グーグル右広告枠廃止で、リスティング担当者とSEO担当者が今考えなければいけないこと
グーグルが、PC(デスクトップ)のWeb検索結果ページで、右側の広告枠を廃止した。
2月20日に始まったこの変化は、どんなものなのか。検索連動型広告の出稿には、現時点でどんな影響があり、今後どんな影響が起こりえるのか。SEOにも関係があるのか。そして、企業のリスティング広告担当者はどんな施策をとるべきなのか。
アイレップの芝野徹也氏に、詳細を聞いた。
グーグルの意図は「スマートフォンでもPCでも同一の検索結果UXに」か
――グーグルの検索結果から、右側の広告枠が消えましたね。
グーグルのPCにおける検索結果画面において、従来は上下枠と右枠がありましたが、その右枠の広告掲載枠が廃止されました(下図)。
同時に、これまで3枠だった上部の広告枠が1枠増えて4枠になりました。
例外的に、商品リスト広告(PLA:Product Listing Ads)や、Hotel Price Adsなどのナレッジグラフ内の広告は、引き続き右枠と上部枠にも掲載され、今回の変更の影響は受けていません。しかし、通常の検索連動型のテキスト広告は例外なく変更の影響を受けています。
現時点では、日本のグーグルから本件に関する公式コメントは出ていませんが、今回の変更は時系列的には次のようなものでした。
2016年2月20日(日本時間) ―― 米Search Engine Landが、この仕様変更に関する情報を掲載しました。日本でも、一定の割合で右枠の掲載枠が表示されない状態になっていたことを確認しました。ただし、この時点では、以前のように右側広告枠が表示される環境もありました。
22日の夜から23日未明 ―― この時期に、変更が一気に広がったようです。新しいルールが適用されるブラウザが一気に増え、ほぼすべての環境で検索結果の表示が切り替わったとみています。
日本のグーグルでも、この変更が行われるだろうという情報は伝わっていて、日本での影響範囲についてのアナウンスやアクションも想定はしていたようです。
ただ、先にSearch Engine Landからのリークがあり、また同時に変更も適用されてしまったため、その大きな反響のなかでオフィシャルコメントを出すタイミングが難しくなってしまったのだろうと推察しています。
最初の変化は土曜日で、その後週末にかけての動きでしたから、週末にあわただしく情報を調べた方も多かったのではないでしょうか。
――広告主の反応はどうでしたか? 混乱はありましたか?
クライアントさまからの問い合わせは、かなりありました。なかでも、
この変更によって、PCでの集客が難しくなるのではないか
という、不安を伴ったコメントが多く寄せられました。
アイレップでは、まず全アカウントで、上部枠・右枠それぞれの掲載が現在どれだけあり、それぞれにどんな影響が出ているかを調べたうえで、次のようなことを検討してお伝えしました。
これまで右枠で4位以下だったものは、掲載順位を上げるために入札強化しなければならないのか。
それとも、別の媒体機能をフル活用することで、集客の効率を維持・改善することが可能なのか。
仮に、上位表示を取りにいくために入札を強化するとしたら、どのキーワードから実施すべきか
――グーグルは、どういった意図でこの変更を加えたと考えますか?
グーグルの考え方として、「PCとスマートフォンで何か異なることをする」というものはありません。広告においてもオーガニックにおいても変わらないグーグルのスタンスです。従って、PCでもスマートフォンでも同一のUXを提供したかったのではないかと、私は考えていますし、実際に多くの人がそのようにコメントしましたよね。
とはいえ、UX統一だけを純粋に狙った変更なのかというと、それはそうとは言い切れないでしょう。
広告枠数は減らしましたが、この変更によりグーグルに入る収益は上がっていくと考えるのが自然です。少なくともグーグルは「UXが高まればAdWordsの売り上げを減らしてもいい」と考えてはいないと思います。
広告表示が9%減少、クリックも5~7%減少
右広告枠はもともと弱かったので影響は限定的
――この変更は、広告主にとって良いことなのでしょうか、悪いことなのでしょうか。また、現在までにわかっている影響を教えてください。
広告主という観点でみて、この変更がプラスに働くのか、マイナスに働くのかについては、もう少し慎重に情勢を見守る必要があるでしょう。
端的にいえば、得する人とそうでない人に分かれてくる可能性もあると考えています。
アイレップが管理している数千アカウントで20日(変更前)と23日(変更後)を見比べると、やはり影響は出ていました。
もちろんアカウントによっても異なるのですが、おおよそでいうと、検索におけるインプレッション数(広告表示回数)が9%ほどの減少、クリックやコンバージョン数は5~7%ほどの減少でした。
ただ、そうしたデータを報告したときの広告主の反応は厳しいものではなく、「影響はたしかに小さくはないけれども、逆にその程度で済んではいるのはよかった
」とほっとされるケースのほうが多かった印象です。
やはり最初に目にしたり耳にしたりしたニュースの衝撃が想定以上に大きかったようですね。
また、変更前後のデータをキーワードごとにみると、さらに印象が違ってきます。というのも、検索ボリュームが非常に多いキーワードを除けば、もともと4位以下はインプレッション回数が少なく、またクリック率も低かったからです。今回の変更の前後で比較しても、影響はさほど顕著にはみられていません。
そういった意味では、右枠はもともと相対的に弱い広告スペースだったといえます。
――全体傾向としては、影響は軽微だったと考えていいのでしょうか?
一般的に考えると、上枠の3位、あるいは4位に入るための競争は激化するわけですから、今後はCPCが高騰する可能性はあるでしょう。
実際に、変更後の一週間ほどはCPCが高騰していました。広告掲載を担保するために安全策として入札を強化する広告主がいたからでしょう。
しかしこれは永遠に上がり続ける類のものではありません。入札を強化するといっても、これまでのビジネスのルールが変わるわけではないので、変動幅はあくまでビジネスで許容されるレベルに留まるでしょう。
今後の対策は「上位4位にクリックが集中していくこと」を前提に
――今後の影響と、広告担当者が直近で取るべき施策について教えてください。
グーグルがルールを変えてしまいましたので、以前の状態に戻ることはありません。新しいルールで、これまでの成果をいかにして継続するか、また増やしていけるかを考えることが重要です。
特に気を付けるべきは、量販店型のECサイトです。同じ商品の取り扱い先が複数存在するような、競合性の高いビジネスは影響が大きくなります。不動産、人材なども該当するでしょう。
ビジネスの方針によって、大きく2つの施策が取れると考えています。「機会拡大を狙う攻めの施策」と「成果維持を目標とする守りの施策」です。
機会拡大を狙う攻めの施策
右枠が廃止されたことにより、今後は、上位4位までの広告にクリックが集中する可能性があります。そのため、うまくやれば集客増につなげられます。
その手法としては、次のようなものが考えられます。
サイトリンク・コールアウト・スニペットなどの広告表示オプションを駆使し、占有面積を高めるという手法はオススメです。サイトリンクとコールアウトを8本以上掲載すれば、表示面積が上がるため、CTRが上がる可能性があります。
検索広告向けリマーケティング(RLSA)を活用する施策も有効です。CPAの高いキーワードに対して、訪問ユーザーやフォーム到達ユーザーのみ絞り込んで上位表示させるように入札を強化するといいでしょう。
曜日や時間帯、エリアなど、獲得見込みのあるターゲティングだけ上位表示させる入札強化施策なども攻めの施策の一手となり得るでしょう。
検索連動型のテキスト広告が右枠に掲載されなくなったことで、商品リスト広告や、Hotel Price Adsなどのナレッジパネル内に掲載される広告の相対価値は上昇します。これらの広告はもちろん、CriteoやGDRなどを併用するのもお勧めです。
成果維持を目標とする守りの施策
上位4位までのクリックが増加するということは、5位以下のクリック数は低下することが想定されます。キーワードごとの成果を確認し、CPA許容範囲内であれば、入札を強化するのも一手でしょう。
そのためには、媒体評価アルゴリズムを意識してアカウントを最適化することで、低いCPCでも上位表示掲載を目指すことが大切になるでしょう。
また、今回の変更により同業他社の順位状況が大きく変わる可能性もあります。メインキーワードをオークション分析レポートでモニタリングし、適切な入札を実施することが重要です。
いずれの場合も、キーワードによって入札強度を変えるなど、今まで以上に細かな運用が重要になってきます。
全体の入札強化も必要ですが、一律に入札額を高くするのではなく、訪問ユーザーや到達ユーザーを考慮して入札を強化していくべきです。自分たちのビジネスに適合する入札を見極め、複数の施策を併用することが、あらゆる想定事象への対応策となるでしょう。
――SEOについては何か変わるのでしょうか?
変わります! まず、今回の変更によって、オーガニック検索結果がファーストビューに表示されなくなるケースが多くなってきます。それによって、検索結果からのクリックにおいて、広告とオーガニックのバランスは明らかに変化します。
ただし、だからといって検索結果ページが広告一辺倒になり、オーガニック対策をする意味がなくなるというわけではありません。新しい画面で、どの位置にオーガニック検索結果が出るかということが、企業にとってますます重要になってくると解釈するほうがいいでしょう。
広告色が強くなる一方で、グーグルは検索品質評価ガイドラインを公開するなど、SEOの重要性も引き続き説いています。グーグルは今もコンテンツのクオリティは重視しているのです。ですから、ユーザーにとって有益なコンテンツを拡充していくコンテンツマーケティングの重要性は益々高まっています。
また、構造化スニペットなどを用いて検索結果画面における占有面積を上げるためには、オーガニックの掲載順位がこれまで以上に重要になってくることも意味しています。
あなたのビジネスも、すでにスマホに大きくシフトしている
――リスティング広告は今後どうなるのでしょう?
最近、「サーチはもう伸びていない市場なのでは」という声を耳にすることがありますが、これは誤りです。ここは業界の方でも勘違いしていることがあるので、きちんと説明しておきたい点です。
「サーチは伸びていない」というのは、一部の媒体が開示した情報がもとになっているのですが、グーグルを中心としたマーケット全体としてはまったく逆なのです。つまり、全プロダクトの中でサーチが一番伸びています。
グーグルが今回行った変更も、「よりUXを改善し、更なるエクスペリエンスの向上に伴い市場をより大きくしていこう」という背景があると受け止めるのがいいと思います。
広告主の皆さまも、この変更を適切に活かせば、デメリットではなく、プラスに転換できると思っていただいて大丈夫です。
今回の変更は、Search Engine Landによる突然のリークから発覚したので確かに反響も大きかったのは確かですし、私たちも対応に動きました。しかし、実は私自身もアイレップの仲間たちもあまり驚いてはいませんでした。2013年のエンハンストキャンペーンから大きな流れは感じていましたので、「ついに来るべきときが来たか」くらいの気持ちでした。
これまでは、PCとスマートフォンでの広告掲載枠の出方が異なったので管理時にPCを軸にするかスマートフォンを軸にするかで考え方を変える必要がありました。しかし、今回の変更により、少なくともグーグルの管理画面に関しては、PCもスマートフォンも同じ論理で考えればよくなりました。
実はこの点こそが、今回の変更で最も大きなものだと考えていいのではないでしょうか。そして、この動きは、先ほども触れたように、エンハンストキャンペーンから続く、グーグルの一貫した方向性です。
それからもう1つ、今回とてもおもしろい発見がありました。それは、
お客さまが、自身のビジネスがスマートフォンにシフトしていることに気付いていない
ということです。これは、お客さまの問い合わせを多く受けて気付かされたことです。
アイレップのお客さまは、グーグルでいうと7:3の割合でスマホ経由の集客にシフトしています。これは、スマホシフトというより、スマホメインだといってもいい割合です。
そのように「実際はスマートフォンがメインリーチになっている」にもかかわらず、それに気付いておらず、今回のPC側にしか影響しない変更を、恐ろしく大きな機会損失につながる事件だと直感的に思ってしまった広告主さまが多くいらっしゃいました。
サーチ広告の主流軸はすでに、スマートフォンに移っています。となれば、むしろ今回の変更のようにスマートフォンに適合した広告のほうが良いのは自然の流れだといえます。
――ユーザーのスマホシフトがそこまで進んでいたのですね。
かつてスマホはPCに比べて少ない情報量しか表示できず、ユーザビリティが低いと言われていました。「スマホだとコンバージョンしない」「スマホはPCより劣るもの」と言われていたのです。
しかし今では、スマホでもコンバージョンするようになっており、むしろコンバージョンの多くがスマホからになっています。これはほぼすべての業種において共通の傾向です。
繰り返しますが、スマホシフトは、スマホがメインストリームだといえるところまで来ているのです。
この流れは、グーグルの広告まわりだけではありません。SEOにおけるAMPやApp Indexingなどの実施からも読み取ることができます。
スマホメインとなる、今まさに私たちはその入り口に立っているといえます。
最後に、今回はグーグルの変更の話でしたが、日本にはYahoo! JAPANというもう1つの大きなプラットフォームがあることを忘れてはいけません。
Yahoo! JAPANにはグーグルとは異なる独自のサーチの戦略があります。1つの物差しでみるのではなく、今後ますますグーグルとYahoo! JAPANそれぞれ向けの運用戦略が必要とされていくでしょう。
グーグルもYahoo! JAPANも、日々変化しています。グーグルとYahoo! JAPANを大雑把に一括りのものと捉えるのではなく、個々のプラットフォームに向き合っていく重要性が高まっています。
今回のような変更は今後もありうることです。この変化に柔軟に向き合うことで、ユーザーにとっても広告主にとっても新たなサーチの世界が拡がっていると思います。
「Search is not dead」ということです。
芝野徹也(しばのてつや)氏
株式会社アイレップ 執行役員 第1メディアマネジメント本部 本部長
大学卒業後、前職を経て、2006年にアイレップ入社。SEMコンサルタントとして、中小企業から大手企業まで幅広くSEM案件を担当。
リスティング広告プラットフォーム変革時(Panama、Ver. 3など)は、オペレーション標準策定・業務システムなどを構築した。
2012年、アイレップ子会社のロカリオ設立に参画し、2014年よりアイレップ執行役員就任。アドテクノロジーを活用した広告運用施策とR&Dを率いるエヴァンジェリストとして、広告運用戦略を一手に統括する。
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