ポーラ美術館、西日本旅客鉄道、日清食品が明かすサイト制作・リニューアルの秘訣/第2回Webグランプリフォーラム 後編
「第2回Webグランプリ」を受賞した各社が、リニューアルやコンテンツ制作の舞台裏を明かす、Webグランプリフォーラム。この記事では、講演で語られたポーラ美術館、西日本旅客鉄道、日清食品ホールディングスの事例をお届けする。
※編注 本年度の「2015 Webグランプリ」贈賞式は12月3日に開催される。
美術館らしくビジュアルを大胆に活用、行ってみたいと思わせる感情を動かすサイトへ
神奈川県箱根町にあるポーラ美術館は、印象派を中心に絵画、ガラス工芸、化粧道具など9,500点におよぶ美術作品を収蔵しており、このコレクションは、質・量ともに日本最大級を誇る。また、「箱根の自然と美術との共生」をコンセプトに設計され、建物のほとんどを地下におき、周囲の景観を損ねないように配慮していることも大きな特長だ。
「美術」と「箱根」の2つが入り口になる美術館だと説明を続ける中西氏は、来館者には「美術が好きでポーラ美術館を訪れる場合」と「箱根への観光のなかでポーラ美術館を知る場合」の2つがあり、「美術」「箱根」の2点について訴求していく必要があると話す。
リニューアル企画段階では、この2点を十分に訴求しておらず、日本で有数の美術館でありながら、「本格的な美術館ではない」「入館料が高い」といった印象を持たれていたほか、以下のような課題があったという。
これらの課題を解決するため、リニューアルはサイトコンセプトを「日本一美しい美術館でリフレッシュしたい!」として、「展覧会・コレクションの質」「豊かな自然環境」「建物の美しさ」を伝えられるサイトにすることを目指した。コンセプトを明確にすることで、ポーラ美術館のスタッフ、エージェント、制作のメンバーとの意識の共有に役立ったと中西氏は説明する。
公式サイトの役割として「集客への貢献」「美術への興味・関心を高める情報発信を行うことによるロイヤルカスタマーの育成」「顧客との関係強化」の3つを挙げる中西氏は、サイトリニューアル時に特に課題とした、情報設計、検索エンジン最適化、ブランドイメージに適合するデザインという3つのポイントについて述べる。
- 情報設計
アクセスするユーザーの目的を予測してサイトのカテゴリを整理することで、従来11あったグローバルナビゲーションを5つにし、伝えたい情報をシンプルに訴求。9,500点のコレクションをカテゴリ別にメニュー化して、訴求したい重要な作品を押し出す形に変更した。
また、コレクションの内容をよりわかりやすく伝えるため、「モネ」「ルノワール」「ピカソ」「藤田嗣治」「杉山寧」などのポーラ美術館で特にコレクションが充実している画家のコレクションハイライトを作った。また絵画、工芸など多岐にわたるコレクションをジャンル別で紹介し、大分類から中分類へとドリルダウンできる設計とした。これらのコレクションページは、館内の作品データベースと接続させることで、リニューアル前より多くの作品を紹介できるようにしている。
- 検索エンジン最適化
日本で人気の有名画家のコンテンツを充実させることで、検索エンジン流入を強化した。その結果、検索キーワードの上位に画家名などが入ってくるようになったという。この他、実施中の企画展やイベントが簡単にわかる展示中の収蔵作品一覧も設けた。
現在は、企画展やコレクションハイライトなど、ポーラ美術館が見せたいページのダイレクトなアクセスが増え、入り口ページがトップページになる割合がリニューアル前と比べ24%減少した。検索流入の割合が伸びたために、サイト全体のアクセス数も増加している。
- ブランドイメージに適合するデザイン
まず、ポーラ美術館のブランドイメージを再考するためにWeb上のクチコミを調べ、テキストマイニングで可視化していった。その結果、「綺麗」「素敵」「印象派コレクションが充実」といったポジティブなキーワードがある一方、「入館料が高い」といったネガティブなキーワードもあったという。
海外の美術館を参考にビジュアルを効果的に活用
美術館のWebサイトとして、見た人の感情を動かして、行ってみたいと思わせることが重要だと説明する中西氏は、視覚的な芸術を扱う施設として、ビジュアルを効果的に使うことが大きな課題だったと説明する。そこで、海外の美術館「ルイジアナ美術館」や「メニル・コレクション」のサイトなどを参考に、豊かな自然と充実したコレクションの収蔵をアピールするためのイメージを制作会社と共有した。特に余白の使い方や、ビジュアルの大胆な活用が参考になったという。
また、ポーラ美術館の特徴的な建物を、テキストだけでなくスライドショーやムービーで表現し、トップページに置かれたイントロダクションムービーの視聴回数は5万回を超えているという。さらにリニューアルによって、自然に関するクチコミが増加し、入館料が高いというクチコミは減少した。
Webグランプリの審査員評では、「美術館らしいビジュアルの効果的な使い方ができている」「全体を通してどのような美術館かが伝わる」「シンプルでわかりやすい」と、リニューアルの企画段階での目標が評価されたと中西氏は話す。
一方で「敷居の高さを超える情報や仕掛けがほしい」といった評価に触れ、今後は用語解説や観光情報を盛り込み、モバイル対応も行っていきたいと話し、企画展のスペシャルサイトからモバイル対応を行っていることを最後に明かした。
北陸新幹線スペシャルサイトは、顧客・地域・旅行会社と連携してプロモーションを展開
「北陸新幹線スペシャルサイト」は、2015年3月14日の北陸新幹線開業の前に、北陸新幹線の認知度向上を目的として開設された特設サイトだ。サイトのコンテンツは、地域ごとのユーザーがどのような情報を求めているのかを意識して制作されている。
たとえば、関西の人にとって北陸新幹線は特急サンダーバードを使って金沢まで行かないと乗れないが、金沢から北陸新幹線を利用すれば、これまで縁の薄かった長野や軽井沢といった観光地により便利にアクセスできるようになり、これまでより興味を持ってもらえることになる。また、小菅氏は、営業本部で、WebだけでなくテレビCMなどのマスメディアからノベルティグッズ制作まで、さまざまな手法で北陸新幹線をアピールしている。
北陸新幹線のアピールは、既存のWebサイトの一部として展開するのではなく、独立したスペシャルサイトとして展開することが重要だと考えられた。Webの特性を活かし、マス媒体や交通広告を補完することを基本的な位置づけとしている。
サイトの中心となるコンテンツは2つ、「北陸新幹線の基本情報(ダイヤ・価格・車両)」と「北陸エリアの観光情報(北陸エリア情報+新たな観光ルート)」を制作することを決めた。
スペシャルサイトの運営方針として、新幹線の基本情報や北陸エリアの観光情報を「タイムリー」に、居住「エリア」を意識しながら広範囲に告知することが考慮された。また、企業が一方的に情報発信するのではなく、顧客や地元と「双方向」で連携しながら、コンテンツを拡充していくことも考えられた。
北陸新幹線スペシャルサイトの「トップページ」では、W7系の車両を大きくデザインし、開業前には、開業までのカウントダウンボードも設置された。「北陸新幹線について」では、路線図や停車駅の案内、グランクラスの紹介などが示されている。
「運賃・料金・時刻表」では、運賃や特別企画商品を考えるグループや、地元との関わりの深い金沢支社と連携し、一体となって進めたことでタイムリーに情報を提供できたと小菅氏は話す。
また、スペシャルドキュメント動画として、W7系の車両の神戸から金沢への輸送を追いかけた動画、試験走行や歓迎式典の動画などがコンテンツとして公開されている。
地元住民とも協力した4者連携のプロモーション
西日本旅客鉄道(JR西日本)では、従来から自社だけがプロモーションを行うのではなく、他者と連携して相乗効果が生まれるように、「JR西日本」「地域」「旅行会社」の3者が連携する取り組みを行ってきた。
たとえば、ダイヤ改正で首都圏から中国地方への移動時間が短縮された際にスタートした「DISCOVER WEST」キャンペーンでは、地域と一体となった観光整備とプロモーションを行い、首都圏から中国地方への旅行者数が1万人前後から40万人を超えるまでになったという。
最近では、さらに顧客を加えた4者の連携として、大学生が現地体験を通じて情報発信や旅行提案を行う「北陸カレッジ」や「ユニバーシティ・カレッジ南九州」も展開している。ここでは、マス媒体からWebサイトに流入する従来のクロスメディア展開ではなく、カレッジプロジェクトWebサイトの情報発信がマス媒体などに拡大していくメディア展開が見られたという。
北陸新幹線スペシャルサイトでも、このような顧客を含む4者の連携が行われており、「みんなでつくる新北陸マガジン」では、顧客のクチコミをメインのコンテンツとして、「自然」「グルメ」「伝統芸能」「温泉」「おもてなし」の5つのカテゴリでコンテンツを作成している。会員アンケートによって、コンテンツを出し分けてメールマガジンを発行することで、メールマガジンの開封率とPVの向上に貢献しているという。
また、新北陸マガジンでは、「みんなの口コミ」や、地元の観光情報を伝える「地元アイ!」、地元小学生制作のわが町自慢ポスターや地元の隠れたスターを紹介する「新!北陸わがまちプロジェクト」などのコンテンツも提供している。
北陸新幹線スペシャルサイトのアクセス数は、昨年から徐々に伸ばしており、開業直前の3月のアクセス数は注目度が高いこともあり、2014年10月と比較して15倍に増加したという。
今年度は、さらなる観光需要の創出に向けて、地元との連携を強化して情報発信をしていくほか、CRM施策として「JRおでかけネット」の100万人を超える会員へのメルマガ訴求などを基本に、サイトのユーザーにアプローチしていく方針だ。加えて小菅氏は、「マイ・フェイバリット北陸」などの自社媒体のほか、他媒体との相互連携にも取り組み、より多くの人にアプローチしていきたいと話した。
日清食品グループ7つのサイトを統合、9つのペルソナをもとに分散したブランドを1つに
2014年4月、約1年のプロジェクト期間を経てリニューアルした「日清食品グループサイト」は、日清食品グループ各社の情報を統合したコーポレートサイト。
それまで、日清食品グループのWebサイトは、2008年10月に持ち株会社制へ移行し、日清食品ホールディングスのもとに各事業会社が入る体制となった経緯から、それぞれが独立してサイトを立ち上げ、情報発信やコミュニケーションを行ってきた。しかし、長年にわたり各社が運用するなかで、さまざまな課題が出てきたと松尾氏は説明する。
- 探している情報が見つけづらい
- Webガバナンスが徹底されていない
- デザインが他企業と差別化できていない
- グループのシナジーが発揮できない
- 機能、性能、セキュリティにバラつきがある
まず問題として挙げられたのが、事業会社のサイトの数だけドメインがあり、サイトのURLが覚えにくい点だ。各社が似たような社名とコーポレートマークを使っているため、顧客はグループ会社の違いを厳密に認識しておらず、そもそも顧客が違いを理解する必要もないと松尾氏は話す。また、同じブランドの製品情報が複数のサイトに分散されていて、情報が見つけづらいという課題もあった。
ガバナンスの問題では、製品写真のクオリティの問題が挙げられる。写真のクオリティが低く、CGと写真素材が混在し、画角も統一されていなかったため、製品サイズの違いが直感的にわからない状態だったという。また、ターゲットが曖昧な広く浅いコンテンツが多く、複数のサイトでコンテンツの類似や重複が目立っていたことも課題だった。
グループ会社のサイトのデザインが似通っており、他社サイトも含め、差別化できていないという課題もあった。日本の企業サイトのデザインは、サイトの左上にロゴがあり、中央にはブランディングのメインビジュアル、その下に細かな情報のテキストや関連サイトのリンクバナーが並ぶといったパターンが多い。選択肢の多い足し算のナビゲーションであり、日清食品グループも同様で差別化ができていなかったが、グループの統一性といった制約もあり、各担当者がリニューアルに必要性を感じていても身動きが取れなかったという。
加えて、各社がサイトを運営するにもかかわらず、アクセスの8割が日清食品のWebサイトに集中しており、グループのシナジーを発揮できていないことも課題だった。
9人のペルソナとゴールを設定し、コミュニケーションを再定義
これらの課題に対して、日清食品グループではまずドメイン統合を考えたが、これまで自由にできていたことが制限されるという心理的な障壁もあり、非常に苦労したと松尾氏は話す。しかし、「nissin.com」というシンプルなドメイン名を取得することで、グループのサイトを統合するという意識が明確となり、関係者の意識共有がスムーズになったという。
プロジェクトの初期段階では、過去のアクセスログデータを洗い出し、Webサイト利用者のペルソナを設定した。「どのような人が」「どのような環境で」「どんな情報を求めているか」を明確にし、グループサイトのターゲットを絞り込んでいったのだ。
ターゲットを絞り込まずに、間口を広くする方が楽だが、コーポレートサイトを利用する人には目的があることが多いため、ターゲットによってアプローチを変えることが重要(松尾氏)
続いて、利用者に伝えるべきイメージの整理を行い、大切な4つの思考として。「Creative」「Unique」「Happy」「Global」を掲げた。日清食品グループとして、Webに限らず、通常業務の行動においても4つの視点に合致しているか、常に考えるようにしている。
また、アップル、ナイキ、ザラなどの先進的グローバル企業のサイトを参考に、質の高いビジュアルで企業のイメージを伝えることを考え、4つの思考を表現することを目指した。具体的には、映像や写真に重点を置き、さまざまな言語の音声でカウントアップする5秒程度の映像をランダムに表示させ、アクセスするたびに異なる映像体験をしてもらえるようにした。これらには、日清食品がグローバル企業だとアピールする狙いもある。
製品写真の課題に対しては、パッケージの形状ごとに最適なアングルを設定し、すべての製品画像をCGで再作成して統一感を出した。
コンテンツは、「残すかどうか迷ったものはまず捨てる」という考えから、以前の半分程度まで減らすことを目標に整理された。まず、メニューをペルソナにとってわかりやすい8つのリンクとして再構成したほか、ブランディングコンテンツで示したいメッセージは、すべてトップページで表示される映像に集約させ、創業者のメッセージや沿革、理念といった文字で伝える情報もなるべくコンパクトにし、ビジュアルを中心に紹介するようにしている。
7つの事業会社のサイトを、1つのグループサイトにまとめる上で、重複するコンテンツのスリム化も行われた。たとえば、カップ麺、チルド、冷凍の3種類のコンテンツが分散していた「どん兵衛」は、1つのブランドページにまとめられた。
また、ニュースは会社やジャンルを問わずにまとめて掲載して一覧できるようにした。同様に異なるカテゴリのブランドも、事業会社に関係なく、ブランドページに一覧で掲載している。
こうして統合された日清食品グループサイトは、ページ数を削減したにもかかわらず、直帰率が低下したことで1セッションあたりのPV数が増加し、サイト全体のPV数も約10%増となった。
また、従来は日清食品のサイトにアクセスが集中していたが、各社コンテンツのインプレッション数が大幅に増加しており、チルド・冷凍は200%以上、菓子・飲料は120~150%に達している。
7つのサイトを統合してコンテンツを整理したため、あまりPV数の伸びは期待していなかったが、1つのアクセスが次につながっていく、日清食品グループとしてWebサイトのシナジーを発揮するというプロジェクトの大きな目標が達成できた。回遊が促進されていることが数字に出ており、我々にとって非常に嬉しいこと(松尾氏)
Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:
「Webグランプリ受賞9社に学ぶサイト制作・リニューアルの秘訣、第2回Webグランプリフォーラム」 2015年4月28日開催 Webグランプリフォーラムレポート(3)(2015/06/10)
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