稲富滋のWebマスター探訪記 稲富滋のWebマスター探訪記

おもしろいプロモーションでお馴染みのあの企業。Webサイトもスゴい!/日清食品HDの松尾さんに聞いた

日清食品グループのコーポレートサイトを見たことがありますか? すっごいユニークなんです。

まず、日清食品グループのコーポレートサイトをご覧ください。

日清食品グループのトップページ(10秒ほどのアニメーションを編集部が4場面でキャプチャ)

およそコーポレートサイトには、見えない斬新なサイトです。このサイトにリニューアルしたのは2014年。現在は10秒ほどの劇画風のアニメーションが流れ、再生すると1分半ほどのアニメーションが流れる。このアニメーションに変わったのは2016年のこと。

私たちは、日清食品グループのコーポレートサイトをわざわざ見に来てくれる人を念頭においています。

だからこそ、自分たちのアイデンティティを訴求する「ブランディングコンテンツ」をトップページで展開する方向に大きく舵を切ったのです。

と語る、日清食品ホールディングス広報部の松尾さん。

クリエイティブでユニークな企業として知られる日清食品グループ。

今度こそ売れて欲しい!! 黒歴史トリオ」といった、攻めすぎて自滅してしまった商品を逆手にとってPRしてみたり、日清ラ王のサイトを数字の羅列で作って「ラ王のサイトがバグった!」とPRしてみたり。

左:黒歴史トリオ 右:日清ラ王(編集部が画面キャプチャ)

「顧客を笑わしてなんぼ、驚かせてなんぼ」といったユニークでクリエイティブに富んだプロモーションをブランドサイトで展開している。そんな企業の総本山であるコーポレートサイトもご覧いただいたように、やっぱり斬新。

しかし、こういった斬新でクリエイティブなサイトに生まれ変わったのは2014年。それまでは、「社名を隠したらどの企業かわからないどこにでもある普通のサイトだった」と松尾さんは言います。ユニークなアイデアが企業の顔とも言えるコーポレートサイトに作用されたのか、その経緯について聞きました。

左:日清食品ホールディングス広報部 課長 松尾知直氏 右:稲富滋

4つのキーワードを基にサイトリニューアル

日清食品グループのコーポレートサイトをリニューアルするにあたって、どんなサイトを目指すべきか。たどり着いたのは日清食品グループ社員が常に意識しているという「大切な4つの思考」でした。

Creativeであれ!(日々新しいモノを創造して居るか?)Uniqueであれ!(独創性・個性をうしなっていないか?)
Happyにしろ!(我々は世界を幸せに出来ているか?)
Globalにいけ!(世界企業としての感覚を持っているか?)
日清食品グループの掲げる「大切な4つの思考」

リニューアル以前のサイトは、「ユニークさのない、ありきたりなサイトでした」という松尾さん。

盛りだくさんのトップページに意味があるのか

「当時のサイトの問題点は言葉で説明するよりも、こちらを見てもらったほうが早いと思います」と言い、見せてもらったのは日清食品グループのサイトと他社サイトを混在させた資料です。

「どれが日清食品グループのサイトかわかりますか?」と松尾さん。しかし、社名が伏せられた状態なので、どれが日清食品グループのサイトなのかわかりません

そこで、サイトをリニューアルするにあたり、次のような方針転換を図りました。

そもそも、トップページにたくさんの情報を載せる必要があるのだろうか。日清食品グループの商品は比較的安価なものが多く、その購入決定をWebサイトでするとは考えにくい。

特定の商品に関心がある人は、検索で直接商品のページに来てくれます。これはSEOをしっかりやれば済みます。私たちは、コーポレートサイトをわざわざ見に来てくれる人を念頭においています。関心のない人に無理にいろいろなものを見せようとはしていません。

だからこそ、トップページでは、我々のアイデンティティを前面に押し出しています。映像や写真に重点を置き、CMにも負けないメディア体験を提供することにしたのです。

そして完成したのが、冒頭でも紹介したこのサイト。

日清食品グループのトップページ(編集部がキャプチャ)

劇画風のアニメとラップで、即席麺誕生の物語を伝える作りとなっています。ちなみに今年度のアジア太平洋広告祭(ADFEST 2017)でFILM CRAFT LOTUS部門でシルバーを受賞しています。

「誰のためのサイトか?」9つのペルソナを定めた

方針が決まった後は、「誰のためのサイトなのか?」を明確にするために、9つのペルソナを定めて、それぞれにゴール設定を行いました。

男子高校生
男子大学生
OL
パパ
ママ
個人投資家
マスコミ
就職希望者
陸上ファン
日清食品グループが考える9つのペルソナ

コーポレートサイトだけで、9つのペルソナのニーズを満たすのではありません。ソーシャルメディアやメルマガ、他のニュースサイトなどを活用した、総力戦でペルソナのニーズを満たす設計になっています。

ペルソナとメディアの役割分担

リニューアル時の問題点

先に紹介した「サイトのデザインが他企業と差別化できていないこと」の他にも、次のような問題がありました。

  • 事業会社別にウェブサイトが複数存在しているため、探している情報が見つけづらい
  • ウェブガバナンスが徹底されていない
  • 日清食品にアクセスが集中し、グループのシナジーが発揮できていない
  • 複数のサーバーとネットワークがあり、機能・性能・セキュリティ面でバラツキがある

2008年10月、即席麺の他、チルド食品、冷凍食品、シリアル、菓子、乳酸菌飲料などを扱う事業会社を傘下に持つ、日清食品ホールディングスが誕生しました。しかし、事業会社ごとにコーポレートサイトを分割したために、グループのシナジーが発揮できておらず、アクセスもグループ全体で8割が「日清食品」に集中

たとえば、人気ブランドの「日清のどん兵衛」には、リニューアル当時、次のようなラインアップがありました。しかし、事業会社ごとに商品が掲載されて、相互リンクもありません。

利用者は「どん兵衛」ブランドの商品すべてを見ようとすれば3社のトップページから別々にたどらなければなりません。日清食品の「どん兵衛」だけを見て、「確か冷凍や生麺もあったはずだが……」と思いながらも見つからなかったり、知らずに帰ってしまっていたりしたかもしれません。

現在は、「どん兵衛」のブランドページにアクセスすれば、即席麺、生麺、冷凍を問わず、「どん兵衛」関連のCMからプレスリリースまでが一度に閲覧できます。ちなみに「どん兵衛」には詰め替え用(リフィル)があることもわかりました(笑)。

重複コンテンツの削除とコンテンツの全面リニューアル

前述した課題に対して、重複しているコンテンツの削除を行いました。

先に紹介した「ペルソナのニーズを満たしているか」や「アクセス数」、「更新頻度」などの判断基準を設けて、コンテンツを全面的に見直ししたのです。

とはいうものの、そうした動きを進めようとすると、「とりあえずこのコンテンツは置いておこう」という声があがるものです。それに対して、松尾さんは次のように事業会社の担当者を説得したそうです。

現実社会でも荷物が多い場合は、引っ越しの費用が増えます。Webサイトでも同じ。引っ越し費用を安く、維持するコストを減らすために断捨離をしましょう(松尾さん)。

稲富コメント

コンテンツは作るときよりも捨てる方が難しいもの。特にブランドや事業部でも前任者(だいたいが先輩社員)の肝いりで作ったコンテンツはなかなか捨てられないものです。断捨離の基準を明示的に伝えることが大切です。

アクセス状況は重要な基準となりますが、重要なのは大小を問わず直近までの更新頻度です。「やめたくても先輩社員への気兼ねからやめられなかった」と喜ぶ事業部もあるかもしれませんね(笑)。

商品ビジュアルの統一

コンテンツをリニューアルするに当たって、苦労したことは「商品画像の統一」でした。

リニューアル前は、商品画像を各事業会社で別々に制作。画像の大きさ、質、撮影角度などもまちまち。特徴ある容器の形状も伝わってこない、容器サイズが違うはずなのにわかりづらかったそうです。

カップヌードルのカップ麺一覧(編集部が画面キャプチャ)

現在はパッケージの形状ごとにベストアングルを設定。新製品の発表前に画像の版下はすべて広報に集められ、CGで再作成されます。これはリニューアルのためだけに行ったことではありません。グループ会社を横断して、継続的に画像データを管理していく仕組みを整えたのです。いわゆる「アセット管理」ですね。

商品点数は全部で500点あまり。そのうち300種類ほどあるカップ麺は毎年80%が新製品に置き換わるそうです。日々生まれるグループ会社の商品画像データを、発売日以前に集めて、最適な見せ方で管理する体制がリニューアルを機にできあがりました。

稲富コメント

「ビジュアル素材を管理する」言うのは簡単ですが、いざ実行となるとなかなか難しい企業が多いでしょう。商品に思い入れがある事業部はなかなか手放したがらないのが一般的です。

「Webの利用者にどう画像を見せるのが最適か」を考えるのは、Webのプロに任せるというグループ内の割り切りがきちんとできて初めて実現できることです。この体制が整っていることは大いに「自慢」できることです。

製品情報の開示レベルの統一

製品情報の開示レベルの不統一もガバナンス上の問題でした。

日清食品ホールディングス傘下の企業とはいえ、それぞれが独立した事業会社です。グループ内に製品情報に関する開示のガイドラインはあったものの、最終的なアウトプットは「各企業にお任せ」でした。しかし、リニューアルを機に、「製品に関してどんな情報を、どのくらい出すのか」という基準をグループで整えました。

現在の製品情報サイトには、専門家であっても、一般消費者であっても、興味を持つ人にとっては必要十分な情報を掲載しています。全商品の製品情報を詳しく公開する、この姿勢が「日清食品グループ」の企業ブランドの価値を高める一翼を担っています。

カップヌードルの製品表示(編集部がキャプチャと画像処理)
稲富コメント

私は製品情報の塩分と糖質をチェックしますが、アレルギー物質、原産地表示などを気にかける消費者も増えています。

日清食品グループのサイトでは、商品画像から、特徴、すべての原材料名、発売地域、成分表、アレルゲン、原産地情報から関連ニュース、CMまで製品に対する利用者の興味の度合いに応じてすべて提供されています。しかも事業会社の垣根を超えて500以上の商品のすべてで、実施されています。これを実現するのは大変なことです。

リニューアルを加速させた「nissin.com」ドメインの取得

ドメイン名も各社バラバラで覚えづらいものでしたが、リニューアルを機に「nissin.com」を取得。これによって、各社のURLは複雑で不揃いという状況が一変したのです。

「nissin.comが使えるようになったから」といううたい文句で、リニューアルをグループ企業全体で取り組む動機付けとなりました。

リニューアルの成果

リニューアル後、次のような成果があったと松尾さんは言います。

  • サイト全体のページビュー数は約10%増加(ページ数は減ったが、PV数は増加している)
  • ページごとの直帰率が低減し、1セッションあたりのページビュー数が増加(サイト内での回遊を促進できている)
  • 日清食品以外の会社に関する情報は、サイト内でのインプレッション数が大幅に増加(チルド・冷凍は200%以上、菓子・飲料も120~150%)

リニューアル後のニュース(プレスリリースなど)は、商品、事業会社に関係なく時系列に並んでいます。このサイトを見れば日清食品グループの社外向けの情報がすべてわかります。

驚くべきは、サイト内検索やページの表示速度です。これは、ぜひ体感してもらいたい速さ。松尾さんいわく、注目してもらいたいポイントの1つだそう。

日清食品グループのニュース一覧(編集部がキャプチャ)

リニューアルを機に加わった、おもしろい取り組みをもう1つ紹介します。それは、製品情報のブランド一覧です。

日清食品グループのブランド一覧(編集部がキャプチャ)

このページに表示されるブランドの並び順は、前日のアクセス数によって自動的に変更されます。ブランドのキャンペーン、メルマガ、CMなど、マーケティング努力の結果がコーポレートサイトでのブランド序列になるわけです。日清食品グループらしいユニークな取り組みですね。

コーポレートサイトの今後

「せっかくコーポレートサイトに来てくれた人には、より快適なWebのおもてなしを経験していただくための努力を続けます」という松尾さん。たとえば、サイト内の検索窓で、検索されて見つからなかったワードを日々チェックして、その原因究明と対策を講じています。

また今後はオンラインストアにも力を入れていきたいとのこと。メーカー直営というメリットを生かして、顧客満足度を上げるツールとして利用しています。

現時点でも、たとえば

  • 発表前の新商品を限定で購入できる「Flying Get
  • 旧パッケージ品や賞味期限が近づいた商品の「アウトレットセール
  • 親元を離れて遠隔地で学ぶ学生のための「仕送りセット」(これは配送先が遠くなればなるほど値引きされます。さっそく知り合いの学生に送ってみました)

など日清食品グループらしいユニークで果敢なアイデアがすでに溢れています。

松尾さん

最後に

来年創業60年を迎える日清食品ではコミックの社史を発刊する予定。その一環として、予告編とも言える劇画調のアニメーションをいきなり画面いっぱいに、映し出しているそうです。コーポレートサイトのイントロとしてかなりのインパクトです。

しかし、フッターにある見慣れたタブ項目を見つけてからは快適そのもの。他企業サイトで見慣れたコーポレートサイトと比べるとたいへんスッキリとした構造になっています。

せっかく目的を持って来てくれる利用者にはふさわしい別の「おもてなし」が提供されています。それが目的の情報を探しやすく、快適な表示スピードです。このような割り切りのできるところが日清食品グループ。

ちなみに日清食品ホールディングスのコーポレートサイトに関わる社員は松尾さんともう1人の2名だけ。これも驚きですね。

最後に紹介したいのが、松尾さんにいただいた日清食品ホールディングスの名刺。

名刺

社内では「コストがかかるのに…」という反対の声もあったようですが、作ってみると初めて会う人との会話のとっかかりとして抜群だとか。ここまでアイデアに富み、あっと驚く仕掛け満載だと、日清食品のファンのみならずとも、ついつい小売店で日清食品の商品を手にとってしまいそうですね(笑)。

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