明をしたところは聞いたことがありません。
他社が二の足を踏む中、なぜキヤノンは、新gTLD移行に踏み切ったのでしょうか。
キヤノンブランドを守ると言う意味合いはもちろん大きいのですが、グループ企業はじめECサイトも含めてお客様に提供するサイト全てを「.canon」に統一することで、管理もし易く、企業グループとしての一体感も生まれ、結果的にブランド力向上につながると考えています。
キヤノンは企業DNAで「進取の気性」と謳っているように、新しいことに果敢にチャレンジする会社です。その社風にも背中を押されました(古山さん)。
新gTLDの受付開始とほぼ同時に「.canon」取得に向けた活動を開始しましたが、「取得活動を開始する」こと自体を社外へ2010年3月にニュースとしてリリースをしています。
私の感覚ですと「.canon」ドメインに関するリリースを出すのは「取得した後」が一般的です。リリースは社外に向けたものですが、同時に社内や海外のキヤノン関連企業に、「準備を促す意味合い」や「なんとしてもやりとげるぞという強い意志の宣言」もあったのかも知れません。
前述しましたが、企業名の新gTLDを取得している企業はありますが、なぜ各社がドメイン名変更にまで至っていないのか、何社かに尋ねてみたところ次のような回答がありました。
- 運用しているドメインを変えるなんて、誰もそんなたいへんなことはやろうと言わないしルール決めも難航しそう
- 企業のドメイン名を取得したのはとりあえずブランドの防衛を主目的にしているから
- 今や検索が当たり前で、直接URLを打つことは殆どないし、あえて移行するメリットが感じられない
このように他社が二の足を踏む中、新gTLD移行の英断は賞賛に値しますね。
グローバルサイトのグランドデザイン
現在世界220の国や地域でビジネスを展開し、海外からの売上が8割近いキヤノンにとってグローバルサイトは、次のような重要な役割を果たしています。
- キヤノンの最新アナウンスが確認できる場
- キヤノンブランドを形成するさまざまな要素が格納されている場
- ALLキヤノンの総合力を見せる場
このサイトのグランドデザインを決定するにあたって、本社デザイン部門やブランド管理部門の協力を得て、事前にキヤノンロゴの使い方からサイト上の位置、フォントサイズ、ベースカラーパレットからテンプレート、ブロックとブロックの間隔、見出し、レイアウトまで決めた上でこれを「キヤノンクリエイティブデザインポリシー」として徹底しました。
キヤノンクリエイティブデザインポリシーの基本は、次の3つと明快です。
- バランスが良いこと
- 不快感を抱かせないこと
- わかり易いこと
私が過去に勤めていたIBMでも同様のポリシーが作られ各国に徹底されていました。各国のデザイナーやクリエイティブの担当者が「私達の仕事が無くなる」と嘆いていたことを思い出します(笑)。
グローバルナビゲーションの数は「マジカルナンバー」で説得
一般的に、サイトリニューアルが決まり計画が進んでいくと、さまざまな部署からいろいろな要望が出ることはよくあります。キヤノンでも「グローバルナビゲーションの一角に自分たちのコンテンツの入口を置きたい」という声がコンテンツオーナーからあがったそうです。
しかし、そこは明確なルールとして次の2つを徹底しました。
- グローバルナビゲーションに表示される項目数は「ひと目で把握できる数(マジカルナンバー4±1)」を超えないこと
- サイトの左端から見てもらいたいコンテンツを置くこと
「グローバルサイトでは、マジカルナンバー(4±1)のコンセプトの大切さをコンテンツオーナーに丁寧に説明しご協力いただきました。また、リニューアルした年が長期経営計画の初年度だったことから、それを説明するコンテンツ群の『ビジョン』をグローバルナビゲーションの左端に置くこともすんなり決まった」そうです。
各コンテンツオーナーの理解を得るには「デザインの力」が有効
一口に、「global.canon」へ移行といっても、コンテンツ移行には各コンテンツオーナーの理解と行動が欠かせません。
移行に際してのコンテンツの企画制作は、それぞれのオーナー部門で予算化して制作会社への発注も行います。したがって、本社は各オーナー部門へ「移行を依頼し、推進する」立場になります。つまり、各オーナー部門に動いてもらわないことには、プロジェクトが前に進まないのです。
そこで、移行を円滑に行ってもらうために次のような準備をしたと言います。
各オーナー部門の予算化が次年度に繰り越されることも考慮して移行猶予期間を長めに設定しました。なかなか進まない部門には、足しげく通って説明をしました。
また、今回のドメインの移行はインフラ環境の刷新も視野に入れて取り組みました。移行先は最新のサーバとネットワークが完備されていて、セキュリティ面も申し分ありません。移行せずにとどまることは、旧来の環境で運用し続けることを意味します。移行するほうがメリットがありますよ(古山さん)。
と、繰り返しの説明をしたそうです。しかし、このような説明よりも、もっとオーナー部門が積極的に参加してくれる方法があると言います。
「リニューアルするグローバルサイトが魅力的だ」と感じてもらえれば、いっきにやる気になってもらえることが多いんです。「デザインの力」を借りていろんな部署を巻き込む。「決められたテンプレートを使っても結構やりたいことができるんだ」と実感してもらうことが近道だったりします。ですから制作会社には、コンテンツオーナーの気持ちが動くような魅力的なデザインを提案してもらいました(古山さん)。
「グループ企業サイト」のガバナンス
関係する部署やグループ企業が多いとなかなか難しいガバナンス。グローバルサイト以外の各国のプロモーションサイトは最低限の不可侵ルールを守っていれば「各地域統括会社の意向を尊重する」のだそうです。
古山さんに、本社とグループ会社サイトの関係を伺うと次のように明快でした。
基本的には地域最適の「ゆるやかな連携」です。たとえるなら、絶対に離さない、ゆるく張られた赤い糸で結ばれた関係です。「絶対に離さない」ところの1つがドメインであり、キヤノンロゴの扱い方です(古山さん)。
ネットの環境は国ごとに異なります。たとえば、中国ではFacebookは使えませんし、国によってはネットワークインフラの整備が進まず、動画などのスムースな配信ができないところもあります。
国・地域によって製品の仕様、型番、発売日が異なることもありますし、販売に力を入れる製品が異なることもあるのです。
その国・地域のプロモーションについては地域のお客様に見られなければ意味がありません。それを一番良くわかっているのはその国・地域の人。そこはお任せしています。グローバル企業の中には世界のどの国のサイトをみてもどれもみな同じような企業サイトもありますが、キヤノンではその選択をしていません(古山さん)。
この「赤い糸」でしっかりと結ばれているが「ゆるやかさ」を残していることが大切なのかもしれません。自由にやってもらう、ただし「押さえるところは押さえますよ」という意味ですね。
グローバルサイトお勧めコンテンツ3選
ここでグローバルサイトの中から古山さん肝いりのコンテンツを3つ紹介します。
キヤノンカメラミュージアム
キヤノンの創業時から現在まで世界中で販売されたカメラ、レンズを全て掲載しています。1996年に開設されました。製品シリーズ別、名称別、年代別(新しい順、古い順)と楽しくあれこれ検索することができます。古い順を辿ると1935年に制作した試作品にまで辿りつくのです。
ニュースサイト
グローバルナビゲーションの一つ、ニュースサイトです。
これまでのプレスリリースや最新情報などを一つにまとめたニュースサイトです。ポイントは「日本のニュースだけでなく、世界各地で発信された重要なニュース」を「タイル形式の表示で紹介、視覚的に探せるよう画像をつけた」こと。英語版は新gTLD移行とともに、日本語版も昨年1月から提供開始しています。
日本語についてはアーカイブがしっかりできていることに感心します。リリースの年度は18年前の2000年にまで遡って当時のリリースを全文読めます。ここまで過去のリリースアーカイブをオープンしている企業は数少ないでしょう。
開発者が語る
グローバルナビゲーション「キヤノンについて」の中の選択項目として、企業情報とともに「テクノロジー」の項目があります。
特におすすめは、「テクノロジー」の中の「開発者が語る」です。これは、技術者が製品投入までの開発秘話を語るもの。企業の「技術力」は多くが最終製品とその仕様だけで判断されますが、このサイトでは開発に携わった社員が個人名で開発に至る経緯や製品化までの率直な苦労話などをインタビュー形式で語っています。
それぞれの技術者の話は興味深く、キヤノンへの親近感が醸成されて「キヤノン・ファン」が増える好コンテンツです。どこの企業もできることではありません。自社技術への深い自信と信頼があって初めてできるコンテンツですね。
また、身近な科学のテーマを動画や実験で学ぶ『サイエンスラボ・キッズ』は夏休みの自由研究課題に重宝しそうです。
新gTLDへの移行による評価
ブランドの防衛、キヤノンとしてのまとまり、管理のし易さ、将来への布石などもありますが、なかなか目に見えた効果は説明しにくいものです。
そんな中、古山さんにとって嬉しかったのはトライベック・ブランド戦略研究所の「企業情報サイトランキング」で2014年調査(移行前)の総合ランキング32位から2017年調査(移行後)では10位になり、コンテンツ部門別でもニュースリリース部門の31位が9位に躍進したことだそうです。
ブランドイメージの向上とともに、キヤノンのグローバルサイトが外部からも評価されていることが改めて確認できたものと考えています(古山さん)。
メールアドレスにも「.canon」を採用
キヤノンは2018年8月より、メールアドレスのドメイン名をこれまでの「@canon.co.jp」から「@mail.canon」に変更しました(詳しくはこちら)。本社を皮切りに、グループ会社にも順次適用されるそうです。グループ会社や事業部が多い企業では組織が変わるとメールアドレスも変わることがありますが、「.canon」で統一できれば、「入社してからキヤノングループにいる限り生涯ひとつのアドレスをまっとうできる」ようになるかもしれません。
「20年使って来たメルアドと、メールクライアントを変更するのは大変でした」と今回のプロジェクトをこれまで強力に支えて来たM氏。長い間使っていた名前を変更するというのは心理的に抵抗があるものですが、キヤノンさんは思い切りましたね。
新gTLDへの移行は「変えるという強い意志を持つ」
これから新gTLDへの移行を考えている企業へのアドバイスを聞くと「変えるという強い意志を持ち続けること」「組織としてぶれないように、特に上司となる組織の長の支援が何よりも大切」だそうです。
でも一番求められることは「体力と忍耐力」だそうです。頷けますね。
新gTLD今後の適用計画
現在、グループ会社の公式サイト・メールアドレスの「.canon」化が徐々に進行しているようですが、最終的にはお客様に提供するサイトはすべて「.canon」に統一していくことが目標だそうです。
ただ、古山さんいわく「新gTLDへの移行は急いでいません。どのサイトも5年も経過すればリニューアルを考える時期に来ますから、そのタイミングで移行を検討していただくように説明しています。いずれにしろ長期におよぶ活動になるので、じっくり腰をすえて取り組んでまいります」とのこと。
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